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第一話 計画 その1

 王都に戻ったハルトヴィヒは、機体の性能が『探検行』に十分なものであることを報告した。


「そうか、とうとう『完成した』のだな!」

 報告を聞いた魔法技術大臣ジェルマン・デュペーは、嬉しそうに微笑んだ。

「では、いよいよ『探検行』の検討を始める時が来たのだな」

 同席している産業大臣ジャン・ポール・ド・マジノが、その目を期待に輝かせながら言う。

「はい。できれば、まだ日の長い夏のうちに」

「そのとおりであるな。早速会議を行おう」

 そういうことになる、急遽きゅうきょ会議が開かれることとなった。


「では、『北の地探検』についての検討会を行う」

 まとめ役を務めるのは宰相のパスカル・ラウル・ド・サルトル。

 その他の出席者は産業大臣ジャン・ポール・ド・マジノ、魔法技術大臣ジェルマン・デュペー、農林大臣ブリアック・リュノー・ド・メゾン、近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーといった重鎮たち。

 そしてもちろんハルトヴィヒとその弟子である3人……シャルル・ボアザン、レイモン・デュプレ、アンリ・ソルニエらである。


「まずは『飛行機』の完成、おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

 宰相の言葉に、重鎮たちが唱和し、拍手を行った。

「ありがとうございます」


 そして会議の本題が述べられる。

「かねてよりアキラ殿が切望していた、『北の地』への探検行についての話し合いである」

 出席者全員が、それについては承知していた。

「発端としてはアキラ殿が『みしん』なるものを求めて、未知なる地へ行ってみようと言い出したことである」

「そうでしたな」

「それから既に数年……その間の飛行機開発……その労力を『みしん』開発にいていれば、今頃は我が国で完成していたのでは、とも思わなくもないが」

 そう言ったのは近衛騎士団長ヴィクトル・スゴー。

 だが、それはハルトヴィヒに否定される。


「申し訳ないのですが閣下、『飛行機』につきましては、アキラがその道筋を示してくれていたのでここまで来ることができたのです。しかしそんな彼にもミシンの構造や動作原理はわからなかったのです」

「う、うむ……」

「そこで、機械技術が発展していると言われる『北の国』に行ってみよう、ということになったわけですよ」

「……わかった。失言であった」

 ハルトヴィヒの説明に、ヴィクトルは謝罪をしたのである。


「さてそれでは、探検についてだ。……ヴィクトル殿、意見を聞かせてくれ」

「では」

 宰相に指名された、近衛騎士団長ヴィクトルが口を開いた。

「未知の国を目指すわけですので、慎重にやらなくてはならぬでしょう」

 まずは当たり前とも言える注意事項から始まった。


「確認させてもらうが、今回の飛行機は、どのくらいの時間、飛べるのかな?」

 この質問にはハルトヴィヒが答える。

「通常の飛行でしたら何時間でも。ただし操縦者が2人は必要です」

「なるほど。夜はどうするのだ?」

「月明かりがあれば大丈夫です。夜間飛行の訓練はしています」

「それは素晴らしいな。では、1日にどのくらいの距離を飛べるのだ?」

「巡航速度は、およそ時速250キロです」

「それは凄いな。……8時間で2000キロか……その『北の山』はどれくらい続いているのかな?」

「今のところ不明です」

「そうか。……そうだったな」


 それは資料に書いてあったので、ヴィクトルも見直して納得した。


*   *   *


「だが、情報が少ないため、このままでは詳細な計画を立てることはできない」


 この日の結論はこれであった。

 そして当然、どんな情報データが必要か、も吟味される。


「まずは日帰りでその『北の山』上空を飛んでみる必要があるでしょう」

「確かに、それならばいいデータが取れるでしょうな」

「ド・ラマーク領を8時に出発し、11時まで行けるところまで行く。そして11時を限度に引き返す。……これでどうですかな、ハルトヴィヒ殿?」

「うーん、いけると思います」

 考えた末、ハルトヴィヒはそう答えた。


「ではまず、そうした『偵察飛行』を行うことを進言いたす」

 近衛騎士団長ヴィクトルは、慎重な行動をするようにと主張し、それは満場一致で承認された。

 やはりこうした屋外での活動については、彼に敵う者はいない。


「その際の飛行条件は、できるだけ本番に近いように設定するのがいいでしょうか。それとも1回目はできる限り好条件を整えるのがいいでしょうか?」

 魔法技術大臣ジェルマン・デュペーである。

「ジェルマン殿、飛行条件とは?」

「おお、失礼。飛行機なので、積荷を軽くする、ということになりますな」

 具体的には食料や水を積まない、ということになる。


「最初の1回目はそうした軽負荷で行ったほうがよいでしょう。順を追って本番に近い条件にしていく、というように」

「いや、そこまでするのはどうでしょう?」

 ここで反論したのはハルトヴィヒである。

「先日ド・ラマーク領で偵察の偵察程度に飛んできましたが、飛行高度と速度、そして安定性に問題はありませんでしたから」

「なるほど、それもそうですな」


 ハルトヴィヒはさらに説明する。

「夜間訓練をしているとはいっても、やはり明るいほうが安全に飛べます。そういう意味では、日の長い時期に行ったほうがいいと思います。また、『北』にいくわけですので、夏のうちに行きたいですね」

 これには説得力があった。

「ふむ、それではまず、近いうちに1回目の偵察飛行を、本番と同じ条件で行うということでいかが?」

「そうですな……」

「悪くないと思いますぞ」


 そしてそれは、少々の話し合いを経て決定される。


*   *   *


 その日のド・ラマーク領では、『秋蚕あきご』の飼育準備が進められていた。

「そろそろ夏も折り返しだ。湿度が増えてくるから、カビには気を付けてくれよ」

「はい、旦那様」


 『北の山々』には入道雲が湧き上がっていた。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2025年12月20日(土)10:00の予定です。


 20251213 修正

(誤)まとめ役を務めるのはのは宰相のパスカル・ラウル・ド・サルトル。

(正)まとめ役を務めるのは宰相のパスカル・ラウル・ド・サルトル。

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― 新着の感想 ―
まぁ知らないかつ携通にも無ければつくれませんよ………。帝国の技術者達がエトランゼが遺したスケッチ見ても船に応用するどころか飛行機をつくることしか出来なかったように
私なら 来年の冒険行を提案し、随伴僚機、救助用の控え、予備機の4機以上を作成させる。 単機だと 何かあっても判らないし、助けも来ない、2機体制なら無事な方が助けられるし事故現場も解る。 さらに言えば、…
>>「そうか、とうとう『完成した』のだな!」 戦争が一新されるぞ!!ヤッタネ!! >>そういうことになる、急遽会議が開かれることとなった。 机の上の書類の山は見なかった事にしました。 >>宰相…
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