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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第13章 雄飛篇
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第十三話 成長の日々

 夏の日差しが照りつけるド・ラマーク領。

 北の地にあるため、朝夕は涼しいのだが、やはり日中は暑い。

 『絹屋敷』の庭に大きめの浴槽を置き、水を張って、タクミとエミーに水遊びをさせているアキラであった。


「わあい」

「つめたー」

 エミー3歳、タクミ6歳(誕生日が来ると7歳)、まだまだ遊びたい盛りである。


「水着を作ってもいいかもな……『メリヤス』だったっけ」

 メリヤス、ニット、ジャージなどは、伸縮性のある編み生地の呼び名である。

 主に下着類・靴下はメリヤス、生地としてはニットと呼ばれることが多い。

 またアウターのウェアはジャージと呼ばれる。


「機械編み機をより精密にできればいいのかな」

 太めの毛糸でセーターを編むための『編み機』は、原始的なものができあがっていた。

 とはいえ袖や襟を構成することはできないので、まだまだ改良の余地がある。

 今の編み機でできるのはマフラーくらいであった。


「ミシンがあれば、高度な編み機もあるかもしれないな……」

 飛行機で北の山脈を越える日が待ち遠しいアキラであった。


*   *   *


 蚕たちは繭を作るべく準備に入ったところ。

 なので職人たちは『回転(まぶし)』の準備でてんてこ舞いである。

「ちゃんと洗ってあるな? 消毒も済んでるな?」

「大丈夫です、白リボンが付いているものを持ってきてます」

「よし」

 白リボンは『殺菌消毒済み』の印である。


 高温になる夏は、病気が蔓延まんえんしやすい。

 以前、『微粒子病びりゅうしびょう』がはやり、全滅の危機を迎えたことがあった。

 その時はリーゼロッテが改良した浄化系魔法、《ザウバー》により、事なきを得た。

 それ以来、より一層の注意を払うようになったアキラたちなのである。


 唯一の希望は、『突然変異』によるものと思われる、変種の蚕が種として根付いたことだ。

 これまではアキラがこの世界に持ち込んだ蚕は単一品種であったため、病気が流行した場合全部の蚕が感染してしまい、全滅することもありえた。

 これが、異なる品種……つまり異なる遺伝子をもつ蚕だと、耐性が変化し、感染する可能性が低くなるのだ。

 『多様性』というのはそれほどに種の存続に有効なのである。


 閑話休題。

 ド・ラマーク領の短い夏は、今が盛りであった。


*   *   *


 王都もまた、暑い日が続いている。

 やや内陸にある分、湿度が低めなのが救いだ。

 おかげで、日陰に入ればかなり楽である。

 しかし。

 飛行場には、基本的に日陰がない。

 わずかに、『格納庫』の陰があるだけだ。


「あちぃ……」

「だから昼間は苦手だ……」

「舗装の上ってのは暑いんだよ」

「飛んでりゃあ涼しいんだけどなあ」

 パイロット訓練生たちは、愚痴をこぼしながらも自分たちの番が回ってくるのを待っている。


「待っているのも退屈だぜ」

「来週になれば、練習機があと2機増えるってよ」

「それは楽しみだな」


 そう言っていると、練習機として使っている『ヒンメル2』が戻ってきた。

 その後ろには『ヒンメル1』が。

 『ヒンメル2』は訓練生が、『ヒンメル1』はハルトヴィヒたちが訓練のために使っているのだ。

 『ヒンメル1』の方が操縦性がややシビアなので、より上級の訓練機に向いているというわけである。


「よし、次は俺だ」

「墜ちるなよ?」

「おう、任しとけ」

 訓練生たちも、飛行時間が長くなるに連れ、それなりに操縦できるようになっている。


「お、教官が着陸するぞ」

「やっぱり安定しているな」

「あっちの機体の方が安定が悪いんだろ?」

「少しの差だって聞いてるけどな」

 訓練生たちはにぎやかである……。


*   *   *


 そして練習の合間に、ハルトヴィヒたちは『ヒンメル3』の製作を行っていた。

 『ヒンメル3』は、これまでの2機よりも一回り大きい。

 全長    :6.0メートル

 全幅(翼幅):8.6メートル

 全高    :2.8メートル

 空虚重量  :350キログラム

 最大離陸重量:1300キログラム(推定)

 エンジン  :ハルト式8段回転盤エンジン


 が主要諸元である。

 『ヒンメル2』よりもより大きくなっているが、重量は軽くなっている。

 これは飛行時には『強化』の魔法を併用し、機体の強度を上げることができるゆえである。

 とはいえ、停止時にもそれなりの強度は確保してある。

 そしてエンジン出力も『ヒンメル1』の倍近くまで向上しており、これが成功すればほほ完成形といえよう。


「問題は、翼面荷重が小さくなった分、風に弱くなっているだろうことだな」

「そうですね、先生」

「その分、エンジン出力が上がってますし、速度も出るようになってます」

「そのバランスが操縦性と安定性にどう影響するか、だよ」

「先生……」

「僕としては、翼面荷重を増やしてみたかったんだけどね」


 実は、今回の『ヒンメル3』は複座なのである。

 操縦者以外の人間を乗せて飛べる飛行機。

 当然、多少の荷物も積める。

 これが成功すれば、ハルトヴィヒとアキラの夢に、また一歩近づけるのだ。


 試験飛行はもうすぐである……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は6月22日(土)10:00の予定です。


 20240615 修正

(誤)それ依頼、より一層の注意を払うようになったアキラたちなのである。

(正)それ以来、より一層の注意を払うようになったアキラたちなのである。


(旧)「落とすなよ?」

(新)「墜ちるなよ?」

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― 新着の感想 ―
[一言] >「ミシンがあれば、高度な編み機もあるかもしれないな……」 昭和の遺物なパンチカード式の家庭用編み機みたいなのがあったりしてw ちなみに、OpenKnitっていうオープンソースな電子制御…
[一言] >>『絹屋敷』の庭に大きめの浴槽を置き、水を張って、タクミとエミーに水遊びをさせているアキラであった。 朝夕に。 >>エミー3歳、タクミ6歳(誕生日が来ると7歳)、まだまだ遊びたい盛りで…
[一言] >>ニット 仁「○○を○すと言われる服の素材・・・・」 56「言われるだけで効果は・・・?」 明「そうで無くとも格差社会を招きそうだ」 >>機械編み機をより精密に 仁「ゴーレムの腕を細めに…
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