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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第14章 発見篇
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第二十五話 冬の始めに届いた知らせ

 初冬のド・ラマーク領は晴天が続く。

 その分、朝の冷え込みは厳しくなり、連日霜が降りるようになる。

 溜め池には薄氷が張るようになった。


「放射冷却、でしたっけ」

 真っ白になった庭を窓から見下ろし、ミチアが言った。

「うん。雲がない晴れた夜は、地表からの熱がどんどん逃げていって冷え込んでしまうんだ」

「そうでしたね。風が弱いとなおさら冷えるんですよね」

「そうだな。風があれば空気をかき回してくれるから、温度分布に偏りができにくくなって冷え込みが弱くなる」


 お茶畑などで夜中に扇風機を回すのが、こうした理由からである。

 もう少し魔力運用が効率よくなったら、そうした施設を作って冬もなにか作物を育ててみたいと考えているアキラである。


 それはともかく。

「昨日の夕方、王都から手紙が届いた」

「そうでしたね。ハルトヴィヒさんからでしょう?」

「そうだ。……日付を計算すると明後日、新型機の試験を兼ねてこっちへ来るそうだ」

 昨日、ミチアは領内の見回りをアキラに代わってしてくれており、戻ってきたのは夜だったので、手紙の話をしないで休んでしまったのである。


「久しぶりですから、楽しみですわね」

「そうだな。それ以上に、新型機を見てみたい。今度の機体なら、北の山を越えて向こうへ行けるといいな」

「あなたとハルトヴィヒさんの夢でしたものね」

「うん」

 寄り添って窓から霜の降りた庭を眺めるアキラとミチアだったが、その服の裾をつんつんと引っ張る者がいた。

「ちちうえー」

 息子のタクミである。

「お、タクミか」

「ごはん、できたって」

「そうか」


 ミチアも食事の支度はするが、今朝は侍女が作ってくれている。

 領主としては雇用を増やして経済を少しでも回す義務もあるのだ……。


*   *   *


 王都では、明後日の出発のための支度で大わらわだった。

 今回は『フジ』が飛ぶ。

 その速度よりも物を言うのは積載量だ。

 つまり、情報と物資の輸送である。

 今回は途中にある町2箇所に中間着陸を行い、手紙と荷物を届けることになっている。

 以前アキラが王都で説明した『航空便』というわけである。


「今回は実験的に野菜と果物ですか」

「生鮮食品を運べるかという試験ですね」

 実際の運用時には高価なもの限定となるだろうが、今回は試験なので普通の野菜……傷みやすいものを厳選しているが……である。

 木箱に詰め、蓋をして運ぶ。


 手紙に関しては通常レベルのもの。

 極秘文書や重要書類は『運び人』……近衛騎士クラス……と共に運んでもらうことになる。


 そして、大揉めに揉めているのは……。

「今度こそ、私が同行する!」

「いや、私だ!」

「いやいや、『フジ』に一番慣れている私が」

「一番と言ったって数時間の差しかないじゃないか!」

「そうだそうだ」


 ハルトヴィヒに同行する副操縦士を誰にするか、である。

 最終的に、くじ引きで決まったのはシャルル・ボアザンだった。

「よっしゃ!」

「く……残念」

「まだこの先、いくらでもチャンスは有るさ」

「その余裕が憎らしいぜ」


 そんな言葉を交わしてはいるが、3人はよき仲間同士、

「気を付けて行ってこいよ」

「みやげ話を楽しみにしているぜ」

「ああ、任せろ」

 と、握手を交わす3人なのである。


*   *   *


 一方、ガーリア王国の南東に隣接するゲルマンス帝国。

 その北東部、海に面しているペーネミュンデの町では、『異邦人(フレムデ)』が残した『覚え書き』の中に、一風変わった飛行機を見つけ、検討していた。


「この飛行機の絵には、車輪がなく、代わりに船が付いているな」

「絵からもわかる、これは地上ではなく水上を滑走する飛行機だろう」

「飛ぶのだろうかな? 単に船の代わりにこうしている可能性は?」

「うーむ……飛行機を船に改造した、という可能性もあるな」

「ちょっと船が重そうだし、飛べないのではないかな?」


 それはフロート付きの水上機と呼ばれるタイプの機種のイラスト。

 だが、そこまでの説明は書かれていない。

 なのでその絵を見た者はさまざまに想像し、真実に近付こうとするのだ。

 しかし、である。

 それは確実ではない……。


「とりあえず、この方法を使えば、帆を使わずに船を走らせられるのではないか?」

「うーん……確かに」

 『異邦人(フレムデ)』の『覚え書き』には、船に関するものが極端に少なかったのだ。

 そのため、彼らは正解に近付いてはいるものの、微妙にズレた解にたどり着いていたりする。


「このプロペラ推進を使えば、帆がなくても走る船ができるぞ」

「とりあえず飛行機が完成できないなら、そっちを報告するべきだな」

「こっちはすぐできそうだ」

「既存の船にエンジンとプロペラを付ければいいからな」

「うむ」


 こうした方向性に特化していき、ゲルマンス帝国は造船で世界を席巻することになる……かもしれない……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2025年3月29日(土)10:00の予定です。


 20250403 修正

(誤)「そうだな。風があれば空気をかき回してくれるから、温度分布に偏りができにくいから冷え込みが弱くなる」

(正)「そうだな。風があれば空気をかき回してくれるから、温度分布に偏りができにくくなって冷え込みが弱くなる」

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― 新着の感想 ―
以前、知識・技術の進歩は低い人達ではあまり進まないとコメントしましたが………低い人達でも進歩することがあり、その根底には“発想の転換”があります。これは駄目だったがこれは良かった。これにはそれは駄目だ…
>一風変わった飛行機を見つけ、検討していた。 エクラノプランじゃないのかなw >「既存の船にエンジンとプロペラを付ければいいからな」 簡単に取り付けられる良い感じの船外機を作っちゃえばベストセラ…
>>冬の始めに届いた知らせ 飛行機関連かな……訃報? >>「放射冷却、でしたっけ」 異世界なので魔法的な放射冷却も有ります。 >>もう少し魔力運用が効率よくなったら、そうした施設を作って冬もな…
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