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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第11章 新たな目標篇
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第二十五話 正月の夜

 正月の夜はアキラ一家、ハルトヴィヒ一家それぞれに分かれ、水入らずで過ごす。

 例年作っている『おせちもどき』もあるが、やはり『もどき』は『もどき』。本物に取って代わることはできない。

 なので彩りに少し用意しているが、それ以外の料理で新年を祝うことになっていた。


「静かな夜だな」

「ええ、アキラさん」

 はしゃぎ疲れたタクミとエミーはもうぐっすり眠っているので、『絹屋敷』で起きているのはアキラとミチアだけだ。

 使用人たちも今日だけは実家に帰っているので、文字どおり『水入らず』である。


「明日から、また賑やかになりますね」

「そうだな」

 『正月期間』なので業務は普段の3分の1くらいに減らしてはいるものの、2日からは使用人たちも戻ってくる。

 労働基準法など影も形もない世界なので致し方ない。

 これでもアキラが気を遣っているので、『絹屋敷』の労働条件はこの世界ではトップレベルである。


*   *   *


 『絹屋敷』の敷地内に建てられた『離れ』に住まうハルトヴィヒ一家もまた、水入らずで正月の夜を過ごしていた。

 もちろんヘンリエッタはとっくに夢の中だ。


「ハル、今年も王都へ行くのよね?」

「そうなるな。報告事項や献上する品物がたくさんあるからな」

「そうね。アキラと一緒だと相変わらず退屈しないわね」

「まったくだ。……祖国を離れたことは後悔していないかい?」

「してないわ」

 即答だった。

「そうか、僕もさ」

「ただ、孫の顔を見せてやりたいな、と思うことはある」

「あ、それは、私も」

「そっか」

「うん」


 そんなやり取りのあと、2人はしばし無言になる。

 そしてどちらからともなく口を開く。


「ねえ……」

「なあ……」

 そして顔を見合わせ、にこっと笑い合う2人だった。


「ハルからどうぞ」

「いやリーゼから」

「いいから、ハル」

「それじゃあ……なあリーゼ、『ヘリウム』を集められないかな」

「気球を作りたいのね?」

「そうなんだ。熱気球は長時間の飛行に向かないし、水素気球は危険だからね」

「うーん……今のところ望み薄ね」

「そうか……あ、リーゼは何を言おうとしたんだ?」

「え? うーんと、あのね、『飛行機』って作れないのかな、と思って」

「エンジンがなあ……」

「そっか……飛行機があれば、孫の顔をハルのご両親に見せに行けるのにね」

「それはリーゼも同じだろう」

 2人は笑いあった。


 飛行機にしろヘリウム飛行船にしろ、移動速度を大幅に上げることができるわけだ。

 空を飛べる、というだけでも、山越え・谷越え・川越えなどの手間がなくなる分、移動が楽になるのは間違いない。


「危険を承知で『水素』気球を作るという選択肢もある」

 水素気球は必ず事故を起こすと決まったわけでもないのだから、とハルトヴィヒ。

「うーん……でも……」

 静電気による火花でも危険があるみたいだから、とリーゼロッテは渋い顔をするのであった。


「やっぱり有人飛行はヘリウムよね」

「そもそも大気中にあるはずのヘリウムをどうやって集めるか、それすら見当がつかないからな」

「ハルでも駄目かあ……私も、いろいろ考えたけど今のところ駄目なのよね」

「そうか……」

「ねえ、魔法でどうにかならないのかしらね」

「魔法か……魔法といったって何でもできるわけじゃないからな」

「それはわかっているわ。でも諦める理由にはならないでしょ?」

「それはそうだ」


 そこで2人は暇つぶしも兼ねて、この正月の夜に話し合うことにした。

「一番使えそうなのって『風』かなあ?」

「そうじゃないか? でもなあ……」

「機体を宙に浮かせられるような魔法なんてないものね」

「あっても一瞬のことで、吹かせ続けられないからな」

「熱気球用の推進器じゃあ弱いのよね?」

「そうなんだよ」


 ハルトヴィヒは、昨年秋、熱気球を開発した際に風属性魔法を使った推進器も開発している。

「でも、出力が足りない。時速15キロじゃ飛行機は飛ばないよ」 

「だけど、一番可能性がありそうじゃない?」

「うーん、確かに」


 越えるべきハードルは多く、解決すべき問題点は多々あるが、最も可能性がある道かもしれない、とハルトヴィヒは思い始めた。

「もっと小さく、軽くして、もっとパワーを上げればいいわけか」

「そうね」

「それを積んで飛ぶ飛行機ができたらいいんだが……うーん……アキラの『携通』で何か見たような気がするんだよなあ」

「私もそんな気がする。はんぐ……なんとか?」

「ハンググライダー……だっけかな?」

「あ、そうそう。そんな名前だったわ」

「よし、明日、アキラに話して見せてもらおう」

「賛成」


 モーター・ハンググライダーという乗り物がある。

 ハンググライダーに軽量のエンジンをつけ,プロペラで推進するものだ。

 このプロペラ推進を『ハルト式推進器』に置き換えれば飛べそうではある。


「冬の間、少し検討してみるか」

「賛成」

 さて、ハルトヴィヒ・リーゼロッテ夫妻の研究はうまくいくのかどうか……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は8月5日(土)10:00の予定です。


 20230729 修正

(誤)「そもそも大気中にあるはずのヘリウムをどうやって集めるか、それずら見当がつかないからな」

(正)「そもそも大気中にあるはずのヘリウムをどうやって集めるか、それすら見当がつかないからな」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] パラモーターもありますね パラグライダーの方が着地は簡単です ハングライダーは着地が怖いが魔法の風で上手く着地できそうかな
[一言] ヘリウムの大気からの濃縮は普通に現実的ではないですね。沸点と濃度が両方低すぎて実現できないと思います。 仁なら魔法的になんとかしてしまうかも。あちらだと魔法同位体とかの素粒子操作までいきま…
[一言]  風を起こせる魔導士ならパルグライダーで延々と飛べそうだけど単身で行くわけじゃないしなぁ、地上を走る船なら帆の張り方と強度次第で出来そうだが目立つなぁ。
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