表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第14章 発見篇
392/437

第十九話 かぶれにはご用心

 ド・ラマーク領では『秋蚕あきご』が順調に育っている。

 春・夏に比べ、秋はどうしてもクワの葉の収穫量が少なくなるので、蚕の飼育数も少なくせざるを得ない。その分世話が楽になるわけだが……。


 また、傾向として、秋蚕あきご晩秋蚕ばんしゅうごの繭は糸が細めで艶がある。

 従って、細い糸を紡ぐことができ、しかも艶があるということで高級品を作れるのだ(ただし量が採れない)。

 だが量が少ない分より高級品扱いとなる、ともいえるので、ド・ラマーク領としてもよい収入源となっているのだ。


 この季節は、『秋蚕あきご』の世話以外にも大事な作業がある。

 1年最後の蚕、『晩秋蚕ばんしゅうご』に食べさせるクワの葉を集める仕事だ。

 『晩秋蚕ばんしゅうご』の季節になると、クワの葉は黄葉してしまい、蚕は食べなくなってしまうため、まだ緑のうちに収穫して保存するのである。

 ちなみに、こうして葉を採ってしまうため、クワ畑の黄葉はほとんど見かけないのだ。

 また、本来なら10メートルを超す大木となるクワの木であるが、ひんぱんに葉を摘むため、クワ畑内では2メートル前後に留まってしまう(手が届く範囲に収めるため剪定する、ということもある)。


 が、山に残した十数本の親木おやぎ(クワは挿し木で増やせる)は見事に色づいていた。


*   *   *


「きれー」

「きれいだね、エミー」

 アキラ一家、今日は近所の山にハイキングである。

 アキラ、ミチア、タクミ、エミーに加え、侍女のリリアと木工職人のティナ(四話参照)も一緒である。

 木象嵌が得意なティナは、木の種類についても詳しいので、同行してもらったのだ。

 また、木工に使えそうな珍しい木がないか、本人が見に行きたがったこともある。


「色付きはじめ、ってところか」

 『絹屋敷』付近ではまだ紅葉は始まっていないが、山の中腹まで来ると、色付きはじめた木々が増えてくる。

 樹種によってはもうすっかり色付いているものもある。


「カエデ類は少し遅いようです」

「そういうものかな」

「葉の薄い木は早い傾向がありますね」

 ティナが説明してくれた。


「トチノキは黄葉が早めですね。ヤマウルシやハゼノキ、ヌルデも早いです。……鮮やかな朱色の木はかぶれるかもしれないので気を付けてください」

「ああ、わかった」

 そんなことを言っていたら。

「ちちうえー、きれいなはっぱがありましたー」

 と言いながら、タクミがヌルデの葉を持ってきたではないか。

「タクミ、捨てなさい! 早く!」

「え? なんで?」

「その葉っぱには毒があるから!」

「あ、はーい」


 毒、とは少し違うが、悠長に説明している場合ではないので大急ぎでヌルデのはを手放させるアキラ。

「タクミ、手はなんともないか?」

「はい、べつに」

「一応洗っておけ」

 飲み水だが、そんなことは言っていられないので、水筒から水を出してタクミの手を洗わせるアキラ。

「これでよし」

 後からかぶれてくることもあり得るので油断はできないが、まずは一安心……と思ったら。

「にぃに、これ、いらないの?」

「うわああ、エミー、それを放すんだ!!!」

 タクミが手放したヌルデの葉をエミーが拾ってしまっていた。

 そこで、大急ぎでエミーの手も洗わせるアキラであった。


*   *   *


 幸いにも、帰宅した後も何の症状も出なかった。

 タクミもエミーも漆かぶれには強い体質のようで、一安心するアキラとミチアであった……。


*   *   *


 王都では、新型機の組み立てが最終段階に入っていた。

 機体はほぼ完成。

 残っているのは内装と最終チェックである。

 その内装も、あとは座席の取り付けのみ。

「計器類は3度チェックしました」

「エンジンは4度」

「操縦系統は5度チェックしています」

「いずれも異常なし」

「ついにここまで来たね。みんな、よくやってくれた」

 ハルトヴィヒは組立工場内に鎮座する新型機を見上げた。


 乗員    :1名(操縦士)

 定員    :4名(乗客)

 全長    :10メートル

 全幅(翼幅):10メートル

 全高    :4メートル

 空虚重量  :3200キログラム

 最大離陸重量:4500キログラム(推定)

 エンジン  :ハルト式10段回転盤エンジンx2

 最高速度  :時速450キロメートル(推定)

 上昇限度  :およそ5000メートル(推定)


 というのがスペックである。

 推定とあるのは、まだ実地試験を行っていないからだ。

 なお、今回は双発機なので2重反転プロペラは用いない。


「この機体の名前はどうします?」

「それはアキラから提案されているものがあるんだ」

「それは?」

「『フジ』という名前なんだが」

「どういう意味ですか?」

「アキラの祖国で一番高い山で、国の象徴でもあるんだそうだ。画像を見せてもらったことがあるんだが、美しい山だったよ」

「へえ……」

「フジ、ですか。響きもいいですね」

「僕としては、異議がなければ『フジ』としたいんだが」


 異議は出なかった。

 こうして、新型機の名は『フジ』に決まったのだった。


 『フジ』の試験飛行はまもなくである……。

 お読みいただきありがとうございます。


 活動報告でもお知らせしましたが、入院の関係もあり、

 次回更新は2025年2月15日(土)10:00の予定です。


 20250505 修正

(旧)また、こうして葉を摘むため、本来なら10メートルを超す大木となるクワの木であるが、

(新)また、本来なら10メートルを超す大木となるクワの木であるが、ひんぱんに葉を摘むため、

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>>かぶれにはご用心 某錬金術師「くふくふくふ」モグモグ >>春・夏に比べ、秋はどうしてもクワの葉の収穫量が少なくなるので、 蚕の餌も少なくせざるを得ない。 蚕「解せぬ」モシャモシャ >>従っ…
子供ってなんでも拾っちゃうからなあ 注意できるタイミングだったのが良かったですわ
>>漆かぶれには強い体質のよう 仁「くわばら。くわばら」 56・明「・・・・・・」 先「」(o_o) >>あとは座席の 仁「おばちゃんの所へ取りに行く?」 56「ある程度までなら無茶な注文でもこなし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ