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影武者殺しⅠ―魔法使いと「影」の討伐―  作者: 真柴 石蕗
第1章 影武者殺しの旅へ
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第6話 怪しい森


 ウーラ村を抜けてしばらく進むと、こんもりとした小さな森が広がっていた。


 地図には「ソアラの森」と、走り書きのようなメモが残されている。

 昔は名もなき森として、地図にすら載っていなかったのかもしれない。


 森の中へ続く道は、粗雑ではあるが人の手で整えられた跡が残っていた。

 道の脇に、木材で作られた看板が風に煽られて傾きながら刺さっている。



「『この先、野生動物の棲家あり』……って書かれていますね。森なんだから動物くらいいるでしょうけど、わざわざ看板まで立てるほどでしょうか」



 アドルフさんはどう思いますか――そう尋ねようと顔を上げた瞬間、軍人の青年は森の中へ鋭い視線を向けていた。



「この森、あまり長居しないほうが良さそうだな」


「え? まあ、寄り道するような場所じゃないですけど」


「そういう意味じゃない」



 ぴしゃりと言い返され、口をつぐむ。

 何をそこまで警戒しているのだろう?

 森へ意識を集中させるが、魔物や魔獣の類いが発する特有の気配は感じ取れない。



「アドルフさん。この森、特別な魔力は感じませんよ。魔法生物はいないと思います」


「たしかにな。だが、それより厄介な連中が潜んでいるかもしれん」



 アドルフの手が、腰に差した剣の柄を握る。

 その目に、戦闘前の軍人らしい鋭い光が宿った。



「なあ。魔法ってのは、城の外でも好きに使っていいもんなのか?」


「それは……時と場合ですね。そもそも魔力を持たない人族には、最低限の術しか使えないよう制限がかけられていますから」



 マントの内側から杖を取り出す。

 七歳の誕生日に、シュティルナー師匠から贈られたものだ。

 サラマンダーの皮とフレアシダーの木、そしてニカ花をかけ合わせた、火の属性魔法と高い親和性を持つ杖。


 熟練の杖職人が精魂を込めて生み出した、この世に一つしかない僕専用の魔道具だ。



「特に、僕の火の属性魔法は、攻撃力が高く扱いも難しいらしくて。ですから父上とシュティルナー師匠が、いろいろ制限をつけているんです」


「ふうん……使えるのか使えないのか、よく分からんな。まあいい。万が一の時は、自分の身くらい守れるようにしておけ」


「万が一、って」


「俺も不死身じゃない。息の根を止められたら、お前の護衛はそこで終わりだ」


 

 にやり、と不敵に笑ってみせるアドルフ。

 冗談でしょう、と返すより先に、彼はさっと森のほうへ一歩踏み出す。

 その鍛え上げられた大きな背中を、慌てて追いかけた。



 森の道は、いつが最後の整備だったのか分からないほどデコボコしていて、形大きさの不ぞろいな石が足元に点々と散らばっている。

 難路とまでは言わないが、街道のようにはいかず、歩き慣れない足がもつれそうになる。


 対してアドルフは、一定のリズムで軽々と先へ進む。

 足元なんて見もしないのに、石ひとつ踏まずにスルリと避けながら。

 まるで街中を散歩しているかのような、軽やかな足取りだ。



 これが、日々身体を鍛えている者と、そうでない者の差か。



 アドルフの背中は、気づけば木々に紛れるほど遠くなっていた。

 このままじゃ、完全に置いていかれる。

 歩調を早めながらも、呼吸はじわりじわりと苦しくなり始めていた。


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― 新着の感想 ―
1話あたりの文字数がちょうど良く、サクサク読み進められるのが楽しいです!
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