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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第15章 前夜篇
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第十三話 懇談会(相談会)

 アキラがラグランジュ邸でリーゼロッテやヘンリエッタとの再会を喜びあった日の午後。


 この日の午後は『異邦人エトランゼ』との懇談会が行われる。

 『懇談会』とはいうものの、実質は『相談会』である。

 いろいろな問題点に対し、『異邦人エトランゼ』の知恵を借りよう、ということなのだ。

 もちろん、全ての問題を解決できるとは期待されていない。

 『異邦人エトランゼ』とはいっても、全知全能ではないのだから。それは周知徹底されている。


*   *   *


「皆さんお集まりのようですね。では、懇談会を始めます」

 アキラの他の参加者はといえば、宰相パスカル・ラウル・ド・サルトル、農林大臣ブリアック・リュノー・ド・メゾン、産業大臣ジャン・ポール・ド・マジノ、魔法技術大臣ジェルマン・デュペー、そしてハルトヴィヒである。

 全員の前には冷たいお茶が置かれており、喉をうるおすことができる。


「最近、アキラ殿のお陰で、『飛行機』と『自動車』の開発が勢いづいておるよ」

 まず宰相が話の口火を切った。

「飛行機と自動車の情報、ありがたく思っている」

「他の国からの引き合い(問い合わせ)はないのですか?」

「ありますよ。特に帝国から、飛行機の技術を公開してくれ、と矢の催促です」

 産業大臣ジャン・ポール・ド・マジノが答えた。


「ははあ……で、どうしてますか?」

「一世代から二世代前の技術を公開することになるだろう」

 と、宰相。

「具体的には、ジュラルミンとロケットエンジン関係を除く技術だな」

 ロケットエンジンはまだ発展途上であり、未知の可能性を秘めている。

 また、アルミニウム鉱山を有する帝国ではあるが、その応用については指導をしばらく見合わせる、ということだった。

「次回の交渉材料にしたいからな」

 と宰相パスカル・ラウル・ド・サルトルは言葉を続けたのである。


*   *   *


「それでだな、アキラ殿」

 宰相が改まった口調で話を投げかけてきた。

「以前ちょっと聞いた『鉄道』というものに関して、もう少し詳しく聞かせてほしい」

「わかりました」

 アキラはちょっと考えてから説明を開始する。


「鉄道とは、文字どおり『鉄で作った道』です。通常は2本のレール……線路を敷き、その上に列車を走らせます」

「うむ」

「当然、線路はできる限りの最短距離で敷設ふせつします」

「そうであろうな」

「鉄製のレールを走る車輪も鉄ですので、抵抗が少なく、効率はいいはずです。加減速を考慮すれば、スリップも少ないです」

「ふうむ」

「レールには凹凸がありませんので、列車の足回り……懸架装置は自動車よりもゴツく、頑丈にできます。つまり多くの荷物や人員を運べるわけです」

「なるほど」

 と、このようにしてアキラは鉄道のメリットを説明。


 一通りメリットを説明したあとはデメリットについても解説する。


「治安の悪い場所に敷設すると、盗賊や獣に列車が襲われる可能性があります」

「まあ、そうであろうな」

「レール上に石を置かれると非常に危険です」

「うむ、わかるぞ」

「線路を横断する際、注意しないと接触事故を起こすこともありえます」

「むむ……」

「当然、鉄が大量に必要になります」

「うむ」

「……あまり考えたくないですが、戦争時には攻撃の的となる可能性もあります」

「確かにな。……うむ、わかった。町中や近郊のみであればよいかもしれぬな。検討しよう」

 鉄道についての話はこれまで。


*   *   *


 次は農林大臣ブリアック・リュノー・ド・メゾンがアキラに話し掛けた。

「アキラ殿、病害虫に対する対策はなにがありますかな?」

「そうですね……病気については、まずは消毒ですね。とはいっても、消毒用アルコールでは駄目です。虫の方は……『忌避剤』というのがありますので、まずはこちらを試すのもありかと」

「忌避剤、ですか」

「酢にトウガラシとニンニクを漬け込んでおいたものを薄めて噴霧するのですよ」

「なんとなく酸っぱそうな臭いがしそうですな」

「まさにその効果で虫を寄せ付けないのです」

「おお」

「薬品としては弱いので、作物への薬害はほとんどないはずです。その分、効き目も弱いですが……」

「それでも虫害が減れば助かりますよ」


 次は病害についてである。


「重曹を水に溶かしたものを薄めて噴霧することで、カビ系の病害を予防することができます」

「ほう」

 重曹は、『トロナ鉱石』という形で天然に産する鉱物から精製される。

「こちらもいいですな」

「ただし、酢と重曹が反応すると中和されて二酸化炭素になります」

「ふむ?」

 あまり細かい化学の話はよくわからないようで、ハルトヴィヒ以外は首を傾げている。


「要は、効果を打ち消しあう、ということです。ですので酢の虫除けと重曹の消毒は日をおいて噴霧するようにしてください」

「わかりましたぞ」


*   *   *


 その次は産業大臣ジャン・ポール・ド・マジノが口を開いた。

「自動車での荷物運搬に関して、何かご意見はありますかな?」

「そうですね……『コンテナ』や『パレット』の規格を定めてはどうでしょうか?」


 コンテナとはこの場合、荷物を積んで運ぶために規格化された大型の箱のこと。

 貨物列車で運び、そのまま大型トレーラーに積み替え……など、荷物を入れ替える必要がない。


 パレットは物流における荷物台の一種。

 木製やプラスチック製で、フォークリフトで運びやすい形状をしているが、もう1つの目的は荷物を一定の容積内にまとめる目安となることである。


「今後の物流を踏まえて、今から検討しておくといいのではないでしょうか」

「なるほど。大型自動車用は馬車用の2倍、としてもよさそうですな」


 ……と、このようにアキラは、『異邦人エトランゼ』として相談に乗っているわけである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2025年8月16日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
運搬規格を決めるならダースの概念も布教した方がええやね 2人でも3人でも4人でも6人でも分けられる優しい数字 もっとも、先人が経験則で身に付けてたり、先代異邦人が教えてそうだけど
鉄道は道路と同じく管理がムツカシイですもんね。まぁ国境を超える際は国境付近に関所駅みたいなものつくって………と思いましたが検査する人員がたくさん必要ですね。多くの人が行き来出来るようになる訳ですからね…
>「治安の悪い場所に敷設すると、盗賊や獣に列車が襲われる可能性があります」 レール自体を盗まれる可能性もあるよねw 治安維持用の重装甲爆音列車を定期的に走らせて賊とか獣とかを蹴散らすみたいなw >…
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