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猫愛ずる姫君  作者: 月乃渚
後日談的番外編(一話完結)
16/16

第二王子と黒魔術師

ロビンのその後。短編です。

 ロビン・トレイナーは男爵家の子であったが、約一年前に自身が起こした事件により貴族の籍を外された。

 しかし国王の意向により、事件について真相は公表されず、魔術師となるための修行として平民となったということにされた。

 筆頭白魔術師ブラッドリー・ウェントワークスの一番弟子として、日々魔術の腕を磨いているという。

 今日はウェントワークスの代理として、第二王女のチェルシー姫の誕生会に出席することになっている。

 貴族であったとはいえ、その今までの短い人生を、貴族としての立ち振る舞いや知識を得るためのものではなく、勉学や剣術に費やしてきたため、第一王女のミラベル姫と宰相であるアップルビー公爵令嬢のアルシア嬢が、身支度を手伝ってあげていた。

「さあ、これでばっちりですわよ。」

 アルシア嬢は着飾らせたロビンを見て、満足げにうなずいた。

「僕、こんなの着たことないから動きにくいです。歩きにくいし、おなかも痛い。」

「何を弱気なことを言ってるのよ。みんな我慢して着てるんだから、文句を言うものではありませんわ。」

「こんな格好、一体何の意味があるんだろ。」

 ロビンはうんざりした顔でつぶやいた。

「ふふ、そのうちわかるようになるわよ。どうしてきつい思いをしてまで、着飾るようになるのか。」

 ミラベル姫が言った。

「お二人みたいにお綺麗な人が着るならまだしも、僕みたいなのがこんな格好してもなあ。」

 ロビンは服の裾をつかんでため息をついた。

「あなたのオレンジ色の髪に、緑色の服が良く似合ってるわ。」

 ミラベル姫がほめても、つまらなそうに口をすぼめている。

「あー、僕もう帰りたい。師匠はずるい。嫌なことは全部僕に押し付けるんだから。」

「しょうがないですわ、ロビン。それに、今更逃げられませんわよ。そろそろディミアン殿下が迎えに来ますもの。」

 平民となったロビンの後見人を、第二王子のディミアン殿下が請け負っている。

「ディミアン殿下が来られるなら仕方ないかな。」

 ロビンはやっとあきらめがついたようだ。

 ディミアン殿下に助けられたといってもいいロビンは、彼には非常になついている。

「ロビンはディミアン兄様が大好きだものね。本当に二人って仲良しよね、うらやましいわ。ディミアン兄様ったら私には厳しいのに、ロビンには甘いんだもの。」

 ミラベル姫は、ほうっとため息をついた。

 アルシア嬢は苦笑いをしながらぽつりとつぶやいている。

「意識してないのと、気づいてないのと、なんというか、鈍感ですわよね。」

 やがて廊下から急ぎ足の大きな足音が聞こえてきた。

 そして、扉が大きな音を立てて開かれる。

 美男子であるのに常に仏頂面なディミアン殿下が勢いよく部屋に入ってきた。

「ロビン、用意はできたか!そろそろ会場に行く......ぞ......。」

 ディミアンは鳩が豆鉄砲をくらったような顔で立ち尽くしている。

 すかさずミラベル姫がずいっと兄の前に立ち、抗議した。

「ディミアン兄様、準備ができたらお呼びすると言っていたではありませんか。いきなり入ってくるなんて不作法ですよ。」

「おい、なんでロビンは女装してるんだ......。」

「女装じゃありません。正装をしてるんです!」

 文句を言っているミラベル姫の背後から、ロビンが近づいた。

「ディミアン殿下、お待たせしました!」

「ロビン......お前本当にロビンなのか?......ええ?ロビンは、男だろう?なぜドレスなど......。」

「何を寝ぼけたことを言ってるんですか、ディミアン兄様?ロビンは女の子ですよ?」

「え?もしかして、殿下は知らなかったんですの?」

 ロビンはオレンジ色の髪を綺麗にまとめ、花の飾りをつけ、上品な緑色のドレスに身をつつみ、その姿は立派な貴族の令嬢のようだった。

 そして、きょとんと首をかしげている。

「いや、でも今までずっとチョッキにズボンをはいていたじゃないか!髪も短かったし。」

「見た目で人を判断するなんてなんて失礼なのかしら、ねえ、ロビン?」

「僕は別にいつものような格好でよかったんですけど。」

「いけませんわ!もうロビンも十五になったんですもの。来年にはもう大人ですわ。女性としてきちんとした格好をするべきですわ。」

「えー。」

 嫌そうにしているロビンの隣で、ディミアンはまだ混乱のあまり茫然としていた。

「と、いうわけで、ロビンはもう大人の女性になるんです。殿下はきちんとエスコートしてくださらないといけませんわよ。」

「ちょっと!聞いてるんですか!ディミアン兄様!」

「え?あ、ああ。いや、しかし......。」

 まだ混乱しているディミアンを、ミラベル姫とアルシア嬢がにらみつけた。

「えー、あー、ごほん。では、行くぞロビン。」

 ぎこちなく差し出された左腕に、ロビンは元気よく腕を絡ませた。

「はい!」

 二人はそのまま部屋を出て行った。

「うふふっ。あんな顔を真っ赤にして慌てるディミアン兄様は初めて見たわ!」

「あの殿下をあれほどうろたえさせるとは、ロビンもなかなかやるわね。」






 それからは以前にも増して、ウェントワークスの部屋にディミアン殿下が訪れる回数が多くなった。

 曰く男の部屋にロビンを入りびたたせるのは教育に良くない、ということらしい。

 アルシア嬢はその過保護っぷりに呆れているという。









これにて完結となります。

読んでくださった方、感想をくださった方、評価してくださった方、ブックマークしてくださった方、皆さんにこのお話を完結させるパワーをいただきました。

本当にありがとうございました!


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