表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第10章 平和篇
255/437

第四話 技術革命

 報告会は3日で終了したが、アキラたちにはまだまだやることが残っていた。

 技術検討会である。

 まずは『電信』についての詳細な説明である。

 ここで言う『詳細』とは、技術的なものではなく、『異邦人エトランゼ』としてのアキラから、その運用方法や将来への展望を話してもらおうという意味である。


「……ということで、一時的ではありますが、戦場においても有線での通話が行われたこともあります。また、近代になりますと、敵側の通信網を破壊する、という戦法が取られるようになります」

 戦争に使えないか、という問いに答えた結果がこれである。

「ふうむ……原理はなんとなく理解できた」

 魔法技術相ジェルマン・デュペーが白いあごひげを撫でながら言った。

「これを魔法で置き換えられないか、アキラ殿はそう言うのだな?」

「そうです。私の祖国と違い、この世界には魔法があります。ならばそれを利用する道を模索して悪いはずがございません」

「む、意見もっともである」

「研究を進めるのに異論はない」

 産業相ジャン・ポール・ド・マジノ、それに宰相パスカル・ラウル・ド・サルトルもアキラの意見に同意したのである。


「ふむ、それならド・ラマーク領に『研究所』を作ったらどうかな?」

 ここで国王ユーグ・ド・ガーリアからの意見が出た。

「王都に作りたくもあるが、そうすると他国……特に帝国の間者がうるさいだろうしな」

 この帝国とはハルトヴィヒやリーゼロッテの出身国であるゲルマンス帝国のことである。

 よくも悪くも『帝国主義』の権化のような国家で、ガーリア王国としても警戒を怠ることはできなかった。


「よろしいかと思います」

「陛下の仰せのままに」

「利は大きいと存じます」

 宰相、魔法技術相、産業相らも同意した。


 これは……。

 これまでは、アキラの領地を今以上に支援してやりたいものの、依怙贔屓えこひいきと他の貴族に取られかねないために加減していたのだ。

 が、『王国直属』の『研究所』を作ったならば、その支援を堂々と行えることになる。

 そういった意味でも、ド・ラマーク領に『研究所』を作るのは意味があった。


 もちろん、『帝国』の間者が入り込みにくい、という利点もある。

 地方というコミュニティでは『新顔』が目立つからだ。

 間者がやって来ても察知しやすいというわけである。


 そしてもう1つ。少し前に前侯爵から聞いてはいたが、

「今回の一連の魔法道具開発の功績をかんがみ、ハルトヴィヒ・ラグランジュを準男爵に叙する」

 と、宰相から正式な発表があったのだ。


「おめでとう、ハルト」

「ラグランジュ卿、おめでとう」

「あ、ありがとうございます」

 ハルトヴィヒは上座に座る国王ユーグ・ド・ガーリアに対し、最敬礼を行ったのであった。


*   *   *


 休憩時間、アキラとハルトヴィヒはお茶を飲みながら歓談していた。


「いやあ、まさか本当に爵位をもらえるとは思わなかったよ」

「前侯爵から聞いていたろう?」

「まあそうなんだが、実感が湧かなかったというか……」

「わかるけどな」

 アキラは頷いた。

「でも『研究所』をド・ラマーク領に建てる、というのはよかったな」

「うん。そのためのインフラは国で整えてくれるようだし、『研究所』ができれば物流だって増えるだろうし」

「人の流れも増えるだろうしな」

「そうなんだよ。領地にとってメリットが大きい」

「それが、今回のアキラへの報奨なんだろうさ」

「なるほどな」


*   *   *


 休憩時間をはさみ、技術検討会が再開された。

 『電信』の次の議題は『熱源』である。つまり『ハルトコンロ』だ。


「ハルトヴィヒ殿、このコンロの熱源を駆動している魔力回路を、別目的に使うことはできるのだろうか?」

 魔法技術相ジェルマン・デュペーからの質問である。

「はい、できると思います。その部分は、空気中の魔力を集める部分ですから」

「ふむ、つまり、『発熱』のモジュールの代わりに『冷却』や『発火』なども使えるということだな?」

「仰るとおりです。ですが、あまり魔力消費の大きい魔法は使えません」

「まあそうであろうな。だがハルトヴィヒ殿、応用方法はそれこそ無数にあるぞ」


 例えば煮炊き。

 『加熱』ではなく『火』もしくは『燃焼』という現象を使う必要のある場面は少ないが、0ではない。

 それから常夜灯。

 多少暗くてもいいので、常夜灯用の魔力源として使えそうである。

 その他に、微風でもいいので風を送り続ける魔法道具や、『冷却』の魔法道具にも応用できるだろう。


「そうした応用や、魔力回路自体を改良することも重要だろう」

 そういった意味でも、『ハルトコンロ』は今度新たに作られる『研究所』での研究テーマになりうる。

「これは『技術革命』といえると思う」

 これを皮切りに、よりよい世界づくりに邁進していきたいものだ、と魔法技術相は自分の意見を述べたのであった。


*   *   *


 そして正午、昼食の時間となった。

「会議室の隣の部屋が空いていたので食堂として使いましょう」

 とは宰相の言葉。


 そして出されたものは『米』を使った料理である。

 元々は王都に住んでいた『異邦人エトランゼ』の子孫が関係している、とアキラは説明しておいた。

「うむ、美味い。食べやすいですな」

「同感です。もっと早く『米』の存在を知っていれば……!」


 出されたのは『おじや』。

 日本風ではなくガーリア王国風の味付けにしたので全員に好評だった。


 だが農林相ブリアック・リュノー・ド・メゾン

「もっといろいろな調理方法があるのだろう?」

「あります。ですが味付けがお好みではない可能性もありまして」

「うむ……それでもよい。そうした『技術』もまた、研鑽するべきだ」


 どうやら、アキラの予想以上に『お米料理』が気に入ったらしい……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は5月7日(土)10:00の予定です。


お知らせ:急用で4月29日(金)朝から30日(土)昼まで不在となります。

     その間レスできませんのでご了承ください。


 20220430 修正

(誤)そういった意味でも、『ハルトコンロ』を今度新たに作られる『研究所』での研究テーマになりうる。

(正)そういった意味でも、『ハルトコンロ』は今度新たに作られる『研究所』での研究テーマになりうる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 戦争に使うとなると、銅線の生産が家内制手工業レベルでなくマジになるわけで これまで以上に銅鉱山開発に力が入るわけで、鉱山といえば湧き水を汲み出す蒸気機関の発達なわけで。 無論銅精錬には電気…
[一言] >「そうです。私の祖国と違い、この世界には魔法があります。ならばそれを利用する道を模索して悪いはずがございません」 ジェoO( アoO(魔法(チート)無しでもこのくらいできるんだ、チート…
[一言] >>技術革命 産業革命。 >>報告会は3日で終了したが、アキラたちにはまだまだやることが残っていた。 身重なので置いてきた嫁さん達へのお土産の購入ですな! >>ここで言う『詳細』とは…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ