表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第12章 飛翔篇
342/437

第十九話 危険回避

 ド・ラマーク領では『晩秋蚕ばんしゅうご』が育ち始めた。

 周りの木々も夏の勢いをなくし、気の早い葉は色づき始めている。


「もう遠慮はいらないから、緑の桑の葉は全部収穫してくれ」

「へい、領主様」

 放っておいても黄色く黄葉し、枯れて落ちるだけの葉なので、収穫しても桑の木には悪影響が少ないのである。

 蚕の食用としてはかなり硬いが、4齢5齢に育った蚕なら食べてくれる。


「今年の養蚕も、この『晩秋蚕ばんしゅうご』で終わりだな」

 季節の移ろいを感じるひとときである。

「あとひと月もすれば一面の紅葉になるな」

 そしてあとは散るばかり、冬の到来となる。

 それまでの僅かな時間を、精一杯有効に使おうとアキラはあらためて思ったのである。


*   *   *


「おお、壮観だな」

 田んぼはほとんど全部が刈り取られ、稲架はさに掛けられている。

 のどかな農村風景であった。


 水を抜いた田んぼを見れば、刈り取られた稲の株から、また新しい芽が伸び始めていた。

「『稲孫(ひつじ)』っていうんだっけ」

 稲刈りをした後の株に再生した稲のことで、学術的には『再生イネ』という。

 1年中稲の生育に適した気温であれば、これが伸びて結実もするようだが、冬のある現代日本では利用されることなく、寒さに当たって枯れてしまう。

 ここド・ラマーク領でも同じだ。

 熱帯性の植物である稲は、霜が降りれば枯れてしまう。

 というか、最近の朝夕は冷え込むので、既に少し枯れてきている株がある。


*   *   *


 一部緑色を保っているのは『冬小麦』が植えられている畑だ。

 寒さの厳しいド・ラマーク領では主に『春小麦』が作られているのだが、こうして試験的に『冬小麦』も作り始めていた。

 とはいえ、基本的に冬は農閑期である。

 そのための収入源として、アキラは、木工芸やわら工芸、い草工芸などを奨励しているのである。


「あとは温泉を掘り当てられればいいんだがな」

 あまり遠くから引いてくるのは難しいが、多少の距離からなら許容範囲と、山奥で湯元を探しているのだがまだ見つかってはいなかった。


 今年の秋は平年並みに推移しそうなので、その点は安心である。

「気候の大きな変動は勘弁してほしいからな……」

 元いた世界での『猛暑』や『暖冬』が農業にどう悪影響を与えるか知っているだけに、穏やかな気候を望むアキラなのである。

「あとはクルミやクリ拾い……タクミたちを連れて行くか」

 家族サービスも忘れないアキラであった。


*   *   *


 さて、王都である。

 郊外の飛行場では、『コントロールライン式模型飛行機』の実験飛行を見に来る者たちが日に日に増えており、今では200人ほどになっていた。

「事故だけは気を付けてくれよ」

 ハルトヴィヒは再三そう繰り返し、皆をいましめている。


 そんなある日。

 『試作2号機』が完成し、初飛行となった。

 全長1メートル、全幅1メートルの複葉機である。

 全備重量は1.6キログラムとなり、試作1号機より増えているが、翼面積を増やしたため、翼面荷重は平方デシメートルあたり40グラムをわずかに切るほどとなっていた。

 これはかなり小さい数値だ。

 また、複葉にしたため幅が抑えられているし、エンジン出力も1.5倍に増えている。

 加えて新機構として、第3のラインを使い、エンジン出力をコントロールできるようになっていた。


「これがうまくいったら、実機の3分の1サイズで作ることにしよう」

 そして、まずはハルトヴィヒが操縦することになった。


 3本ワイヤーなので『Eコン』と名付けた『コントロールライン式模型飛行機2号機』。

 そのエンジンが始動した。

「まずはフルパワーで離陸だ」

 トリガー状のスロットルレバーを人差し指で引けばエンジン出力が上がる。

 2号機はするすると滑走を始めた。

「このままハンドルは固定、腕は水平に……」

 その状態だと、わずかに上げ舵となっているので、滑走速度を上げた2号機は滑らかに離陸した。

「よし、スロットルを少し戻して水平飛行だ」

 ハルトヴィヒはわずかにスロットルレバーを戻した。フルパワーの70パーセントくらいである。

 それでも、翼面荷重の小さい複葉機である2号機は、若干高度を下げたものの、すぐに安定した水平飛行を行う。


 そのまま5周ほど、機体の挙動を見るが、十分に安定しているとハルトヴィヒは判断した。

「いいぞいいぞ。よし、出力を上げて上昇だ」

 スロットルレバーを引くとともにハンドルも上げ、『上げ舵』にすることで、2号機は急上昇を行った。

「機体の反応はいいな」

 その次はフルスロットルで上げ舵を継続。『宙返り(ループ)』である。

「1号機よりも楽にできるなあ」

 周囲のギャラリーからも歓声が上がる。


 その時である。

「!!」

「先生!!」

「危ない!」


 ギャラリーの中にいた、8歳くらいの子供が飛び出し、『Eコン』のフライトエリア……ワイヤーの範囲に入り込んでしまったのである。

 このままでは、子供にワイヤーが巻き付き、事故を起こす……と思われた。

 が。


「おお!」

「すごい!」

 ハルトヴィヒはワイヤーが子供に巻き付く前に機体を『宙返り(ループ)』させ、距離を取った。

 そして子供の反対側で連続宙返り。

 その間にシャルルが子供をフライトエリアから大急ぎで連れ出し、事なきを得たのであった。


*   *   *


「今日は危なかったですね」

「うん……何か対策をしたほうがいいな」

「フライトエリアを囲むようにポールを立てましょう」

「そしてロープを張れば、とりあえずの安全は確保できます」

「それがよさそうだな」

 そんな話し合いがなされた。


 そして。


「超大型機……3号機の設計に取り掛かろう」

「いよいよですね!」

 そういうことになったのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は1月27日(土)10:00の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >「あとひと月もすれば一面の紅葉になるな」 >そしてあとは散るばかり、冬の到来となる。 >それまでの僅かな時間を、精一杯有効に使おうとアキラはあらためて思ったのである。 アキラの領地は豪雪…
[一言] >「超大型機……3号機の設計に取り掛かろう」 有人機のプロトタイプ的な。 パイロットの代用品として1/1ハルト人形を乗せようw
[一言] >>「もう遠慮はいらないから、緑の桑の葉は全部収穫してくれ」 自領他領問わず全部だ!!すべてを奪うのだ!! >>それまでの僅かな時間を、精一杯有効に使おうとアキラはあらためて思ったのであ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ