第七話 もうすぐ……
一雨ごとに積もった雪が減り、春の訪れを予感させるような日々が続いた。
「それでは、お荷物をお預かりします。これが預り証です」
「ああ。よろしく頼む」
アキラは王都から派遣された『トレーラー』に、あまり重要ではない荷物を預けた。
この『トレーラー』は、馬の代わりに専用の自動車が引っ張るというものだ。
速度はほぼ馬が牽く時と同じ。
速くはないが、飼い葉や水、寝床などの世話をしなくて済む分、維持費が掛からない。
そしてその分の馬は、軍馬や農耕馬に回されている。
いずれはそちらも、装甲車や軍用車、トラクターなどに取って代わられるであろうが、それはまだまだ先のことだろう。
そんなわけで、『牽引用自動車』が牽く『荷車』に荷物を載せ、『トレーラー』は一路王都を目指すのであった。
* * *
「飛行機による迎えは6日後だそうだ」
「遅くとも2日前には、荷物は王都に着いているはずの日程ですね」
「そうなるね。道中何かあっても大丈夫な日程なんだろうし、万が一荷物が王都に到着していない場合もなんとかフォローできる日程になっているんだろう」
「そうなんでしょうね」
そこでアキラは、ミチアに手伝ってもらい、手荷物だけをまとめておくことにしたのである。
* * *
「ちちうえ、もうすぐおうとですか?」
「おうとですかー?」
支度をしていると息子のタクミがやってきた。娘のエミーもその後をちょこちょこ付いてきている。
「そうだな。6日後には出発すると思う」
「とーさま、でかけちゃうの?」
アキラはエミーの頭を撫でる。
「そうなるな。でも、じきに戻ってくるよ」
「うん……」
「いい子にしていたら、またお出かけに連れて行ってやるからな」
「はい……」
暖かくなったら、家族でピクニックに行こう、とアキラは言った。
「いいこでまってる……」
「偉いぞ、エミー」
そんな、家族のちょっとしたひととき……。
* * *
王都では。
「ま、まあ、この場合、先生が操縦士を務めるのは当然として、副操縦士は僕が……」
「いーや、僕だね」
「今度は僕に譲ってもらうよ」
「……」
シャルル、レイモン、アンリの3人の間で激しい話し合い(?)がなされていた。
いろいろな話し合いの末、前回同行したシャルルは遠慮することとなる。
そして残るレイモンとアンリがくじ引きで同行者を決めることとなり……。
「やった!」
「外れたか……」
レイモンが同行することになったのである。
「あとは機体だが、今回も『フジ』……いや『フジ改』で行く」
「はい」
『フジ改』は、双発単葉機の『フジ』に『ハルト式ロケット推進器』を3基取り付けたものだ。
それに伴って、重要な部品はジュラルミンに置き換えてある。
結果、総重量は50キロ増えたが、速度は30パーセントアップして時速580キロに。
上昇限度は7000メートルを超えている。
「今回は山越えはしないが、今の上昇限度でいいかどうかを調べることはできるだろう」
「そうですね、先生」
「楽しみだ」
* * *
ド・ラマーク領との往復は、『自動車』開発にとってある意味では目標ともいえる。
距離もさることながら路面状態や、運搬すべき物資の重要性も大きい。
『自動車開発』の第一人者であるルイ・オットーは、今回派遣した『トレーラー』の帰りを待ちわびていた。
「牽引車部分と荷車部分は別構造にしたからな……どちらがより悪路に強いか、だな……」
ちなみに荷車部分は板ばね式サスペンション、牽引車はトレーリングアーム式サスペンションを採用している。
板ばね式は、細長い平角状の板ばねを何層も重ねたもので、その重ねた板ばね同士の摩擦力でダンパーとしての効果も持つ。
耐荷重性がよい。
トレーリングアーム式は、『スイングアーム』と呼ばれる片持式(長い棒の片方の端を支点にする)のサスペンションである。
路面追従性がよく、乗り心地がよい。
「いずれ全金属製にしたいものだな……」
そうすれば、木材よりもリサイクルが楽なため、ある意味エコなのである。
「まあ、それはまだもう少し先だ」
自動車の場合は『靭性』も要求されるので、アルミ系よりも鉄系の方がいいかなとルイは考えている。あくまでも、今のところは。
道路が舗装されて走行速度が向上したらまた考えよう、とも。
まだ、スポーツカーが登場するのはかなり先のことになりそうである……。
* * *
再び、ド・ラマーク領。
「ちちうえー」
「とーさまー」
「走ると危ないぞ、タクミ、エミー」
王都行きまであと3日という日、あまりに天気がいいのでアキラは親子4人で近場へ遊びに来ていた。
『絹屋敷』の裏手にある小さな丘。
南向きの斜面は日当たりがよく、もう若草が伸び始めていた。
そこへ弁当持ちで出かけ、のんびりとお昼を食べて戻るだけのプチハイキングである。
『絹屋敷』を出てから1時間足らずで丘の頂上だ。
食事時間を入れても、往復2時間ちょっとであるが、貴重な親子水入らずのひとときである。
早春のひとときをアキラ一家は堪能するのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は2025年7月5日(土)10:00の予定です。
20250802 修正
(旧)王都行まであと3日という日、あまりに天気がいいのでアキラは親子4人で近場へ遊びに来ていた。
(新)王都行きまであと3日という日、あまりに天気がいいのでアキラは親子4人で近場へ遊びに来ていた。




