第二話 計画 その2
2回目の会議は『ド・ラマーク領』で行われることになった。
メンバーは、1回目と同じ面々に、アキラが加わる。
さらに、ド・ラマーク領まで飛行機で行くので、そのパイロット、つまりハルトヴィヒ配下の技術者たちにも参加してもらうわけだ。
そこで、『エトワール1』と『フジ(改)』の出番である。
『エトワール1』は操縦士の他に2名。
『フジ(改)』は操縦士の他に4名を乗せることができる。
『垂直離着陸機(VTOL)』と合わせれば、操縦士3名、乗客8名(『垂直離着陸機(VTOL)』は操縦士2名なので操縦士4名、乗客7名という見方もできる)。
蛇足ながらフジ『(改)』なのは、推進機のテストとして取り付けた『ハルト式ロケット推進器』3基がそのままになっているからである。
これならハルトヴィヒ、シャルル、アンリ、レイモンの4操縦士に加え、産業大臣ジャン・ポール・ド・マジノ、魔法技術大臣ジェルマン・デュペー、農林大臣ブリアック・リュノー・ド・メゾン、近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーの4人も余裕で運べる。
* * *
「お、来た来た」
前日に飛行機便による連絡を受けていたので、アキラは飛行場で出迎えるべく待ち構えていたのだ。
なにしろ、王国の重鎮たちも来るというのだから大事である。
そのため、隣の領地からフィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵もやって来ていた。
「ううむ、3機で飛んできたのか……」
フィルマン前侯爵は飛行機を見るのは今回で3度目である。
「何度見ても飛行機というものはロマンがあるな」
「今回、閣下が頼めば乗せてもらえると思いますよ」
「是非とも乗ってみたいものだ」
男とは、幾つになっても子供じみた感情を抱くことがあるものなのだ(作者の私見です)。
最初に着陸したのは単発単葉機のエトワール1。
操縦士はアンリ、乗客は産業大臣ジャン・ポール・ド・マジノ。
2番目に着陸したのは双発単葉機のフジ(改)。
操縦士はシャルル、乗客は魔法技術大臣ジェルマン・デュペー、農林大臣ブリアック・リュノー・ド・メゾン。
最後に着陸したのが垂直離着陸機(VTOL)。
操縦士はハルトヴィヒ、副操縦士がレイモン、乗客が近衛騎士団長ヴィクトル・スゴー。
「おおお、本当に滑走せずに着陸できるのだな……!」
「しかし、舗装した飛行場でこれですから、未舗装の土地で離着陸すると砂埃が凄そうですね」
垂直離着陸機(VTOL)の着陸時には、物凄い砂埃が舞い上がっていた。
「む、確かにな」
そして3機は停止し、操縦士と乗客が降りてくる。
「ようこそ、ド・ラマーク領へ!」
領主であるアキラが歓迎の言葉を掛けた。
「わざわざのお出迎え、感謝する」
「フィルマン閣下、ご健勝そうで何より」
「おおジェルマン、そなたも元気そうだな」
フィルマン前侯爵も顔見知りと言葉を交わす。
「アキラ、先日ぶり」
「うん、ハルトヴィヒもいろいろと忙しそうだな」
アキラたちも握手をし、笑いあった。
* * *
「まずは屋敷へおいでください」
ということで、前侯爵が用意してくれた8人乗りの大型馬車に、王都からの客人を乗せる。
アキラと前侯爵は馬で伴走する。
ほどなく『絹屋敷』である。
来たことのあるハルトヴィヒと技術者3名はともかく、産業大臣・魔法技術大臣・農林大臣・近衛騎士団長らは、その素朴な佇まいに少々驚いている。
『異邦人』であり、『シルクマスター』として認定されているアキラが住むには貧相……いや、質素だと思ったようだ。
「……領内のことばかりに奔走しておってな、自分のことに手が回っておらんのだよ」
客たちの顔色を読んだフィルマン前侯爵が、説明をしてくれた。
「……な、なるほど、領民思いのよい領主なのですな」
「なかなかできることではありませんぞ」
「味わい深い建物ではないですか。歴史を感じますなあ」
口々にフォローをしてくれるが、聞いているアキラはいたたまれない気持ちであった……。
* * *
「さて、それではさっそく会議を始めよう」
『絹屋敷』の食堂で、2回目の会議が始まった。
ド・ラマーク領で会議を行うという連絡とともに、前回の議事録をもらっていたので、アキラも話の流れは把握している。
「実際に、先程北の山を見ましたが、想像以上でした」
「うむ、そうであろう」
魔法技術大臣ジェルマン・デュペーの言葉に頷くフィルマン前侯爵。
「あそこを越えて更に北へ向かうというのがどれほど困難なことか、ようやく腑に落ちました」
「さよう。あの山は手強そうだ」
等、探検の実態をより実感してくれたようである。
「まずは、春先、アキラ殿も交えて王都で行った話し合いだが……」
口を開いたのは近衛騎士団長ヴィクトル・スゴー。
「あの時にも言ったが、まずは偵察飛行を行うべきだと思う。それも、1回ではなく数回」
「回を重ねる毎に距離を伸ばして行くのですな」
「やはり、それが堅実でしょうね」
アキラも納得している。
「それと、もう1つ」
「なんでしょうか」
「『北の国』が友好的とは限らないからな」
「ああ、そうですね」
「着陸前に、なにか知る手立てがあるといいのだが」
「それなら、『望遠鏡』を持っていきましょう」
「『ぼうえんきょう?』」
ハルトヴィヒには説明したことがあったが、他の面々はわからないようだった。
「ええと、遠くのものをより拡大して見ることができる道具ですよ」
「ほう、そんなものが」
ガラス職人のレティシア・コルデーに作ってもらったもので、次回の王都訪問でお披露目しようと思っていたものだ。
「のちほどお見せしますが、これがあれば、遠くの景色を5倍くらいに拡大して見ることができます」
「それはいいですな!」
「さすがアキラ殿」
この『望遠鏡』により、探検行における安全確認がしやすくなることは間違いない……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は2025年12月27日(土)10:00の予定です。
20251220 修正
(誤)「フィルマン閣下、ご健勝層で何より」
(正)「フィルマン閣下、ご健勝そうで何より」




