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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第14章 発見篇
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第二十六話 運用試験、開始

 初冬のその日、ド・ラマーク領は晴れていた。

 朝は冷え込んで一面真っ白に霜が降りたが、日が昇るとともに気温は上昇し、小春日和になった。

 風は北風だが微風、昼間はまだ寒さは感じない。


「いい天気でよかった」

「本当に。ハルトヴィヒさんもほっとしているでしょうね」

「そうだろうな。日程は決められても、その日の天気はわからないからな」

 とはいえ、初冬の頃は、ド・ラマーク領から王都にかけては晴天率が高いのである(アキラが領主になってからの統計では約85パーセント)。

「お昼前に到着でしたね」

「うん。そうしたら、ド・ラマーク領の産物でお昼にしてやろう」

「ハルトヴィヒさんのお好きなものを用意します」

「そうしてやってくれ」


 アキラ・ミチア夫妻は歓迎の準備をととのえ、待ち構えている。

 見上げた空にはちぎれ雲が一片ひとひら浮かんでいた。


*   *   *


 王都にて。

「忘れ物はないな?」

「大丈夫です」

「『フジ』のチェックは?」

「5回やりました。異常なしです」

「よろしい」


 魔法技術大臣ジェルマン・デュペーが、ハルトヴィヒとシャルルに、最後の確認を行っていた。

「フォンテンブローとプロヴァンスそれぞれに届ける荷物も間違えないようにな」

「はい、荷物に明記しましたから」


 最終的に、ド・ラマーク領までの間にある2つの都市……『フォンテンブロー』と『プロヴァンス』に中間着陸をし、荷物(生鮮野菜と手紙)を下ろすという運用試験も行うことになっている。

 『フジ』の最大積載量は、推定200キログラム(2名搭乗時)。

 今回は150キロを積んでの試験飛行となる。

 フォンテンブロー、プロヴァンス、そしてド・ラマーク領で下ろす荷物はそれぞれ25キロが2つで計50キロ、それが3箇所分で150キロということになる。

 それらは貨物室に、下ろす順番に積まれている。

 つまり一番奥がド・ラマーク領向け、次がプロヴァンス向けで、一番手前がフォンテンブロー向けの荷物となる。

 これなら間違えて下ろす心配もない。


「2人とも、十分に休んだかな?」

「ええ、大丈夫ですよ」

「はい、大丈夫です!」

 ハルトヴィヒもシャルルも、8時間以上寝て十分に身体を休めていた。

「それならよし。そろそろ時間だ、頑張ってきてくれ」

「はい!」


 2人は魔法技術大臣ジェルマン・デュペーに敬礼をし、『フジ』に乗り込んだ。

 時刻は午前8時。『フジ』のプロペラが始動した。

 ファウラーフラップが動き、高揚力状態になる。

 プロペラの回転が上がり、車輪のブレーキが外され、『フジ』はゆっくりと動き出した。


「いいぞ」

「各部、異常なし」

 操縦しているのはハルトヴィヒ。

 シャルルは計器類を確認している。

「エンジン出力、最大」

「エンジン、魔力共に異常なし」


 『フジ』は滑走速度を上げる。

「やはり機体が重いな」

「主翼の歪み、許容レベル」

「離陸するぞ!」

 軽く操縦桿を引けば機首が上がり、『フジ』の車輪は滑走路を離れた。

 そのまま、仰角20度ほどでゆっくりと上昇していく。


「エンジン出力、80パーセントに落とす」

「エンジン温度、問題なし。潤滑、良好」

 飛行機が最もエンジンパワーを必要とするのが、離陸時と垂直上昇時である。

 今の『フジ』はエンジンの推力だけで垂直上昇ができるだけの余裕があった。


 高度500メートルに達すると、エンジン出力は50パーセントに落とされた。

 この出力であれば、『フジ』は理論上はいつまでも飛んでいられるのだ(搭乗員の問題があるので限度はある)。


 あっという間に王都パリュは小さくなっていく。

「天気がよくてよかった」

「本当ですねえ。天気だけはどうにもなりませんから」

「だが、長距離を飛べば、悪天候に見舞われることだってあるだろう。次はそうした場合への対処だな」

「そうなりますか……先生は本当に、いろいろ先を見据えてますね」

「そうかな? ……そうかもなあ……」

 眼下には冬枯れの大地が広がっており、その中を貫く街道がよくわかる。

 この街道沿いに飛べば、ド・ラマーク領にたどり着けるのだ。


「計器でみても、ほぼ真北へ飛んでいます」

「そうか」

 街道は期せずしてほぼ南北に伸びているようだ。


*   *   *


 1時間ほどで最初の目的地、フォンテンブローの町に到着。

 町の東側に作られた飛行場へと着陸する『フジ』。


「なかなかよくできた飛行場だな」

「そうですね。舗装状態も良好ですし、広さも申し分ないですし」

 ファウラーフラップはエアブレーキとしても使える。

 できるだけ短い距離で停止するためにも役立つのだ。


 停止した『フジ』のところへ、女性の役人1人と、屈強な4名の兵士が駆け寄ってきた。

「お待ちしていました、ラグランジュ卿。私はここフォンテンブローの官吏でマリアベート・デサントと申します」

「お出迎えいたみいります。さっそくですが、お届け物です」

「承っております。……皆さん、よろしくお願いします」

「はっ」

 官吏マリアベートが指示をすると、4人の兵士はシャルルが開いた貨物室前へと群がり、25キロの荷物2つを運び出していた。


「フォンテンブロー宛荷物、確かに受け取りました!」

「はい、ご苦労さまです」

 兵士の申告を聞いた官吏マリアベートは、受取書類にサインを行った。

 これで配達任務は完了である。


「では、これで失礼する」

「道中の無事をお祈りいたします」

 貨物室の扉のロックを確認したハルトヴィヒとシャルルは、再び機上の人となったのである。


 次の目的地はプロヴァンスである……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2025年4月5日(土)10:00の予定です。


 20250329 修正

(誤)「本当ですねえ。天気だけはどうにもありませんから」

(正)「本当ですねえ。天気だけはどうにもなりませんから」

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― 新着の感想 ―
「『フジ』のチェックは?」 「5回やりました。異常なしです」 「よr 『ヨシ!』( ・∀・)σ 「……なんだあの猫妖精は」 「一気に不安になりましたね……」 「済まないが再チェックお願いできるか?」 …
>「そうかな? ……そうかもなあ……」 思わぬ指摘に戸惑うも、色々心当たりが…トラウマが…かゆ…うま… >街道は期せずしてほぼ南北に伸びているようだ。 街道の基礎を作った馬車馬と馭者たちが優秀だ…
>>風は北風だが微風、昼間はまだ寒さは感じない。 室内に居るからね! >>「うん。そうしたら、ド・ラマーク領の産物でお昼にしてやろう」 絹とか茣蓙とか畳とか!! >>王都にて。 >>「忘れ物は…
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