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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第4章 発展篇
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第七話 天然ゴムを探して

 ゴムが得られないと知ったアキラは、肩を落として『離れ』へと戻った。

 そんな彼を見て、

「アキラさん、どうかしたんですか?」

 と、心配そうに尋ねるミチア。

「ああ、実は……」

 と、アキラはゴムが手に入りそうもなくてがっかりしていると説明した。

「そういうことですか……ねえアキラさん、他の木じゃ駄目なんでしょうか?」

「他の木か……何かあったかな……」

 樹液がネバネバする木というと、ゴムの木の他はウルシの木と松ヤニくらいしか思い付かない。

 ウルシはゴムにならないし、松ヤニはレジン、つまり樹脂だ。

「……ここはミューリに聞いてみましょう」

 ミューリは植物に詳しいので、何か知っているのでは、とミチアが言った。

「ああ、そうだな」

 そこでアキラとミチアは連れ立ってミューリのところへ行く。彼女は洗濯物を干しているところだった。

「ミューリ」

 ミチアが声を掛けると、ミューリは洗濯物を干していた手を止めて振り向いた。

「あら、お二人さん、どうしたの?」

「うん、それなんだが……」

 ミューリにはアキラから説明をした。

「ええと、粘つく樹液を出す木がないか、知らないかと思ってね」

「粘つく樹液、ですか」

 ミューリはしばらく考えた後、ぽんと手を叩いて口を開いた。

「あ、そうだ。『トチュウ』の木はどうでしょう?」

「トチュウ?」

 アキラは、その名を聞いたことがある気がした。

 自分がいた世界と、この世界は共通点が多く、同じ名称で呼ばれているものも多い。後で『携通』で調べてみようとアキラは思った。


「トチュウは大きくなる木で、樹皮と葉っぱを薬にするんです」

 ミューリはそうしたことに詳しいのである。

「葉っぱをちぎると白い糸を引きますし、樹皮を剥ぐ時も、かなり粘つきます」

「わかった。とりあえずありがとう」

 アキラは大急ぎで『離れ』にとって返し、『携通』を起動した。

「これも、あとどれくらい使えるかな……」

 今のところ問題なく使えているが、心配なのはバッテリーである。

「早めに、同じ電圧の蓄電池を用意できればな……」

 アキラの『携通』のバッテリーは3.7Vのリチウムイオンバッテリーだ。

 今手元にあるのは鉛蓄電池、1セルが2V。これを直列にして4Vなので、直接『携通』に接続するのは正直怖いアキラであった。


「……っと、今はそれどころじゃないか。……『とちゅう』……っと。『途中』……『戸中』……『栃生』……『杜仲』これかな?」

 『携通』には、簡単な杜仲の説明が載っていた。


 中国原産の落葉高木。トチュウ目トチュウ科。

 雌雄異株。葉はニレやケヤキに似た楕円形、花は緑色がかかった白色。

 樹皮は漢方薬の原料として使われ、若葉はお茶として利用される。カフェインは含まない。

 樹皮や枝を折ったり葉をちぎると、白色乳液が出、これは、ガタパーチャ(グッタペルカ)と呼ばれ、天然ゴムとして利用される。

 寒冷地でも育つ天然ゴムの産出木である。


「おお、やった!」

「アキラさん、これなら使えますね!」

 アキラとミチアは『携通』の画面を見て喜び合った。

「あ、このトチュウの画像をミューリに見せてみよう」

「それがいいですね」

 最終的な確認をした方がいいだろうと、アキラとミチアはもう一度ミューリのところへ。彼女はちょうど洗濯物を干し終えたところだった。

「あら、また?」

「うん。悪いけど、これを見てくれないか」

 アキラは『携通』の画面を見せた。

「ああ、これです。これ、トチュウです」

「そうか! これ、どこに生えているか、知っているかい?」

「ええ。北の森に30本は生えてます」

「そんなにか」

「薬になるって言ったでしょう? そのためか、保護されていたんじゃないでしょうか」

「そうかもな」

 だとしたら、先人たちに感謝だ、とアキラは思った。

「案内してもらえるかな?」

「ええと、お昼過ぎでしたら……」

「頼むよ。セヴランさんには話しておくから」


*   *   *


 ということで、昼食後にトチュウの木に案内してもらうことになった。

 行くのはアキラ、ミチア、ハルトヴィヒ、リーゼロッテ。

 アキラの手には小刀、ミチアの手には受け皿。もちろん、トチュウの樹液を溜めるためである。

 そして一行は、忘れずに『虫除けスプレー』を掛けていたのは言うまでもない。


 十五分ほど森を歩くと、トチュウの木があった。

「これです。隣もそうですよ」

「大きいな……」

 1本は10メートルを超える大木で、もう1本はその半分くらいの木であった。

 よく見ると、周囲にはトチュウの幼木も芽を出している。

「この木も、いずれは桑の木同様に保護することになるかも」

 アキラはトチュウの幼木周りの草を刈っておくことにした。

 同時に、5メートルの方の木の幹に軽く傷を付け、その下に受け皿を紐で縛り付ける。

 樹液の集め方までは『携通』にも載っていなかったので、自己流だ。


 ミューリとミチアはトチュウの葉を集め始めた。

 この葉もまた、桑の葉同様健康茶になるのである。

「若すぎる葉っぱや硬くなった葉は避けてね」

「わかったわ」

 持ってきた袋に、手の届く範囲で葉を採取していく2人。


 リーゼロッテはトチュウの葉を千切り、糸を引く様子を観察していた。

 そしてハルトヴィヒは、どういう容器にしたらより樹液を集めやすいか考えていたのである。


 蛇足ながら、虫除けスプレーのおかげで、アキラたちは刺されることなく『蔦屋敷』に戻ったのであった。


*   *   *


「うん、アキラの言うとおり、硫黄を混ぜて加熱すると、その『ゴム』ってやつになるみたい!」

 ほんの少しだけ持ち帰ったトチュウの樹液で実験をしていたリーゼロッテは、意気揚々と報告にやってきた。

 ゴムの木の樹液もトチュウの樹液も、硫黄を加えて加熱、すなわち『加硫かりゅう』することで安定感が増す。

 ただし。

「思ったより弾力がないなあ……」

 試しに作ったトチュウゴム=グッタペルカは、アキラが期待したほどの弾力がなかったのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は3月30日(土)10:00の予定です。


 お知らせ:23日(土)早朝から24日(日)昼過ぎに掛けて帰省してまいります。

      その間レスできませんのでご了承ください。


 20190708 修正

(旧)一五分ほど森を歩くと、トチュウの木があった。

(新)十五分ほど森を歩くと、トチュウの木があった。

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