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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第14章 発見篇
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第三十話 夢への離陸

 午前6時。

 快晴の朝。

 放射冷却で冷え込み、薄っすらと霜が降りた。

 が、それはすなわち風が弱い証拠。

 絶好の飛行日和である。

 『絹屋敷』の面々は、既に皆起きていて、この日の飛行を成功させるべく、忙しく立ち働いていた。


 午前6時半。

「先生、『フジ』の整備、終わりました」

「うん、魔力も充填したし、可動チェックも問題ないな」

 ハルトヴィヒとシャルルは飛行機の確認に余念がない。

 そこへ、

「朝食の支度ができました」

 と侍女が知らせにやって来た。

「ちょうどこっちも終わったところだよ」

 と、ハルトヴィヒ。

 時刻は午前6時50分、日が昇ってすっかり霜も消えてしまっていた。


*   *   *


 午前7時。

 朝食の時間。

 緊張している者、期待している者、心配している者……。

 皆黙々と食べる、ちょっと異様な食卓である。

 だが。

「ちちうえ、ぼくもひこうきのってみたいです」

 ……と、タクミが言い出した。


「うーん、それは……」

 言葉に詰まるアキラ。

「ハルト……」

 そして、ハルトヴィヒに聞いてみることに。

「そうだね、僕と君の父上が帰ってきたら、乗ってみるかい?」

「はい、おじさま! ありがとうございます!」

 大喜びのタクミ。

 ちなみにタクミはハルトヴィヒのことを『おじさま』……『小父おじさま』と呼んでいるわけだ。


(まあ、安全性はまず大丈夫だろうからな……)

 アキラとしても、駄目という理由が見つからないのである。

 これは公式訪問だが、『乗客を乗せての飛行試験』という名目で飛ぶなら、子供を乗せても報告書上も問題ないだろう、とハルトヴィヒは考えていた。


 そんなタクミの発言で、ほんの少しだけ場の緊張が解けたようだ。……ほんの少し。


*   *   *


 午前7時50分。

 空は相変わらず快晴、北寄りの風、微風。

 飛行場には、ド・ラマーク領の関係者全員が集まっていた。


「準備完了です」

 副操縦士であるシャルルの声が響いた。

「では閣下、ご搭乗ください」

「了解した」

 公式の飛行フライトなので、人前では格式張ったやり取りをする2人。

 そしてアキラはタラップ……というかハシゴを上り、『フジ』機内へ。

 乗り込む際、アキラは一度振り向いてミチアをちらっと見た。ミチアは小さく手を振って応える。


 最後にハルトヴィヒが乗り込み、操縦席に着いた。


 午前7時58分。

「エンジンスタート」

 操縦士のハルトヴィヒが宣言し、起動スイッチを入れる。

 『フジ』のエンジンが始動し、プロペラが回り始めた。

 電動モーター同様、魔力注入で始動するため、スターターが必要ないのは大きな利点だ。

「左右出力、異常なし」

 副操縦士のシャルルが計器を確認し、報告する。

「発進」

 ブレーキを解除すると、『フジ』はゆっくりと動き始めた。

 飛行場にどよめきが走る。


 次第に滑走速度が上がっていく。

 十分に速度が乗ったところでファウラーフラップが下がり、揚力が増す。

 滑走方向は北、微風ではあるが向かい風を受け、『フジ』はふわりと離陸した。


「おお!」

「飛んだ!」

 初めて見る訳ではないが、やはり離陸する瞬間は、まだまだ人々の心を揺さぶるものなのだ。


 午前8時。

 『フジ』は上昇角15度ほどで、ゆっくりと上昇していく。

 ファウラーフラップも閉じ、空気抵抗の少ない形状フォルムとなることで、速度も上がる。

 そして十分に高度を取ったところで旋回開始。

 ド・ラマーク領の上空を3回、旋回してみせた。


 そして『フジ』はさらに上昇を開始。

 進路を北へと取った。

「行ってらっしゃい」

 聞こえるはずもないが、ミチアは遠ざかる機影に向けてそう呟いたのである。


*   *   *


「おお、乗り心地はいいな」

「だろう?」

 『フジ』の内部では、もういつもどおりの口調でやり取りが行われている。

「もう飛行場があんなに小さくなったぞ」

「対地高度、およそ300メートルです」


 ここでハルトヴィヒは『絹屋敷』を中心とした大きな旋回を行った。

「地上の様子がよく見えるな。夏だったら緑が、秋なら紅葉が綺麗だろうなあ」

 今は初冬、落葉樹は葉を落とし、殺風景である。

 が、その代わりと言っては何だが、北にそびえる山々は白銀に輝いていた。


「あの山を越えて、向こう側の偵察が、今回の目的だ」

 ハルトヴィヒが言う。

「相当高い山ですが、越えられるでしょうか?」

 シャルルが問いかける。

「そこは、ルートを選べばなんとかなるだろう」


 『フジ』の上昇限界はおよそ5000メートル。

 一番高い山は8000メートルはあるが、そこは避けて低いところを飛べばいい、というわけだ。

 

 いよいよ、アキラとハルトヴィヒの夢であった、未知の土地を目指す探検飛行が始まる……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2025年5月3日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
何故か、慣れ親しんだ場所を離れて知らぬ土地に行くって心踊りますね。流石に未開の地とか外国に行くってなると不安しかありませんが。それでも特急に乗り、船に揺られていると行先で何をしようかとワクワクします。
>電動モーター同様、魔力注入で始動するため、スターターが必要ないのは大きな利点だ。 ?「魔力があれば何でもできる!! 1! 2!! 3!!! だー!!!!」 >聞こえるはずもないが、ミチアは遠ざか…
>>『絹屋敷』の面々は、既に皆起きていて、この日の飛行を成功させるべく、忙しく立ち働いていた。 皆、特に意味もなく右往左往してます。 >>「先生、 昨日忘れてた『フジ』の整備、終わりました」 …
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