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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第15章 前夜篇
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第五話 併用

 雪がやみ、青空が広がるド・ラマーク領。


「ようやく、冬の終わりが見えてきたな」

「そうですわね、あなた」

 アキラとミチアは窓から外をガラス越しに眺めていた。

「雪の日よりも晴れの日の方が多くなったからな」

「そうですわね」

 そんな2人の視線の先には、雪の上で遊ぶタクミとエミーの姿が。

 庭に積もった雪で山を作り、そこにスロープを設け、滑って遊んでいるのだ。

 もちろん、雪山やスロープを作ったのは、アキラと使用人たちである。


「わぁーい!」

「にーに、もいっかい!」

「よーし!」

 兄妹は雪まみれになりながらはしゃぎまわっている。

「元気だなー……」

 疲れを知らないかのように、5メートルほどの雪山にソリを持って駆け上り、スロープに作られた溝を滑り降りてくる。

 滑り降りるのは一瞬だが、雪山に登り返すにはそれなりに時間が掛かる。

 なのにもう2人は10回ではきかない回数、遊び続けているのだ。

「きっと、お昼を食べた後には、長いお昼寝をしてしまいますよ」

「そうかもな」

 子供、特に小さい子供は、まるで電池が切れたかのように、急激に大人しくなったかと思うと眠っていたりするからなあ……とアキラは微笑ましく我が子たちを見つめるのであった。


*   *   *


 領主であるアキラは、子供たちを眺めてばかりもいられない。

「今年の被害はゼロ、でいいかな?」

「はい、旦那様。おかげをもちまして、雪で潰れた家はなく、食糧不足にもなりませんでした」

「よかったなあ……まだ油断はできないけど」

「はい。ですが、もうこれ以上の積雪はなかろうと思いますし、食料の備蓄も大丈夫です」

 それもこれもアキラがこれまでにとった様々な政策の成果である。


「そうなると、いよいよ春への準備だな」

「はい。すでに少しずつ進めております」


 雪解けの季節が来れば、アキラは王都へ行くことになる。

 道が整備されてきたので道中はかなり楽になったが、それでも往復で半月は掛かる。

 もっとも、日程の3分の1以上は王都での滞在が占めるのであるが……。


「王都へ行けば、ハルトに会えるな」

 あれから飛行機にどんな改良がなされたか、ちょっと気になっているアキラであった。


*   *   *


 そのハルトヴィヒたちの実験は順調に進んでいた。

「うーん……『ロケット推進器』を従来の機体に追加するという改造はありだね」

「そうですね、先生」


 『ロケット推進器』……正確には『ハルト式ロケット推進器』。

 大きさは全長50センチ、直径20センチ。重量としては10キログラムほど。

 それ1基で一般的なプロペラ推進の3分の1くらいの推進力を発揮する。

 テストに使っているのは『エトワール1』だが、その最高時速は270キロから350キロにアップしている。


「プロペラ推進との併用がいいのかもしれないな……その線で改造プランを立ててみるか」

「はい、先生」

 ロケット推進の実験データを取るための専用機を作るのではなく、まずは既存の飛行機に追加し、データ集めを行うのがいいだろうという結論になったのだ。


 そこで単発単葉機の『エトワール1』を改造し、『ハルト式ロケット推進器』も複数積もうということになる。

 この改造により機体重量が50キロほど重くなるが、最高速度は5割増し、上昇限度は倍以上になるだろうと期待している。


 改造の要は、コクピットの気密化と与圧、それに機体の強度アップである。

「推進器は主翼に付けることにする。だから主翼の強化が必要だな」

 これにより重量がさらに重くなるが、そのデメリットを補って余りあるメリットがあるのだ。


「いずれは全金属製の機体にしないとロケット推進に耐えられなくなりそうだ……」

 機体の開発と並行して、素材の開発も進めないといけないなとハルトヴィヒは感じている。

「ジュラルミンを超える『超ジュラルミン』も開発しないといけないな……」


 ごく大雑把にいうと、アルミニウムに銅を添加したものがジュラルミン(A2017)で、そこにさらにマグネシウムを添加したものが超ジュラルミン(A2024)である。

 そこにさらに亜鉛を加えたものが超々ジュラルミン(A7075)になる(微量添加元素は省略)。


 アルミニウムの在庫は増えつつあり、すでに全金属製飛行機を数機は作れる量がストックされている。

「超ジュラルミンと超々ジュラルミンも開発していこう」

 ジュラルミン系アルミ合金の欠点は、融点が低いため溶接性が悪いことであるが、魔法で接合ができるこの世界においては問題にならない。


「ロッテにも相談してみるかな」

 里帰りしていたリーゼロッテだったが、もう戻ってきており、ロケット式の推進器に興味を持っていたのである。

「それいいわね。面白そうだわ」

 娘のヘンリエッタの計算練習を見ながらリーゼロッテが言った。


「……また、帝国とは差がついちゃうわね」

 里帰りの際、少しだけ帝国の航空機開発を見学してきたリーゼロッテは、アキラという『異邦人エトランゼ』の存在があるかないかでこれほど差がつくものなのか、と改めて実感したものだ。

「仕方ないよな、こればかりは」

 アキラとて、意図してガーリア王国に迷い込んだわけではない。

 そしてその後も、いろいろ、さまざまな偶然が重なりあって今があるのだ。

「あの時こうしていれば、というのは、考えたくなるけれど……」

「……考えるなら未来のことよね。『築き上げるのは未来』」

「そうだよな。『過去はただ、そこにあるだけ』」


 生きているのは今。

 築き上げるのは未来。

 過去はただ、そこにあるだけ。


 ゲルマンス帝国に伝わる歴史書の扉に書かれている言葉だという。


「以前、アキラが言っていたよ。王国だの帝国だの、そんな枠組みなんか取っ払って世界を見つめろ、って。空を飛ぶようになって、その意味がはっきりとわかった気がする」

「ふうん……どんなふうに?」

「我々が暮らしている国なんて、空から見れば、広い大地のほんの一部分なんだ、ってね」

「なるほどね……」

「今度、ロッテとアニーも飛行機に乗れるよう申請しておくよ」

「うん、楽しみにしてるわ。……頑張って強度のあるアルミニウム合金を研究しておくわね」

「頼んだよ」


 こうして航空機産業は、さらなる一歩を踏み出そうとしていた……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2025年6月21日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
「過去に学び、今を積み上げ、未来を掴む」自分の好きな言葉ですね。モノづくりにおいても人生においても大事なことだと思ってます。まぁ只あるだけの過去もありますが、大抵は過去から学ばなければ何故失敗したか分…
現状のロケットエンジンは単体では十分な推力を出せないなら、補助推進器として使えば良い、次善策としては良いアイデアですね、補助推進としてロケットエンジンが追加されたなら高高度でも飛行可能かも知れません。…
何れはカーボン繊維とか複合材料。
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