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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第15章 前夜篇
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第二十七話 達成

 盛夏ともなると、北の地であるド・ラマーク領も暑い日が続く。

 朝夕はしのぎやすいが、日中は摂氏30度を超える日が連日やってくるのだ。

 摂氏35度超えの猛暑日を経験しているアキラにはさほどでもないが、根っからの地元民であるミチアたちはつらそうである。


「湿度が低いからまだマシだけどなあ」

 内陸なので、ド・ラマーク領の湿度は低めである。

 ゆえに、室内はまあまあしのぎやすい(アキラにとって)。

 が、この世界で生まれ育った者たちは暑がっていた。


 とはいえ、その分アキラは寒さに弱いのだが……。


*   *   *


 さて王都では、いよいよ新型『垂直離着陸機(VTOL)』の試験飛行が行われようとしていた。

 天候は晴れ、綿雲が幾つかぽっかりと浮かんでいる。風は微風、絶好の飛行日和だ。

 もう試作機が何度も飛んでいるので、ギャラリーは少なめ。

 宰相パスカル・ラウル・ド・サルトル、産業大臣ジャン・ポール・ド・マジノ、魔法技術大臣ジェルマン・デュペー、近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーの4人だ。


「予備テストは十分にしたし、『垂直離着陸機(VTOL)試作機』はもう何度も操縦したからね」

「そうですね。でも万が一ということもありますから、気を付けてください、先生」

「うむ」

 今回のテストパイロットもハルトヴィヒである。


「準備完了しました」

「ありがとう、シャルル」

 機体の最終チェックを行っていたシャルルから完了の報告が入る。

 ハルトヴィヒはゆっくりと新型『垂直離着陸機(VTOL)』に乗り込んだ。

 座席に座り、シートベルトを締める。

 万が一の脱出時には、ボタン1つでリリースできる構造になっている。


 操縦桿を軽く動かし、手応えを確認。

 最後に計器類を目視でチェックし、ハルトヴィヒは保護カバーを開いて起動スイッチをオンにする。

 魔力が機体に行き渡るが、まだ動き出しはしない。


「よし、発進だ」

 『浮揚機(フローター)』を起動し、ゆっくりと出力を上げていく。

 『浮揚機(フローター)』の出力調整は、正面右下にある小さなハンドルを回すことで行う。

 右に回すと上昇、左に回すと下降である。


 ハルトヴィヒはゆっくりと『浮揚機(フローター)』の出力を上げていく。

 半回転ほどで機体は浮き上がった。


「おお、浮いたぞ!」

 近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーが野太い声で叫んだ。

「スゴー殿、ここからですよ」

 魔法技術大臣ジェルマン・デュペーは冷静に観察している。

「ゆっくりと上昇できるものだな……空中に静止することもできると聞いたが。それに、静かだ」

 宰相パスカル・ラウル・ド・サルトルは、静音性に着目していた。


 50メートルほど上昇したところで、ハルトヴィヒは『浮揚機(フローター)』出力ハンドルから手を放す。

 新型『垂直離着陸機(VTOL)』は、空中にほぼ静止した。

「よし、いい感じだ」


 先日、『垂直離着陸機(VTOL)』試作機を使って水の上で静止し、縄梯子で下りるテストをしたのだが、なかなか良好だった。

 今回のこの機体は、それよりもさらに安定性が増している。


「次は……飛行だ」

 ハルトヴィヒは、推進機の出力レバーに手を掛けた。

「よし、行くぞ」

 右側にあるレバーを奥に押し込むと、推進機の出力が上がっていく。

 左手は床から伸びる操縦桿を握っており、今は水平飛行のためほぼニュートラル位置だ。


 操縦桿と機体の関係は、板に垂直に立てた棒のようなものと思えばいい。

 棒(操縦桿)を手前に引くと、板の前が持ち上がる。

 棒(操縦桿)を奥へ押すと、板の前が下がる。

 左に倒すと板は左に傾く。航空機は左にバンクし、左旋回を始める。

 右に倒した場合はその逆の動きだ。

 機首の向きを変えたい時は足元のペダルを使う。

 左右の足がそれぞれペダルに対応しており、右ペダルと踏むと機首は右に向く。

 左ペダルを踏んだ時はその逆だ。

 なお、両方をいっぺんに踏んだ時は空力的なブレーキが掛かるよう設定されている。


 こうした設定は、テストしながら改善してきた結果である。

 これからも、『こうしたほうがいい』というアイデアがあれば、ハルトヴィヒたちは取り入れていくだろう。


 閑話休題。

 新型『垂直離着陸機(VTOL)』は、高度50メートルで安定して飛んでいる。

 速度は時速50キロくらいで、この大きさの航空機としては非常に遅い。


「あの低速でも不安定にならないのは凄いな」

「テストにテストを重ねたからなあ」

「完全に成功だよ」

 アンリ、シャルル、レイモンらは顔を見合わせて微笑みあった。


 低速飛行での安定性を確認したハルトヴィヒは、高速飛行に移る。

 操縦桿を引いて機首を少し上に向ければ、『浮揚機(フローター)』の出力も連動しているので機体は上昇していく。

 ハルトヴィヒは高度150メートルで水平飛行に移った。

「よし、速度アップ」

 スロットルレバーを押し込み、推進機の出力を上げる。

 新型『垂直離着陸機(VTOL)』は加速を始めた。

「お、いい感じだな」

 順調に速度が上がっていく。

 速度計では時速100キロを軽々と超え、時速200キロに迫る。


「まだまだ出力には余裕があるな」

 時速200キロは余裕であった。

 ハルトヴィヒはさらに出力を上げる。


「220、240、260……いい感じだ」

 機体の振動も少なく、乗り心地はいい。

 時速300キロも超えることができた。

 双発単葉機『ルシエル1』を超える時速360キロを新型『垂直離着陸機(VTOL)』は出すことができた。


「次は高度だ」

 速度は時速100キロに落とし、『浮揚機(フローター)』の出力を上げていくハルトヴィヒ。

 機体には大きな螺旋を描かせるようにして高度を上げていく。


 新型『垂直離着陸機(VTOL)』は積雲よりも高くまで上昇した。

 積雲の高度は2000メートルから1万メートルくらい。

 今日の積雲の頂上(雲頂)は5000メートル付近であったが、新型『垂直離着陸機(VTOL)』はそれよりも高く上がることができたのである。


「やったぞ!」

 操縦席でハルトヴィヒは1人歓声を上げていた。

 コクピットの与圧は好調で呼吸も問題なし。耳鳴りもしない。


「これなら、『北の山』を越えることができるな!」

 いよいよ、アキラとの念願の叶う日は近い。

 そう思うと、ハルトヴィヒの胸は高鳴るのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2025年11月22日(土)10:00の予定です。


 20251115 修正

(誤)今回のこの機体は、それよりも皿の安定性が増している。

(正)今回のこの機体は、それよりもさらに安定性が増している。

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― 新着の感想 ―
>バイクのスロットル 確かに、両手をハンドルから離さず操作するバイクなら、次に重要なスロットルが利き手でしょうね。 >フライ・バイ・ワイヤ 自分で言っておいてアレなんですが、 信号処理が出来ないのに…
他の方のコメントで気付きましたが………狭量な宗教(異教・他の派閥は認めんみたいな昔の………いや現代でも存在する宗教)が権力握ってる宗教国家だとエトランゼってだけで異端審問にかけられかねないですね。それ…
>万が一の脱出時には、ボタン1つでリリースできる構造になっている。 ボタン1つで座席ごと機体からリリースできます。 (ベルトが簡単には外れないとベルトが簡単に外れるの両立が困難だったので、ベルトの方は…
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