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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第15章 前夜篇
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第二十八話 訓練

 夏の真っ盛りである。

 真夏の太陽が照りつけるド・ラマーク領は、北の地といえど日中は暑い。


「今年は暑いな」

「そうですね。でも、時々夕立が降っていますから、水不足にはならずに済んでますわ」

「そうだな。夕立さまさまだね」

 ド・ラマーク領で一番困るのが『干害』と『冷害』である。

 元々北の地なので『冷害』に対しては、寒さに強い品種を増やすことで対応してきているが、水不足はどうにもならない。

 溜め池を掘ったり井戸を増やしたりはしているが、それは畑と飲料用であって、クワ畑にまでは行き渡らないからだ。


 アキラが領主になってから1度だけ干害が起きたことがある。

 その際は、山のクワ畑の7割がやられた。

 幸い、翌年の春には新しい芽が吹き、根までは枯死してなかったために復旧は早かった。

 だが、クワの葉の供給量が元に戻るまでに3年を要したが……。


「冷凍保存したクワの葉も結構溜まっているけどな」

 そうした災害に備え、クワの葉を保存しているのだ(冷凍していても2年以上は保たないので、『春蚕はるご』や『晩秋蚕ばんしゅうご』に食べてもらっている)。


「ハルトから手紙が来たよ」

「あ、そうみたいですね。で、なんと?」

「うん、ついに、目的を達成できそうな飛行機が完成した、ってさ!」

「まあ! おめでとうございます!」

「うん、それは彼に言ってやってくれ」

「それはそうですが、これであなたの長年の夢がかなうわけですし」

「そうなるといいなあ」


 窓から南の空を眺めるアキラ。

 そこには青い夏空が広がっていた。


*   *   *


 王都の空も晴れている。


「今日は、縄梯子での乗り降りを訓練するよ」

「はい!」

 空中に静止した『新型垂直離着陸機(VTOL)』から縄梯子で地面に下りる訓練である。

 『垂直離着陸機(VTOL)試作機』では行ってみたのだが、静止しているとはいっても、微妙に揺れているので、なかなか難しい。

 なので、まずは水上で練習したのである。

 その時は、王都近くの川で行った。

 縄梯子を下りる面々は皆、濡れてもいいような格好で行った。

 当然、下りた先は水面なのでそのまま飛び込んだわけである。

 夏だったため、よい避暑になった……ようだ。


 そして今回も同じ川の上。

「前回より下りやすいな」

「機体の安定が増したからじゃないか?」

 試作機よりも高度を保つ制御が向上したからか、縄梯子が揺れないために下りやすかったのである。


「……本当だね」

 ハルトヴィヒもまた練習に加わり、皆と同じ感想を持った。


 一人当たり5回の縄梯子(くだ)りを行い、その日の練習は終了。

 戻って反省会である。


*   *   *


「機体の安定性は、間違いなく増しているね」

「はい、先生。そう感じました」

「だとすると、あとは『のぼり』かな?」

「そうですね。静止している『新型垂直離着陸機(VTOL)』から下りるだけでなく、縄梯子を上って乗り込むことも必要でしょう」

「それは陸上で行うことになるな」

「ですね」

 必要なことだが、より危険度は増す。


「命綱を装着したらどうでしょうか」

「なるほど、それはいいかもしれないな」

 機体から命綱を垂らし、それを身体に取り付けて縄梯子をのぼろうというわけだ。


「……待てよ?」

 ハルトヴィヒは、以前アキラに聞いた技術を思い出していた。

 それは『岩登り(ロッククライミング)』について。

 北の山々を空から眺めた時に、アキラが口にしたのである。

「徒歩で行くなら岩登り(ロッククライミング)の技術と装備が必要だな」

 ……と。


 アキラとしては、現代日本にいた際にテレビで見た、ヒマラヤやアルプスへのアタックをするドキュメントを思い出したのだ。

 ただ歩くだけではなく、時には岩の壁を登ることもある、そんな登山行為。

「もうちょっとよく聞いてけばよかったな……」

 と思ったハルトヴィヒは、1つの名案を思いついた。


「……アキラが、そういう登山系の情報を持っているはずだ。明日にでもド・ラマーク領まで行って確認してこよう」

 今の飛行機の性能なら王都とド・ラマーク領を1日で往復してお釣りが来る。

「それはいいですね!」

「やるならよりよいものを使いたいですからね」

「お願いします、先生」

 ということで、明日、ハルトヴィヒがド・ラマーク領芽まで行ってくることになった。


「機体はどうするかな……」

 選択肢は2つ。

 以前使った『ルシエル1』か、今回の『新型垂直離着陸機(VTOL)』か。


「『新型垂直離着陸機(VTOL)』がいいと思います」

「試験飛行も兼ねられますし、実際の高度テストもできますから」

「賛成です」

 アンリ、シャルル、レイモンらの意見は一致していた。

 そしてハルトヴィヒとしても、

「そうだな、それがいいだろうね」

 と、その気になっている。


「早速許可をもらってこよう」

 そういうことになったのである。


 いきなりハルトヴィヒがやって来て、アキラたちが驚くのは翌日のこと……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2025年11月29日(土)10:00の予定です。


 20251122 修正

(誤)一人当たり5回の縄梯子下くだりを行い、その日野練習は終了。

(正)一人当たり5回の縄梯子(くだ)りを行い、その日の練習は終了。

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― 新着の感想 ―
ヘリコプターからの人命救助ではハーネスにロープを固定して巻き下ろし、巻き上げしてますね。 実際、縄梯子では体重がかかっていない足の下の段は下降気流で跳ね回って制御できないですから訓練でどうにかなるとは…
その雨は循環してるので、雨が降るということはどこかが干上がっている………という幸せの裏表のような無粋なことが思い浮かびました。ちなみにこれの元ネタは「ミステリというなかれ」という漫画です。記憶を失った…
移動手段の進化で距離にかける時間が大いに短くなりますねー 新型を見たアキラの反応が楽しみですわあ
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