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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第10章 平和篇
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第十一話 見学会

 帰省した翌日、アキラは3名の技術者たちの要望を聞いていた。

「……すると、『養蚕』の現場を体験しつつ、周辺技術を身に着けていく、ということかな?」

「はい、そうなります」

「そして、できればそれ以外の知識も身に着けられれば、と」

「私は食材やお料理にも興味があります」

 それぞれジェラルド、ヴィクター、ベルナデットである。

「なるほど。できる限り希望に沿うようにしたいが、業務優先なのはわかってほしい」

「ええ、それはもちろんです」

「よし」


 ということで、当面は『養蚕』以外の技術を見学・体験してもらうこととする。

 まだ少し寒く、卵を孵化させる時期には早いからだ。

 ということで初日はド・ラマーク領の見回りも兼ねて、領内の案内をアキラ自らが行った。


 養蚕設備。紡績工場。染色工房。仕立て工房。

 ハルトヴィヒとリーゼロッテの研究所。

 木工工房。い草工房。

 そして、甜菜糖工場を回ったところで1日目は終わりとなった。


「どうだったかな?」

 夕食を一緒に食べながら、アキラが問いかけた。

「はい、正直驚きました」

「ええ、こんなに進んだ設備だらけとは思いませんでした」

「それに、各家々も、『雲母』で明り取りが作られていたり、汚水処理がなされていたり」

「浴場にも驚きました」


 3人は、次々にそれぞれの感想を述べていく。

「い草工房はいい香りでしたね……」

「甜菜糖、よく見つけたものだと尊敬しますよ」

「ハルトヴィヒ殿の研究所の設備には脱帽です」

「こちらへ来ることができて幸運でした」


「そう言ってもらえると嬉しいな」

 アキラは笑って桑の葉茶を一口飲んだ。

「ああ、そうした自然の恵みと、先端技術が見事に同居した領地だと思います」

 まとめるように、最年長のジェラルドが言う。

「明日も楽しみです」


*   *   *


 さて、翌日も見学会である。

 この日は少し遠出をして、わさび田の見学から始まった。

「なるほど、『異邦人エトランゼ』の世界ではこうした香辛料を使うのですね」

 一番興味を持ったのはベルナデットである。

「そうだな。……こと『食』に関してのこだわりは凄かったな」

「だからこそ、多種多様な食材を使った料理が作られたのですね」


 この世界では、現代日本に比べたら食生活は単調と言える。

 焼く、煮る、蒸す、揚げるなどの基本的な調理法はあるのだが、どれも『極めた』とはいえないレベルなのだ。

「それよりも優先すべきことがあったからだろうな」

 ……というのがアキラの持論である。

 食文化が発達するためには、食うに困らなくならなければならないわけで、今のガーリア王国は、ようやくそのとば口に差し掛かったところなのだ。


「なるほど、そうかもしれませんね」

「だから、あまりコストの掛からないやり方で食生活の改善をしているつもりだ」

「ああ、そうなんですね」

 少しの工夫で食生活は改善できる、ということを実践しているアキラである。

 ベルナデットはそのノウハウを是非にも習得して帰りたいと思うのだった。


 わさび田の見学を終えたあとは、木工工房を見学し、その後管理棟で昼食とする。

 ここでも雑談という名の意見交換会となった。


「あまりコストの掛からないやり方、とおっしゃいましたが、工芸品もそうですか?」

 と、ヴィクター。

「それもあるけれど、どちらかというと生活を楽に……というと大げさだが、少し補助してくれるような実用品を作っていきたいと思う」

 完全な美術品はまだ、とアキラ。

「そのお考え、わかります」

 ヴィクターも賛成してくれるようだ。

「機能美、というものもありますし」

「そうだな」


 そしてジェラルドは公衆衛生に感銘を受けた、と言った。

 各工場・工房では手洗いの徹底にはじまり、下水処理にも気を配っていたからだ。


「王都でもまだまだそうした意識が低いのに、こちらは一歩も二歩も先に進んでいます。見習いたいと思います」

「そう言われると照れくさいが、1つ1つできることを積み重ねてきただけだよ。それに人口が少ない分、周知徹底は楽だったしな」

「なるほど、そういう面もあるのですね」

 ジェラルドはかつて『国力を高めるためには何が必要か』という上司からの問いに対し、人口を増やすこと、と答えたと言った。

 そしてそのためには『出生率の向上』と『乳児死亡率の低下』が必要だ、とも。


「その時は単なる目標でしたけれど、アキラ様のやり方を学べば夢物語ではなくなると思いました」

「そうだな。そして人口増加を支えるのは食料の増産だと思う」

「確かにそうですね。食料の自給率も100パーセント以上を維持しないと、輸入が途絶えたら一大事ですし」

「そう思うよ」


 他国に生命線を握られるという危うさは絶対に避けなければならないですからね、とジェラルドは言った。

「そういう意味で、水田と稲作は、うまくやれれば小麦や大麦以上に単位面積当たりの収穫量が多いはずなんだ」

「ああ、そういう方面からの改善もあるんですね」

「水田というのは、水の流入によって養分も供給される……らしいし」

「ははあ、『異邦人エトランゼ』の世界の知恵、ですね」

「うん、まあ、そう……かな」


 こうした会話は、彼らにとって非常に有意義だったようだ。


「先は長いですが、頑張ります。なあ、みんな」

「ええ」

「はい」

 王都からの技術者3名はやる気をみなぎらせ頷くのだった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は7月2日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >>帰省した翌日、アキラは3名の技術者たちの要望を聞いていた。 「……すると、前国王の私生児を新たな王として擁立して行く行くは現国王を打倒する、ということかな?」 「はい、そうなります」 …
[一言] 見学するだけで分かる生活水準・技術力の高さですねえ
[一言] 米は連作障害に強いのも大きいよね おかげで毎年同じ場所で作れる
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