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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第14章 発見篇
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第二十二話 また一歩、近づく夢

 日ごとに秋が深まり、ド・ラマーク領における養蚕も、終盤に差し掛かっている。

 『晩秋蚕ばんしゅうご』が全て繭になったのである。


「全部糸にすると……うん、去年よりも17パーセントの増産になるかな?」

 今年もド・ラマーク領のシルク産業は好調である。


「水脈もほぼ調査が終わったようだから、来年には水路と溜め池の工事を始められるだろうな」

 夏の渇水に備えての工事である。

 途中の溜め池では『い草』を作ることも検討しており、一石二鳥の工事にしたいとアキラは考えていた。

 水源は、北の山にある大きな湖から流れ出る伏流水を利用することになる、とティーグル・オトゥールから報告を受けていた。

 この伏流水は非常に潤沢で、ド・ラマーク領が必要とする農業用水の5倍以上ということで、将来的にも有望な水源であった。


「なんとか年内いっぱいは、領内に溜め池を作る工事を行えるだろう」

 雪が降り、地面が凍ってしまうと工事はできなくなるので、そうなる前の1ヵ月半くらいが工期となる。

 費用は全て領主であるアキラが出すことになり、領内の経済としてみれば活性化が期待できるであろう。

 もっとも、『絹屋敷』の改築は1年伸びることになるのだが……。


*   *   *


 この日、王都では最新型機『フジ』の初飛行が行われる。

 飛行場には関係者が集まり、今や遅しと待ち構えていた。

 どこから聞きつけたのか、一般人もやって来ていたが、兵士たちに追い返されていた。

 残ったのは近衛の兵士や工房関係者、それに魔法技術大臣のジェルマン・デュペー、近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーなどお偉方だ。


 『フジ』の周りでは最終チェックが行われていた。

「先生、チェック完了しました」

「こっちも終わったよ」

「いよいよ初飛行ですね」

「天候のコンディションも上々ですし」

 天気は薄曇り、西の風、微風。

 新型機の初飛行にはもってこいだ。


「それじゃあ行こうか」

「はい、先生」

 操縦士はハルトヴィヒ、副操縦士はレイモン。

 2人はゆっくりと『フジ』に乗り込んだ。


 時刻は午前10時、『フジ』のエンジン2基が始動した。

「おお!」

 ギャラリーから歓声が上がる。

 『フジ』はゆっくりと動き出す。

 滑走路は西向き、おあつらえ向きに向かい風だ。

 エンジンの回転が増し、プロペラの風切音が甲高くなった。

 それにつれ、機体の速度も増していく。


「おっ?」

 誰かの声が響いた。

 『フジ』の主翼が動いた、いや、フラップが作動したのだ。

 同時に機体の速度が増す。

 本格的な滑走を始める『フジ』。

 滑走距離100メートルほどで、機体がふわりと浮いた。

「おおっ!」

「飛んだ!」

 飛行機が飛ぶ場面はもう何度も見ているはずのギャラリーだが、ほぼ全部が関係者だけに、この『フジ』への期待も大きいのだ。


 一旦離陸すると、地面から受ける抵抗がなくなり、機体はぐんと加速する。

 『フジ』は機首を持ち上げ、上昇していく。

「うん、安定してるな」

 地上から眺めるアンリ・ソルニエがほっとした顔で言った。

 地上での試験でどれだけ好成績が得られても、実際の飛行も大丈夫、とは言い切れないのだ。

「あれなら大丈夫だ。先生とレイモンならうまくやるさ」

 シャルル・ボアザンも、小さくなっていく機影を見ながらそう呟いたのである。


*   *   *


「左右のエンジンバランス、誤差1パーセント以下」

「うん、いい成績だね」

 『フジ』の中では、ハルトヴィヒが操縦、レイモンが各種計器のチェックという分担である。

 これはあくまでも初飛行、テスト飛行であるから、機体各部のチェックは必要不可欠なのだ。


「ファウラーフラップ動作問題なし。脚部振動既定値以下。横方向安定性良好」

 レイモンが計器を読み、報告する。

「うん、いいね。操縦桿の重さもこのくらいなら許容範囲だ」

 軽すぎると機体の挙動が不安定になりやすく、重すぎれば操縦しづらくなる。

 計器から読み取れる機体の挙動や反応に加え、操縦のフィーリングもまた重要なチェックポイントである。


「エンジン出力50パーセントから30パーセントに。上昇から水平飛行に」

「魔力回路も異常はなさそうだね」

「はい、先生」

 『フジ』は高度500メートルで水平飛行に移行。

 ハルトヴィヒとレイモンは会話をする余裕が出てきた。


「魔力の残量がはっきりと表示できるといいですね」

「そうだな。そうすれば、あとどのくらい飛べるか、見当がつく」

「今は一杯であるか、減ってきたか、くらいしかわかりませんからね」

「要改良だな」

 そんな改善点も見えてくる。


「機体の振動も問題ないし、機体内の与圧もうまくいっているようだね」

「はい。空調もちゃんと効いています」

「居心地もいいね」

 障害物のない上空での水平飛行は、できるだけ操縦者の負担を減らせるよう設計してあるのだ。

 操縦桿片手に軽食を摂れる、というのが理想なのだが、さすがにまだそこまで安定性はない。

「……そうだ、飛行中の食事を工夫すればいいかもしれない」

「先生?」

「今度、アキラに相談してみよう」


 様々なものを作り出してきたハルトヴィヒであるが、料理・食事は専門外であった……。


*   *   *


「おお、速いな」

「もう予定の高度500メートルくらいですね。……ああ、水平飛行に入りました」

「安定しているようだな」


 下で見ている関係者たちは、多少なりとも飛行機について知っているため、飛行の様子を見て判断できるだけの知識はあった。


「成功だな」

「大成功ですよ!」


 こうして、アキラとハルトヴィヒの夢は、また一歩現実に近づいたのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2025年3月8日(土)10:00の予定です。


 20250506 修正

(誤)「年内は領内に溜め池を作る工事を行える」

(正)「なんとか年内いっぱいは、領内に溜め池を作る工事を行えるだろう」

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― 新着の感想 ―
>「魔力の残量がはっきりと表示できるといいですね」 水量計的なやつで使用量を計ってから逆算するとか。 >操縦桿片手に軽食を摂れる、というのが理想なのだが、さすがにまだそこまで安定性はない。 流石…
>>また一歩、近づく夢 夢はでっかく世界征服!! >>「全部糸にすると……うん、去年よりも17パーセントの増産になるかな?」 アキラ「繭の数が前年度より17個多いから間違いない!!……きっと!!…
>>養蚕も、終盤に差し掛かって 仁「種の限界・・・・が?」 56「変異が?」 明「今秋の作業の話だっ!」 >>費用は全て領主で 仁「お小遣いが何時までも増えない?」 56「こっそり買い食いする駄菓子…
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