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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第14章 発見篇
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第九話 安定と発展と

 ド・ルミエ侯爵領では、ボーキサイトと思われる鉱石の試掘が始まっていた。

 当面の目的は2つ。

 本当にボーキサイトなのか、そしてボーキサイトだとしたら埋蔵量はどれくらいなのか、である。


「比較的、運搬路の付けやすい場所でよかったな」

「は、閣下」

 山奥とはいえ、木材の搬出に使う道が付けられていたため、フィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵らは馬でやって来ることができていたのである。

「これなら、鉱石の搬出も効率がよさそうだな」

「はい、閣下。途中からは船も使えるかと」

「おお、その手もあるな」

 大きな川ではないがすぐそばに谷川があり、500メートルほど下ればもう滝もなく、小船であれば使用できる水深となる。

 さすがに『自動車』はまだこちらにまでは回ってきてはいないので、船でかなりの距離を運べるのはありがたいことだった。


「閣下、やはりこれはボーキサイトですね」

「おお、そうか!」

 王都から招いた鉱石の専門家が、これも王都でもらってきたサンプルと比較し、ボーキサイトであると断定したのである。


 この日を境に、ド・ルミエ侯爵領は、さらなる発展を遂げることになる。


*   *   *


 アキラが治めるド・ラマーク領では、いつもと変わらない平穏な日々が流れていた。


「お蚕さんももう3齢か」

「へい、大分クワの葉を食べるようになりました」

 が、陽気も暖かくなり、クワの葉も急速に伸び始めているため、飼料にはこと欠かない。


 飼育時、保存用のクワの葉で育てた蚕は、採れたてのクワの葉も喜んで食べるが、その逆は駄目なのである。

 つまり、新鮮なクワの葉で育った蚕は、加工された保存用のクワの葉はほとんど食べないのだ。

 ゆえに、養蚕の最終シーズンである『晩秋蚕ばんしゅうご』の時は要注意である。

 落葉期となって新鮮なクワの葉が手に入らなくなってしまったら、蚕が食べるものがなくなってしまうからだ。


 閑話休題。

「春になったんだなあ」

 今は『春蚕はるご』の季節。クワの葉は若葉ばかりで、蚕も喜んで食べてくれる。

 日に日に緑を増す桑畑で葉を摘む作業もまた、春を感じられて楽しいものだ、とアキラは思っている。

「今年も、穏やかな年になるといいな」

「はい」


 平年並み。

 自然を相手にする仕事に携わる者たちは、皆そう願っている。

 暑すぎても寒すぎても、降水量が多くても少なくても……苦労することになるからだ。


 アキラは、ふと北の山を見上げた。

 白銀に輝く残雪。それは例年どおりの量に見える。

 よほどのことがない限り、水不足にはならないだろうと、まずは一安心であった。


*   *   *


 王都では、ド・ルミエ侯爵領でボーキサイトが見つかったという知らせに沸いていた。

 これで、新素材である『ジュラルミン』の大量生産の目処めどがたったからである。

 まもなく、鉱山の専門家もド・ルミエ侯爵領に出向することになるだろう。


「運搬用のトラックの製造を命ずる」

 王命により、大型トラック(といっても、まだこの世界的には2トン車クラス)の量産が始まった。

 自動車技術の第一人者となったルイ・オットーは、設計に掛かりきりである。


 そして、この自動車製造において、『ゲルマンス帝国』からもたらされた、『過去の異邦人(フレムデール)覚書おぼえがき』が役に立っている。

 トラックに多用される『ラダーフレーム』や『板ばね式サスペンション』、『ボールベアリング』などのスケッチが多数含まれていたため、設計時の参考になったのである。


*   *   *


 そして、ハルトヴィヒ率いる航空機部門も大忙しであった。

 新型機『エトワール1』が量産され始めたことを受け、より高性能な最新鋭機を求めて実験・試作が行われているのだ。


「反トルクを打ち消すため、『二重反転プロペラ』の開発を行いたい」

 『ジュラルミン』の量が確保できないため、まだしばらくの間、機体の開発に手を付けることができない。

 その代わりに、この新技術に目をつけたのである。


 『二重反転プロペラ』は、同軸上に取り付けた2組のプロペラを、それぞれ反対方向に回転させるもの。

 プロペラの回転により、その回転の反対方向に作用・反作用の法則によって『反トルク』が生じる。

 『二重反転プロペラ』はこの反トルクをなくすための技術である。


「『ハルト式回転盤エンジン』なら構造がより簡単になるはずですからね」

「ああ、うん、そうだな」

 『ハルト式』と冠されることに未だに抵抗のあるハルトヴィヒであった。


 それはともかく、同軸上の2組のプロペラをそれぞれ反対方向に回転させるために、現代日本、いや現代世界では歯車機構を使う。

 従って構造が複雑になってしまい、必然的に故障率が高くなる。

 だが『ハルト式回転盤エンジン』は違う。

 魔法によって円盤を『押し』て回転させているので、回転盤ごとに回転方向を逆にすることも楽にできるのだ。

 これがレシプロエンジンだと、クランクシャフトの剛性の問題で、そう簡単に同軸化して逆回転させることはできない。

 シャフトに加わる力の種類が根本的に異なるからだ。

 すなわち、レシプロエンジンはピストンの運動による『曲げ』、ハルト式エンジンは『ねじり』。

 この違いが『二重反転機構』の作りやすさの違いになっているというわけである(詳細な力学的解説はここでは省略する)。


「ということで、8段の回転盤を4段ずつ2組に分け、それぞれを逆に回転させればどうかと考えている」

「いいですね、先生」

「さっそく試作してみましょう」

 構想上、問題はなさそうだったので、早速試作に取り掛かるハルトヴィヒたちであった。


*   *   *


 『ゲルマンス帝国』から派遣された技術者2人は、量産される『エトワール1』の動作試験・飛行試験を担当している。

「この機体は量産向きだね」

「そうだな。機体間の性能ばらつきも小さいし、扱いやすいしな」


 ちなみに、エトワール1のスペックは以下のとおり。

 単発単葉機


 乗員    :1名(操縦士)

 定員    :2名(乗客)

 全長    :7.2メートル

 全幅(翼幅):9.0メートル

 全高    :2.5メートル

 空虚重量  :420キログラム

 最大離陸重量:900キログラム(推定)

 エンジン  :ハルト式8段回転盤エンジン

 最高速度  :時速270キロメートル

 上昇限度  :およそ2000メートル


 ここで『乗員』とは飛行機を運用するための人数で、『定員』は乗員とは別に、乗ることができる人数である。

 つまり『エトワール1』は操縦士以外に2人が乗ることのできる機体ということである。


 この後この機体を使って、ド・ルミエ侯爵領に鉱山関係者が送り込まれることになるだろう……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は11月23日(土)10:00の予定です。


 20241116 修正

(誤)『過去の異邦人エトランゼ覚書おぼえがき』が役に立っている。

(正)『過去の異邦人(フレムデール)覚書おぼえがき』が役に立っている。

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― 新着の感想 ―
 感想欄を見ててだけど鉱石を味で判断・・・やる人はいるんだなよぁ、農業関係に多いけど土を口に入れて土の栄養というか良しあしを判断するのは昔からある。そして汚いけど家畜や赤ちゃん(人も含む)の尿を舐めて…
>>本当にボーキサイトなのか、そしてボーキサイトだとしたら埋蔵量はどれくらいなのか、である。 実は異世界特有の謎金属で『ポーキサイト』でした。 埋蔵量は大体5キログラムぐらい。 >>さすがに『自動…
産業革命とも呼べるくらいに大きく時代が動きそうですねえ
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