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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第14章 発見篇
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第二十三話 里帰り

 ド・ラマーク領の秋は深まり、朝晩はかなり冷え込むようになった。

 木々の葉も半ば散って、冬はもうすぐそこまで来ていることを感じさせる。

 冷え込んだ朝には薄氷も張るようになった。

「かーさまー、さむいのー」

「はいはい、早く着替えましょうね」

 寒がりのエミーは朝の寒さが苦手で、なかなか布団から出ようとしない。

「エミー、はやくおきなよ」

 対してタクミは寒さに強いらしく、目が覚めるとぱっと布団から飛び出してさっさと着替えてしまう。


「そろそろ暖房の季節かな」

「そうですね」

 もちろん『絹屋敷』にも『ハルト式エアコン』は完備されている。

 が、部屋と外との温度差が大きすぎると出入りした際に身体に負担が掛かるため、あまり温めすぎないようにしているのだ。

 とはいえ、無理をして風邪を引くのも本末転倒なので、エミーが3日続けてぐずり出したら暖房を入れることにしていた。


「今年から断熱材を入れたしな」

「ええ」

 老朽化した『絹屋敷』ではあるが、隙間風は入らないよう修理してあるし、一部の部屋の壁、床下、天井裏には、今年から断熱材として『グラスウール』を入れてある。


 『グラスウール』の作り方は比較的簡単だ。

 『綿菓子』を作るときと同様、原料となるガラスを溶融し、小さな穴が多数空いた容器に入れて回転させることでガラス繊維を作ることができる。

 現代日本ではさらにその繊維を引き伸ばして細くしているが、こちらではそこまでは加工できないため、やや太め(といっても10ミクロン以下)である。

 使用するガラスの品質はそれほど高くなくてよいので、ガラス工芸の廃棄品を使っており、エコである。


「今度の王都行ではこの『グラスウール』がキーアイテムになりそうだ」

「断熱材として優秀ですからね。軽いですし」

「冷蔵庫にも使えるだろうし」

「あとは量産の方法を確立すること、でしたね」

「そうだな。それは王都の技術者に任せよう。ハルトヴィヒにはもう手紙で知らせておいたよ」


*   *   *


 その王都では、ハルトヴィヒたちが、『フジ』の成功を祝い、かつ改良点を話し合っていた。


「『フジ』の性能は思った以上だ。操縦性も問題ない。あとは、居住性をもう少し上げたいと思う」

「そうですね。長距離飛行、長時間飛行を目的とする飛行機ですから居住性は大事です」

「それには機内の保温が重要ですね」

「それについては僕に考えがある」


 ハルトヴィヒは、アキラからの手紙を出してみせた。

「ガラスを使った繊維……『グラスウールの作り方』が書かれている」

「ガラスで繊維を作れるんですか?」

「それはすごい技術ですね」

「ガラスでしたら燃えないでしょうし、……ウール? みたいにできるなら断熱性も高そうです」

「水濡れにも強いでしょうし、カビも生えないでしょう」

「早速やってみましょう」


 技術者は新しいものに目がない。

 そういうわけで『グラスウール』作りに挑戦した彼らは、アキラからの手紙によるアドバイスがあったとはいえ、たったの2日でシート状の『グラスウール』を作ることに成功し、『フジ』機内の断熱性を向上させることに成功したのである。


*   *   *


 さて、所変わってゲルマンス帝国のハイリンゲン地方。

 ハルトヴィヒの妻、リーゼロッテは娘ヘンリエッタを連れて里帰りをしていた。

 リーゼロッテは6女なので、他の兄弟姉妹とはかなり年が離れており、さらにいえば両親もすでに高齢である。

 そこで家族が健在のうちに孫(兄弟姉妹にとっては姪)の顔を見せておこうと、この里帰りとなったわけである。


 現在のゲルマンス帝国皇帝は先年代替わりしたばかりだが、平和を好む聡明な君主であり、帰化したリーゼロッテの里帰りも全く問題なくスムーズな入国ができていた。

 現在の皇帝はカール・ハルツバッハ・リヒテンシュタイン3世、ハルトヴィヒと同じ35歳の壮年である。

 隣接するガーリア王国とは資源や技術のやり取りを通じ、良好な関係を構築できている。


 ヘンリエッタの手を引いたリーゼロッテが馬車から降りると、玄関前で両親が出迎えていた。

「お父様、お母様、ご無沙汰しております。ただいま帰りました」

「うむ、お帰り。健勝のようだな」

「おかえりなさい、ロッテ。……その子が……?」

「ほら、お祖父様とお祖母様ですよ」

「おじーさま?」

「おお、そなたがヘンリエッタか! ロッテの小さい頃によく似ておるのう」

 ゾンネンタール家当主、ヴォルフガング・フォン・ゾンネンタール子爵が目を細めて孫を出迎えた。


「おばーさま!」

「ヘンリエッタちゃん、お幾つになったのかしら?」

「7さいです。ことし8さいになります」

「まあまあ、はきはきしていて活発な子ね。そんなところもロッテによく似ているわ」

 第2夫人であるマルティナ・フォン・ゾンネンタールもまた、嬉しそうだ。


 長男・次男・3男・長女・次女・3女・4女を産み育てた第1夫人カテリーナ・フォン・ゾンネンタールは5年前に他界しており、マルティナは4男・5女、そして6女のリーゼロッテを産み育てている。

 ちなみに当主のヴォルフガングは今年で75歳、まだまだ矍鑠かくしゃくとしている。


 そんな両親にヘンリエッタを会わせたところ、2人ともこの最年少の孫娘にメロメロで、猫可愛がりを始めた。


「ロッテも元気そうだな。ガーリアではうまくやっているのかい?」

「はい、テオお兄様」

 長男で、後継者のテオドール・フォン・ゾンネンタールも、久しぶりに妹に会えて微笑んでいる。

 第1夫人・第2夫人の仲はよく、従って兄弟姉妹も反目することもなく仲のいい家族であった。

 とはいうものの長女から5女は全員嫁いでいるし、兄弟たちも長男のテオドール以外は婿に行ったり王都で文官武官を務めたりして家にはいない。

 なのでなおのこと、末娘であるリーゼロッテの里帰りは嬉しいのだった。


「……片道4日も掛かったけど、『飛行機』なら半日も掛からないのよね……」

 久しぶりに自室でくつろぐリーゼロッテは、ぼそりとそんな独り言を漏らした。

「ハイリンゲン地方は森林が多いから、飛行場を作るのは難しそうだけど、少し先にあるペーネミュンデなら海が近いから平野が多いし……飛行場も作れそうね」


 そのペーネミュンデではゲルマンス帝国製の飛行機開発が行われていることを、リーゼロッテは知らなかった(そもそも国家機密である)。


*   *   *


「うーん、だめだ、うまくいかない……!」

 そのペーネミュンデでは、今日も『飛行機』の模型による飛行実験が繰り返されている。

 が、参考にしているのは『異邦人(フレムデ)』が残したスケッチのみ。

 研究は遅々(ちち)として進まない。

「技術を学びに行っているあの2人が帰ってくれば……!」


 あの2人とは、マンフレッド・フォン・グラインとヴァルター・フォン・ベルケのことである。

 確かに彼らが帰ってくれば、ゲルマンス帝国の飛行機技術は飛躍的に伸びることになるだろう。

 だが、それは来年のことになる。

 それまでは、ペーネミュンデの技術者たちの苦労は続くことだろう……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2025年3月15日(土)10:00の予定です。


 20250308 修正

(誤)現在の工程はカール・ハルツバッハ・リヒテンシュタイン3世

(正)現在の皇帝はカール・ハルツバッハ・リヒテンシュタイン3世

(誤)ヘンリエッタの手を引いたリーゼロッテが馬車から降りると、玄関前で両親が出迎えていた・

(正)ヘンリエッタの手を引いたリーゼロッテが馬車から降りると、玄関前で両親が出迎えていた。

(誤)確かに彼らが帰ってくれば、ゲルマンス帝国の飛行機技術は比較的に伸びることになるだろう。

(正)確かに彼らが帰ってくれば、ゲルマンス帝国の飛行機技術は飛躍的に伸びることになるだろう。


 20250313 修正

(誤)長男で、後継者のテオドール・フォン・ラグランジュも、久しぶりに妹に会えて微笑んでいる。

(正)長男で、後継者のテオドール・フォン・ゾンネンタールも、久しぶりに妹に会えて微笑んでいる。

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自分は冬に寝所からすぐに出れる派ですが………冬の気温は苦手です。 そんな隙自語はともかく、やっぱり技術・知識の発展は低い人達の自主性に任せるだけでなされることはそんなにないですね。やっぱり高い人のテコ…
>寒がりのエミーは朝の寒さが苦手で、なかなか布団から出ようとしない。 ♪布団の中から出たくない~ 布団の中に全てあればいいのに~ (布団の中から出たくない by 打首獄門同好会) >「水濡れにも強…
>>寒がりのエミーは朝の寒さが苦手で、なかなか布団から出ようとしない。 ……隙間風がね、しょうがないさ。 >>が、部屋と外との温度差が大きすぎると出入りした際に身体に負担が掛かるため、あまり温めす…
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