表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下の階にはツキノワグマが住んでいる  作者: 鞠目
はじめましての一年目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/43

物足りない冬

「物足りない……」

 まただ。また言ってしまった。日曜日の昼下がり、コンビニで買ったプリンを食べていたら独り言が口から出てきた。

 プリンが美味しくない訳ではない。十分美味しい。でもなにか物足りない。その何かの正体は既にわかっている。わかっていてもこればかりはどうしようもない。

 せっかくの休みなのに家にいてもなんだか落ち着かない。悩んだ結果、私はコートを羽織ると家を出た。もちろんクマにもらったマフラーも巻いて。

 マンションの階段を降りるとクマの家が見えた。ドアには『冬眠中』と書かれた看板がかかっている。クマが冬眠すると言った翌日からドアにぶら下がっている看板。よくお店の入り口で見かける『営業中』とか、『準備中』の看板みたいだ。

「いってきます」

 私は看板に向かってぼそりと言うと散歩に出かけた。


 今日はどこに行こうかしら。あてもなくふらふらと歩く。

 こないだ隣町の手作りマーケットに行ってきた。クマが日付を間違えたあの手作りマーケットが12月にもあったのだ。

 公園の中には屋台やキッチンカー、レジャーシートを広げたお店がたくさんあった。

 しば犬の焼き芋屋さん、ゾウのインドカレー屋さん、髭を伸ばしたおじいさんの雑貨屋さん。あ、ツルのガラス細工屋さんもあった。いろんなお店が出ていて寒い日にもかかわらず公園の中は楽しい空気が満ちていた。

 小腹が空いた私はしば犬の焼き芋屋さんで焼き芋を2本買った。

「うちの焼き芋は冷めても美味しいんです。アルミホイルを巻いてトースターで少し温めてもらったらより美味しくなりますよ」

 焼き芋を受け取る時にしば犬が丁寧に教えてくれた。後ろ足で立って緑のスカジャンを着たしば犬。とても様になっていて見惚れてしまいそうになった。

「機会があればまたお願いします」

 ぺこりと頭を下げるしば犬に見送られながら私は再び歩き始めた。


 甘くてほくほくの焼き芋を食べながら公園の中を歩く。とっても美味しい。これはまた食べたくなるやつだ。体の中からほかほかして寒さが気にならなくなってきた。

 こういう所に来るとついなにか買って帰りたくなってしまう。素敵な出会いはどこかしら、そんなことを思いながら歩く。

 10分ほどふらふらしていると気になる看板を見つけた。カモシカの鞄屋さんの隣の小さなキッチンカー。その前には『ゴリラのケーキ』と書かれた看板が立ててあった。

「いらっしゃいませ」

 黄色いキッチンカーの中でたくましい体をしたゴリラが少し窮屈(きゅうくつ)そうにしていた。ここはもしかしてクマが言っていたあのゴリラさんのお店かもしれない。

「あの、おすすめってなんですか?」

 違ったらどうしようとも思ったけれど私は思い切って聞いてみた。

「このバナナケーキです。美味しいですよ」

 ゴリラさんはにっこりとしながら美味しそうなパウンドケーキを見せてくれた。うん、間違いない。クマが言っていたお店だ。

「じゃあバナナケーキを一つください」

 私は気になっていたバナナケーキを買うことができて満足した。私の中の何かが買いたいという欲求がしゅるしゅると小さくなりパチンと消えた。

 バナナケーキを受け取る時、ゴリラさんがキッチンカーの天井で頭を打つのが見えた。車全体ぐらっと揺れる。もう少し大きな車にしたらいいのに。そう思ったけれど私は言わずに黙って受け取った。こんな時にクマがいたらお話しできるのに。

 私は焼き芋とバナナケーキを持って公園を後にした。


 先週は三毛猫の定食屋さんにお昼ご飯を食べに行った。もちろん一人で。

「そうか、あの子は冬眠の時期だね」

 三毛猫はお店に入った私を見た途端そうだそうだと一匹で納得していた。

「あの子、いつも春みたいに明るいから冬になっても冬眠するイメージがないんだよ」

 三毛猫はそう言うと、くくくと笑い出した。

「わかります。私もなんだか変な感じなんです。冬眠するとか言って実は起きてるんじゃないかなあなんて」

「わかるわ、私もそう思うもの」

 私たちは顔を見合わせて笑い合った。

 その日の日替わり定食は生姜焼き定食だった。とっても美味しくってご飯をお代わりした。定食を食べ終えて三毛猫とお話していると気がつけば夕方になっていた。三毛猫のお店はやはり居心地が良くてついつい長居してしまう。

「早く春が来ないかしらね」

 定食屋さんから帰る時、三毛猫が言った。

「そうですね」

 私も素直にそう思った。

「いつでもおいで。私は冬眠しないからさ」

 そう言った三毛猫はとても優しい目をしていた。

「はい」

 私はここのご飯がどうして優しい味がするのかわかった気がした。三毛猫の優しさが胸に沁みた。


 手作りマーケットでも、三毛猫の定食屋さんでも、素敵な時間を過ごすことができた。

 しば犬の焼き芋は本当に冷めても美味しかった。ゴリラさんのバナナケーキももちろん美味しかった。ふわふわでしっとりしていてまた食べたいなあと思った。

 三毛猫とも仲良くなれた気がするしいいことばかりだ。でも、何か足りない。冬は寂しい季節だから余計にそう感じるのかもしれない。


「あ、そうだクマのクリスマスプレゼントを買わなきゃ」

 肝心なことを忘れていた。ふらふらと散歩をしている場合じゃない。買うものはもう決めている。あとはお店で選ぶだけ。

 今日の目的地が決まった。私はちょっぴり明るい気持ちになった。


〜 冬眠中のクマからのお願い 〜


お読みくださりありがとうございます

もし「ほっこりしたなあ」と思うお話があれば「いいね」ボタンをぽちっと押してもらえると嬉しいです

もしあなたに「いいね」を押してもらえたら嬉しくてニコニコします

今は寝てますが起きたらニコニコします


もしよければブックマーク、ポイントをお願いします

お星さまが灯ったことがわかれば飛び跳ねて喜びます

ゆり子さんに「近所迷惑になるでしょう」と怒られるまで飛び跳ねます

でも、冬眠明けすぐに怒られるのは辛いですね……

でも、すごく喜びます!


以上、冬眠中のクマからのお願いでした

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] これが噂のくまのお願いか……。これは断れない。にこにこ喜ぶ顔が見たくなります(´艸`*) 三毛猫さんが優しくて心がぽかぽかしました。
[良い点] ああああ! なんで! なんでいいねは一回しか押せないの! クマさんのお願いだから何度でも押したいのに! ぽちっとどころか 「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽちっと」 って白いワンピースの女性がいるのか…
[一言] これはもう恋なのでは?( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ