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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第12章 飛翔篇
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第二十三話 有人飛行

 木枯らしが吹き、ド・ラマーク領は本格的な冬となった。

 落葉樹は皆葉を落とし、冬姿である。

 当然桑の木も例外ではなく、養蚕は来春までお休みだ。


 しかし仕事はたくさんある。

 収穫した繭から生糸をつむぎ、処理を行ってり、絹糸を作る。それを染め、布を織る。

 布をさらに縫製して服を作っていく……。

 今はその『織り』が行われていた。

 平織、綾織ツィル、サテン。


 特にサテンは、昨今王都で人気が高まっている。

 薄手のものがストールやスカーフに。

 厚手のものは寝間着に。

 特に貴族の婦人方に好評なのである。

 ちなみに、『綾織ツィル』のスカーフも織り目が密なので、シワが寄りにくいため人気がある。

 エルメ◯のスカーフはこの織り方が多いそうだ。


 とはいえ王都近郊でも養蚕は行われており、生産量も年々増加しているのだが、品質においてはド・ラマーク領が群を抜いていた。

 そのため、ド・ラマーク領産のシルクは『ラマークシルク』と呼ばれ、プレミアが付いているのだという……。


「今年のシルクの質も悪くないな」

「そうですわね」

 織り上がった布地をチェックするアキラとミチアは嬉しそうだった。

「大事に使ってもらえるといいな」

「はい、あなた」

 アキラたちにとって、手塩にかけたお蚕さんからとれた絹は我が子同様、愛おしいものであった。


*   *   *


 そしてその『我が子』であるタクミとエミーも、少しずつ成長している。

「あー、いー、うー、えー、おー」

「お、そうそう。うまいぞ」

 タクミはひらがなを覚え始めている。

 もちろんこちらの世界の文字……英語圏のアルファベットに酷似している……は既に覚えてしまった。


「うー、こう……?」

「ええ、そうですよ。おじょうずおじょうず」

 エミーはそのアルファベットの読み書きをミチアに習い始めたところである。


 ド・ラマーク領は、冬でも忙しい……。


*   *   *


「よし、だいたいできたな」

 王都では『グライダー』の製作がほぼ完了していた。

 ハルトヴィヒは塗料について考えてはいたが、今回には間に合わず、従来どおりにかわをアルコールに溶いた塗料を使用した。

 最終的な重量は120キロ。

 高く飛ばないこと、旋回などの機動を行わないことなどから、軽量化に軽量化を重ねた成果である(現代日本の有人グライダーは1人乗りで200から250キロ)。


「100キロに収めたかったなあ」

 とはハルトヴィヒの言葉。塗料を塗る前は98キロだったのだ。

「それでも十分軽いですよ」

 大人2人で運べる重さである。

 もっとも、ぶつけたり落としたりすると困るので、4人掛かり(機首と尾部、主翼の左右)で運ぶことになるが。


 そして、運んできた場所は王都郊外にある低い丘。

 実験をする斜面の傾斜角は5度くらい(スキー場の超初心者コース並み)。

 北東に向いており、冬は季節風が絶えず吹いている。

 そこに『グライダー』を設置。

 主翼の左右と機首、そして尾部にロープを付け、地面に打った杭に縛り付ける。

 これにより、高く上がることや吹き飛ばされるといった事故を防ぐことができる。

 ロープの長さは最大3メートル。

 下は枯れ草なので、この高さからなら落ちても大怪我はしないだろうというわけだ。


 風洞で行わないのは、グライダーを浮かすほどの風を起こすのは困難だからである。

 これは風速の問題ではなく、風量(あるいは効果範囲)の問題で、自然の風にプラスすることで必要な風量と風速を得ようという計画であった。


 風を吹かせる魔導士は4名。2名が1組となり、1組がおよそ1分間風を吹かせる。

 そしてもう1組と交代して1分間休み、また1分間風を吹かせる。

 このルーチンにより、6分間は風を吹かせられるだろうと目論もくろんでいた。


「それじゃあ、僕が乗るから」

「先生、気を付けてください」

 ハルトヴィヒがどうしても乗ると言い張った結果、それは認められた。

 ただし、ロープの長さは1メートルからだ。

 これなら落ちても痛い、というくらいで済むだろう。

 念のため、操縦席の下には重量増加を承知の上で厚めの緩衝材クッションを敷いてあるのだ。


「では、お願いします」

 操縦席に座ったハルトヴィヒはそう言って右手を上げて合図をした。

 それを確認した魔導士2人は風魔法を行使する。

「《ウェントゥス》風よ吹け」

 詠唱に従い、風が巻き起こった。


「おお!」

「すごい風が……」

「う、浮いたぞ!」

「やった!!」

 少し離れて見ていたシャルル、アンリ、レイモン、ルイらは歓声を上げた。


 季節風と風魔法を合わせた風速はおよそ12メートル。時速に換算すると時速43キロくらいだ。

 これなら、軽量なグライダーは浮くことができる。

 ハルトヴィヒが乗ったグライダーは、強風の中、ふわりと浮き上がったのである。


 すぐに高度は1メートルに達し、ロープが伸び切る。

 それを知ったハルトヴィヒは操縦桿を操作し、高度を少し落とした。

 ここで緩斜面で行った意味がある。

 グライダーは浮いたといっても、常に降下する姿勢なので、高度調整が楽なのだ。

 高度60センチくらいでゆらゆらと安定した高度を保つグライダー。


 世界最初のグライダーによる有人飛行はこうして成功したのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2月24日(土)10:00の予定です。


 20240217 修正

(誤)収穫した繭から生糸をつむぎ、処理を行ってよりり、絹糸を作る。

(正)収穫した繭から生糸をつむぎ、処理を行ってり、絹糸を作る。

(誤)4人掛かり(機種と尾部、主翼の左右)で運ぶことになるが。

(正)4人掛かり(機首と尾部、主翼の左右)で運ぶことになるが。

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― 新着の感想 ―
[一言]  そういえば現実だとジェットエンジンなども無い時代で作られなかったけど空も飛べる翼を付けた陸上船なら魔法で風を起こせる世界なら常用できるんじゃない?現実でも風を最大限生かすのに大きすぎる帆を…
[一言] >収穫した繭から生糸を紡つむぎ、処理を行って撚より、絹糸を作る。それを染め、布を織る。 >布をさらに縫製して服を作っていく……。 >今はその『織り』が行われていた。 春〜秋に生産したシルク…
[一言] >>有人飛行 果たして犠牲者は何人まで抑えられるか!! >>特にサテンは、昨今王都で人気が高まっている。 脱サラして始めるやつ!! >>とはいえ王都近郊でも養蚕は行われており、生産量…
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