第四話 技術革命
報告会は3日で終了したが、アキラたちにはまだまだやることが残っていた。
技術検討会である。
まずは『電信』についての詳細な説明である。
ここで言う『詳細』とは、技術的なものではなく、『異邦人』としてのアキラから、その運用方法や将来への展望を話してもらおうという意味である。
「……ということで、一時的ではありますが、戦場においても有線での通話が行われたこともあります。また、近代になりますと、敵側の通信網を破壊する、という戦法が取られるようになります」
戦争に使えないか、という問いに答えた結果がこれである。
「ふうむ……原理はなんとなく理解できた」
魔法技術相ジェルマン・デュペーが白いあごひげを撫でながら言った。
「これを魔法で置き換えられないか、アキラ殿はそう言うのだな?」
「そうです。私の祖国と違い、この世界には魔法があります。ならばそれを利用する道を模索して悪いはずがございません」
「む、意見もっともである」
「研究を進めるのに異論はない」
産業相ジャン・ポール・ド・マジノ、それに宰相パスカル・ラウル・ド・サルトルもアキラの意見に同意したのである。
「ふむ、それならド・ラマーク領に『研究所』を作ったらどうかな?」
ここで国王ユーグ・ド・ガーリアからの意見が出た。
「王都に作りたくもあるが、そうすると他国……特に帝国の間者がうるさいだろうしな」
この帝国とはハルトヴィヒやリーゼロッテの出身国であるゲルマンス帝国のことである。
よくも悪くも『帝国主義』の権化のような国家で、ガーリア王国としても警戒を怠ることはできなかった。
「よろしいかと思います」
「陛下の仰せのままに」
「利は大きいと存じます」
宰相、魔法技術相、産業相らも同意した。
これは……。
これまでは、アキラの領地を今以上に支援してやりたいものの、依怙贔屓と他の貴族に取られかねないために加減していたのだ。
が、『王国直属』の『研究所』を作ったならば、その支援を堂々と行えることになる。
そういった意味でも、ド・ラマーク領に『研究所』を作るのは意味があった。
もちろん、『帝国』の間者が入り込みにくい、という利点もある。
地方というコミュニティでは『新顔』が目立つからだ。
間者がやって来ても察知しやすいというわけである。
そしてもう1つ。少し前に前侯爵から聞いてはいたが、
「今回の一連の魔法道具開発の功績を鑑み、ハルトヴィヒ・ラグランジュを準男爵に叙する」
と、宰相から正式な発表があったのだ。
「おめでとう、ハルト」
「ラグランジュ卿、おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
ハルトヴィヒは上座に座る国王ユーグ・ド・ガーリアに対し、最敬礼を行ったのであった。
* * *
休憩時間、アキラとハルトヴィヒはお茶を飲みながら歓談していた。
「いやあ、まさか本当に爵位をもらえるとは思わなかったよ」
「前侯爵から聞いていたろう?」
「まあそうなんだが、実感が湧かなかったというか……」
「わかるけどな」
アキラは頷いた。
「でも『研究所』をド・ラマーク領に建てる、というのはよかったな」
「うん。そのためのインフラは国で整えてくれるようだし、『研究所』ができれば物流だって増えるだろうし」
「人の流れも増えるだろうしな」
「そうなんだよ。領地にとってメリットが大きい」
「それが、今回のアキラへの報奨なんだろうさ」
「なるほどな」
* * *
休憩時間をはさみ、技術検討会が再開された。
『電信』の次の議題は『熱源』である。つまり『ハルトコンロ』だ。
「ハルトヴィヒ殿、このコンロの熱源を駆動している魔力回路を、別目的に使うことはできるのだろうか?」
魔法技術相ジェルマン・デュペーからの質問である。
「はい、できると思います。その部分は、空気中の魔力を集める部分ですから」
「ふむ、つまり、『発熱』のモジュールの代わりに『冷却』や『発火』なども使えるということだな?」
「仰るとおりです。ですが、あまり魔力消費の大きい魔法は使えません」
「まあそうであろうな。だがハルトヴィヒ殿、応用方法はそれこそ無数にあるぞ」
例えば煮炊き。
『加熱』ではなく『火』もしくは『燃焼』という現象を使う必要のある場面は少ないが、0ではない。
それから常夜灯。
多少暗くてもいいので、常夜灯用の魔力源として使えそうである。
その他に、微風でもいいので風を送り続ける魔法道具や、『冷却』の魔法道具にも応用できるだろう。
「そうした応用や、魔力回路自体を改良することも重要だろう」
そういった意味でも、『ハルトコンロ』は今度新たに作られる『研究所』での研究テーマになりうる。
「これは『技術革命』といえると思う」
これを皮切りに、よりよい世界づくりに邁進していきたいものだ、と魔法技術相は自分の意見を述べたのであった。
* * *
そして正午、昼食の時間となった。
「会議室の隣の部屋が空いていたので食堂として使いましょう」
とは宰相の言葉。
そして出されたものは『米』を使った料理である。
元々は王都に住んでいた『異邦人』の子孫が関係している、とアキラは説明しておいた。
「うむ、美味い。食べやすいですな」
「同感です。もっと早く『米』の存在を知っていれば……!」
出されたのは『おじや』。
日本風ではなくガーリア王国風の味付けにしたので全員に好評だった。
だが農林相ブリアック・リュノー・ド・メゾン
「もっといろいろな調理方法があるのだろう?」
「あります。ですが味付けがお好みではない可能性もありまして」
「うむ……それでもよい。そうした『技術』もまた、研鑽するべきだ」
どうやら、アキラの予想以上に『お米料理』が気に入ったらしい……。
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20220430 修正
(誤)そういった意味でも、『ハルトコンロ』を今度新たに作られる『研究所』での研究テーマになりうる。
(正)そういった意味でも、『ハルトコンロ』は今度新たに作られる『研究所』での研究テーマになりうる。




