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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第8章 新生活篇
209/437

第十七話 稲作の効用

 概ね順調な領地経営に、アキラもかなり気が楽になっていた。


「米が豊作になりそうなのは嬉しい誤算だったな」


 稲は元々南方の植物である。

 ゆえに、品種改良を重ねても、冬は越せないのだ。

 せいぜいが寒冷地でも収穫できるようにするくらい。


 また、現代日本では早生わせ種の栽培が増えているようだ。

 これは、秋にやってくる台風シーズン前に収穫してしまおうという考えだろう、とアキラは素人なりに想像していた。


 そして今、この領地で、アキラはそうした品種改良に挑戦していたのである。

 やり方は単純。試験的に栽培した稲の中から、比較的成長が早いものを選抜する、これだけ。

 実は、同じ試みを稲作農家のシモンもここ10年くらい行っていたらしく、かなりの成果が上がっていたのだ。

 ただ、シモンが稲作をしていたのはここド・ラマーク領より遥か南のパリュ郊外なので、どれだけ寒冷地に対応できているかは不明だったわけだ。

 それを、北にあるド・ラマーク領で試験的に栽培し、選別を行った結果、今年は豊作となったのである。


 当然、『試験田』での栽培であるから、作付面積は2アール(200平方メートル)程度である。

 ちなみに、現代日本で、米の年間消費量は1人あたり64.6キログラム(2000年)と言われており、平均的な収穫量の稲で11メートル四方の田んぼが必要になるそうだ。

 しかし、今回栽培した稲は、もう少し単位面積あたりの収穫量が少ないものだった。


「さらに、収穫量の多い品種を選別していく必要があるな」

「はい、担当にそう指示を出しておきましょう」

「頼む」

 アキラは領主補佐のアルフレッド・モンタンに任せた。

 さらなる指示も出すアキラ。

「来年は田んぼも増やそう。それも指示しておいてくれ」

「かしこまりました」


 自領内で米が取れるようになれば、食糧事情も改善するし、他から買わずに済むようになり、財政的にもプラスになる。

「まずは、食の見通しは明るいかな」

 生活の改善を第一に考えているアキラなのだ。

 衣は養蚕。

 食は稲作と甜菜の栽培。

 住は温水器や貯蔵庫。

 それに公共設備の充実を目指したいと考えている。

 街道の整備も、結局は生活向上のための施策である。


「アキラ様、よろしいでしょうか?」

 執務机でこれからのことを考えていたアキラに、モンタンが話しかけてきた。

「うん、何だ?」

「はい。リーゼロッテ様が仰っていた『保存庫』ですが、国へ報告なさった方がよろしいかと存じます」

「ああ、確かにな」

「はい。非常に革新的な、革命的な発明だと思います。ひいてはリーゼロッテ様、ハルトヴィヒ様の立場の強化にも役立つであろうと愚考いたします」

「確かにな」


 この世界において、いや、アキラがいた現代日本を含めてみても、『保存庫』の性能は破格である。

 生ものをほとんど劣化させずに半年以上保存できるというのは、世界を変えるほどの発明なのであった。

 その功績は、帰化した2人の貢献度の表れとなり、より一層その立場を安定化してくれるだろう、というわけである。


「わかった。まずはフィルマン前侯爵閣下に報告し、その後の流れを考えよう」

「それがよろしゅうございます」

「紹介用に、『蔦屋敷』まで運んでいけるくらいの大きさの小型機を作ってもらった方がいいかな?」

「それはいい考えですね」

「よし、次回の『蔦屋敷』訪問までになんとかしてもらおう」


*   *   *


 夏も終わりに近づき、夕暮れもかなり早くなっている。

 1日の執務を終えたアキラは、暮れていく空を執務室の窓から眺めていた。

 そこへミチアがやってくる。

「アキラさん、シャワーの準備ができました」

「お、そうか、ありがとう」


 シャワー。

 北の国とはいえ、夏はそれなりに暑く、汗をかく。

 日本人のアキラとしては毎日でも風呂に入りたいのだが、燃料代を考えるとそうもいかない。

 そこで『太陽熱温水タンク』を利用したシャワー設備を試作したのだ。


 といっても日曜大工レベル。

 日当たりのよい庭に櫓を組み、『太陽熱温水タンク』を3個置く。

 そこからホースを引き、蛇口を介してシャワーノズルを取り付けたのだ。

 これにより、お湯で汗を流すことができるようになった。

 欠点は、天気によって温度が変動することである。

 この日は朝から晴れていたので、そこそこ熱いお湯となっていた。


「あー、やっぱり気持ちいいな」

 ド・ラマーク領は夏でも乾燥した気候であるが、やはりそれなりに汗はかく。

 頭から温水を浴びる気持ちよさは格別であった。


「早く温泉が見つかるといいなあ……」

 そう思いながら身体をさっと洗っていくアキラ。

 ちなみに使っているのは『ぬか袋』だ。

 米ぬかを木綿の袋に詰めただけのもの。

 石鹸が普及する前の日本では一般的だった。そして現代でも使われている。


 石鹸もあるにはあるが、自然に優しいだろうという理由でこれを使っているのだ。

 領内にも普及させつつあるが、なかなか評判はいい。

 ガンマーオリザノールやイノシトール、イソフラボン、セラミド、ビタミンEなどが含まれ、肌に優しい。

 『日本で最初の化粧品』とも言われるほどである。


「まだ売るほどはないからなあ」

 ガーリア王国中に普及させたいが、肝心の米ぬかの生産量……というより米の生産量がまだまだ少ないのだ。

 今のところド・ラマーク領に普及させつつある、といった段階である。

 もちろんフィルマン前侯爵と『蔦屋敷』では常用されており、評判も上々。

 来春の王都行きには献上品の1つとなる予定である。


 そんな搦手からめても使い、稲作の普及を促進したいアキラなのであった。


 これを使い始めてから、ミチアをはじめ、『絹屋敷』及び『蔦屋敷』で働く女性陣の肌がつやつやになってきたということである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は6月12日(土)10:00の予定です。


 20210605 修正

(誤)ひいてはリーゼロッテ様。ハルトヴィヒ様の立場の強化にも役立つであろうと愚考いたします」

(正)ひいてはリーゼロッテ様、ハルトヴィヒ様の立場の強化にも役立つであろうと愚考いたします」

(誤)より一層その立場を安定化してくれるだろう、というわけである。。

(正)より一層その立場を安定化してくれるだろう、というわけである。

(誤)蛇足ながら、これを使い始めてから、ミチアをはじめ、『絹屋敷』お呼び『蔦屋敷』で

(正)蛇足ながら、これを使い始めてから、ミチアをはじめ、『絹屋敷』及び『蔦屋敷』で

(誤)ちなみに、現代日本で、米の消費量は

(正)ちなみに、現代日本で、米の年間消費量は


(旧)蛇足ながら、これを使い始めてから、ミチアをはじめ、『絹屋敷』及び『蔦屋敷』で働く侍女たちの肌が

(新)これを使い始めてから、ミチアをはじめ、『絹屋敷』及び『蔦屋敷』で働く女性陣の肌が


 20210610 修正

(誤)その功績は、帰化した2人の貢献度の現れとなり

(正)その功績は、帰化した2人の貢献度の表れとなり

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― 新着の感想 ―
[一言] 米ぬかですかぁ……お肌に良さそうですね 石鹸だなんだって、進歩すればするほど環境には優しくなくなるし フ「川にそのまま流せる石鹸とか、わざわざそれを売りにしてる製品あるからな」 エ「アウト…
[気になる点] 蛇足ながら~ だと ということである。 で〆るのはなんとなく違和感があるような?気のせいかもしれませんが [一言] 米の消費量うんぬんは年間でかな? 日本は麺もパンもあるから年々減って…
[一言] 『侍女たち』より『女性陣』かもと。
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