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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第9章 領地発展篇
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第二話 帰路の話

 フィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵とアキラ・ムラタ・ド・ラマーク男爵は領地へ帰るため、馬車に揺られていた。

 そんな2人は、王城での報告会を振り返っている。


「画期的だったのは木工旋盤じゃな」

「そうでしたね」


 苦労して運んだ木工旋盤。

 大きく重いので、馬車が1台増えたほどである。

 そのデビューをどう演出するかにも頭を悩ませた。


 『木工ろくろ』と呼ばれる器械はこの世界にもあった。

 職人はそれを使って、丸棒を作り上げていたのである。

 これは椅子の脚や階段の手すりに使われていた。

 しかし、である。

 小物を作るための『チャック』を作り上げることはできていなかった。


 『チャック』とは、『ワーク』すなわち被切削物を固定する部品である。

 ボール盤でドリル刃をつかむ部分といえばわかりやすいだろうか。


 3つないし4つの『爪』をねじなどで送り、中心に被切削物を固定する。

 このとき、中心を正確に出せないとまずい。

 というのは、大抵の製品は、外と内を削り出すものだからである。

 例としてはお椀。

 まず外側の形を削り、次にひっくり返して内側を削る。

 外側に合わせて内側を削るわけだ。逆にすると、内側の様子が見えない状態で外側を削らなくてはならず、非常にやりにくい。

 またこの時、中心がずれてしまうと、肉厚が一定しないお椀になってしまう。

 それどころか、薄い側を削りすぎて穴を空けてしまうことさえありうるのだ。


 ゆえに『チャック』の精度は重要である。

 さらに言えば、固定力が弱いと削っている最中に被切削物が外れてしまうし、強くつかみすぎると傷をつけたり割ってしまったりすることになる。

 

 それらを全てクリアした『チャック』。

 それが『木工旋盤』のウリの1つだった。

 冬の間に工夫に工夫を重ねた、その成果である。


 そしてもう1つのウリは足踏み駆動である。

 これまでの『木工ろくろ』は、助手が手動でハンドルを回して被切削物を駆動するものだった。

 それが足踏み式になったことで、加工する職人の意志で回転数を調整できることになり、微妙な力加減ができるようになった。

 それはすなわち製品の品質が向上するということである。


 ハルトヴィヒによるデモンストレーションは、居並ぶ職人たちの目を奪うのに十分だった。

「おお!」

「なんと見事な……」

 ハルトヴィヒが削り出してみせたのは『お椀』。

 使ったのは『ナラ』。

 縁部分の厚さを1ミリほどの薄さに削り上げた逸品である。


 本来なら『漆』を染み込ませて仕上げるのだが、今回はデモンストレーションのため、素木しらきのまま、サンプルとして置いてきた。

 その他、木製のコップ、ワイングラスも作って見せ、ついでに花瓶までサンプルとしたのである。


 そんなデモンストレーションが功を奏したと言っていいのか……それから2日間、ハルトヴィヒは王都の職人に木工旋盤の使い方についてコーチする羽目になったのである。

「でもまあ、報奨金10万フロン(約1000万円)、奨励金20万フロン(約2000万円)をもらえたことだし」

 ハルトヴィヒは帰化して10年未満なので、叙勲の対象にはならなかった代わりに褒美をもらった、というわけである。


*   *   *


「報奨金といえばリーゼロッテもだったな」

「そうですね、閣下」


 リーゼロッテはキハダの皮とハチミツ、デンプンを用いて丸薬を作ったのである。これは胃炎、口内炎、急性腸炎、腹痛、下痢に効く。

 特に『水中みずあたり』による腹痛、下痢に効くので、長期行軍を行う軍には欠かせない薬となりそうだ、ということで、『口紅&リップクリーム』、『墨汁インク』と併せて報奨金10万フロンと奨励金20万フロンをもらったのである。


「じゃが、なんといってもハイライトはあのドレスじゃろう」

「そうかもしれませんね」


 王妃と第2王女に贈られた新作のドレス。

 『携通』にあったデザインを参考にしたオフショルダーの夜会用ドレスだ。

 完成された藍染あいぞめにより青のグラデーションを施したスカート部分と、レースをあしらった襟元。

 王妃のものは胸元をやや開け、そこにレースの花をあしらった。

 第2王女のものは上品な丸襟とし、薄い紫に染めたレースの縁取りと、ウエスト部分の銀色のラメが若々しさを際立てるようにしている。


 さらに、絹製品ではないが、ドレスに合うよう青い色に染めた鹿革で作ったハイヒールも外せない。

 さらにさらに、ギザギザを入れた銀線で作られた……平戸細工という……ティアラ。


 そうした『全身コーディネイト』を、王妃も第2王女も大いに気に入ってくれたのである。

 それでもらえた報奨金は50万フロン(約5000万円)、奨励金も50万フロン。

 借金だらけのアキラとしては一息つける臨時収入であった。


「今年はさらなる飛躍の年になるじゃろう」

「そうなってほしいですね」

 前侯爵の言葉に、アキラも頷いた。


 思いがけず貴族に列せられ、慣れない領地経営をしつつ絹産業を始めとした各種産業の振興。

 必死に突っ走ってきたアキラなのである。


 もちろん、支えてくれる人々がいつも周りにいたことは大きい。

「それに、そろそろおめでたの話はないのかな?」

「え、ええと、こればかりは授かりものですし……」

「そうか。……アキラ殿とミチアの子、早く儂に見せてもらいたいものだな」

「は、はあ……」


 アキラの妻であるミチアは、前侯爵の友人の忘れ形見なのだ。

 ゆえに前侯爵は、侍女として扱ってはいたが、姪っ子のように思っていたのである。

 そのため、1日も早く子供……『姪孫てっそん』といえるかもしれない……を見たがっていたのである。


*   *   *


 彼らを乗せた馬車の列は街道を進み、現侯爵であるレオナール・マレク・ド・ルミエ侯爵が治めるリオン地方に入った。

 もうすぐモントーバンの町である。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は10月9日(土)10:00の予定です。


 20211002 修正

(誤)非切削物

(正)被切削物

 3箇所修正。

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― 新着の感想 ―
[一言] 時間をかけて開発したりしてきた分が報奨金として返って来始めましたねえ これからもドンドン稼いで領地をドンドン豊かにしていきたいですねー
[一言] >>大きく重いので、馬車が1台増えたほどである。 もちろんその馬車の部品は木工旋盤で作りました。 >>そのデビューをどう演出するかにも頭を悩ませた。 木工旋盤を使っての処刑を大々的にや…
[一言] >>振り返っている フィ「ウハウハじゃったな」 明「分配分があるんで全部手元に残ることは無いのですがそれでも・・・」 >>ボール盤で 仁「リューター/ルーターと言えばモデラーなら何とか?」…
感想一覧
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