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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第11章 新たな目標篇
317/437

第二十四話 新年

 東の空が漆黒から薄明の紫色に変わり、遠い山のが浮かび上がってくる。

 夜明けが近い。

 ただの夜明けではない。新しい年の夜明けだ。


 山の稜線がくっきりと見えている。

 今日は晴天のようだ、とアキラは思った。

 ド・ラマーク領の北東から南西にかけては山々が連なっているので地平線は見えない。

 なので残念ながら、真の意味での日の出は見られないのだ。

 それでも、空が茜色からオレンジ色に変わったことで日が昇ったことがわかる。

 そして、ついに。


「日が出たな」

 東の山のから日が差してきた。

「新しい年の始まりだ」

 アキラは太陽をまっすぐに見つめた後、二礼してから手のひらを二回打ち鳴らしし、手を合わせる。

 そしてもう一度二礼し、初日へのお参りは終わった。

 隣りにいたミチアもお参りを終えている。

「何を祈願したんですか?」

「うん? ……領地の平和と繁栄を、かな。ミチアは?」

「周りの人たちの安全と健康を」

「そうか」

 ちなみにタクミとエミーは夜更かししたのでまだすやすやと眠っている。


*   *   *


 ハルトヴィヒとリーゼロッテ夫妻もまた、夫婦水入らずで初日を拝んでいた。

「この習慣にもすっかり慣れたな」

「ふふ、アキラさんの影響よね」

「そうだな」

 彼らもまた2人きり。ヘンリエッタは家の中で眠っている。


「今年は……ううん、今年()いい年になるといいわね」

「うん」


*   *   *


 こちらの世界では、日本と違って『正月』という概念はない。

 とはいえ新年を祝う習慣はあるし、年が改まったこの日つまり元日は休日である。

 なので『絹屋敷』の使用人たちも皆休みであった。


「おせちじゃないけどこういうのもたまにはいいよな」

 煮炊きをしなくてもいいよう、保存の効く料理を作り置きしているのだ。

 具体的には燻製、塩漬け、佃煮。それから干物、冷凍、砂糖漬け。

 要は水分を減らして日持ちするように加工したものである。

 乾パンやラスクも作ってある。

 ご飯は冷凍して保存、食べるときにはお湯で戻せばお茶漬けもしくはお湯漬けとして食べられる。


 冷凍に必要なのは氷と食塩。

 氷に塩化ナトリウムをまぶせば、最低マイナス21度Cまで温度を下げられる。

 そして氷……雪は、今の季節周囲にいくらでもある。

「春になったら『雪室』を作ってみるかな」

「穴蔵に雪を詰めておくんでしたっけ」

「そうそう。大規模に作れば夏まで保つだろうけど、最初は初夏まで保てばいいかな」


 それを聞いたミチアはくすりと笑った。

「あなた、今日はお休みの日ですよ?」

「ああ、そうだったな……でも、アイデアは休んでくれないから、忘れないうちに書きつけておくくらいは許してほしいかな」

「ふふ、そうですね」

 笑って答えたミチアは、自ら『雪室』の案をメモ用紙に書き付けたのだった。


*   *   *


 そして午後。


「ほーら、こうやって遊ぶんだぞ」

「わあ、ちちうえ、すごい!」

 アキラはタクミと『コマ回し』をして遊んでいた。


 コマといっても、紐で回すものではなく、手で回す小型のもの。

 紐で回すコマはまだタクミには無理だろうという考えからだ。


 直径3センチ、頂角120度くらいの円錐に、5ミリくらいの円柱を付け足し、軸を差し込んだような形状のコマ。

 そのままでは面白くないので、『色ゴマ』にしている。


 『色ゴマ』とは、コマの上面をいろいろな色で塗り分け、回転させることで混色される様子を楽しむもの。

 赤と青なら紫に、黄色と青で緑色、白と赤で桃色、といった具合だ。

 楽しみながら『色の三原色』や『混色』の知識を得られる。


 とはいえアキラは、無理に覚えさせようとは思っていない。

 遊びを通じて『こういう現象がある』ということを知ってもらえればそれでいいと思っている。

 ちなみに、『ケンカゴマ』ではなく、単純にどちらが長く回っているか、の競争だ。


 コマ回しに飽きたら『福笑い』で遊ぶ。

 単純化した人の顔(おかめは受けが悪かったので、某パン屋のヒーローのような顔)で作ってみた。

 目隠しをして顔のパーツを手探りで持ち、周囲からのアドバイスで置いていき、できあがったら目隠しを取る……わけだ。

 指示に従っても正しい場所に置けるとは限らず、できあがるのはとんでもなくコミカルな顔。

 しばし笑いに包まれた『絹屋敷』であった。


「ああ、面白いわね。……アキラさん、こういうのを何て言うんだっけ?」

「笑う門には福来る、か?」

「そうそう。それってどういう意味だっけ?」

 リーゼロッテがアキラに尋ねた。


「笑いの絶えない家にはいいことがある、というくらいの意味だと思うよ」

「そっかー。……でも、いいことがあるから笑いが絶えないんだと思うな」

「そういうこともあるかもな。ことわざなんてものはそんなもんだ」


*   *   *


 そして、遊び疲れたら3時のお茶である。

 『絹屋敷』の新年は平和そのものであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は7月29日(土)10:00の予定です。


 20230722 修正

(誤)食べるときにはお湯で戻せばお茶漬けもしくはお湯付として食べられる。

(正)食べるときにはお湯で戻せばお茶漬けもしくはお湯漬けとして食べられる。

(誤)単純化した人の顔(おかめは受けが悪かったので、某パン屋のヒーローのような顔で作ってみた。

(正)単純化した人の顔(おかめは受けが悪かったので、某パン屋のヒーローのような顔)で作ってみた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ハルト式の新しい発明品として蓄音機とか良さそうな気がします。 レコード板はエジソンが発明した錫箔を貼った真鍮で形状は一般的な円盤状、蓄音機の動力はゼンマイでいけると思います。 問題は構造…
[気になる点] >ご飯は冷凍して保存、食べるときにはお湯で戻せばお茶漬けもしくはお湯付として食べられる。 お湯付→お湯漬け [一言] >ご飯は冷凍して保存、 フリーズドライ加工も開発しておくと良…
[一言] >アキラは太陽をまっすぐに見つめた後、二礼してから手のひらを二回打ち鳴らしし、手を合わせる。 >そしてもう一度二礼し、初日へのお参りは終わった。 >隣りにいたミチアもお参りを終えている。 …
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