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影武者殺しⅠ―魔法使いと「影」の討伐―  作者: 真柴 石蕗
第3章 タリアへの道
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第47話 旅は道連れ


 砂に覆われた大地を、どれほど進んだのだろう。

 単調な揺れに身を任せているうちに、うたた寝をしていたらしい。


 ――ガタン。


 荷車が大きく跳ねた衝撃で、意識が急浮上した。

 顔を上げてまず視界に入ったのは、首を伸ばすようにして前方へ視線を投げる、植物学者の横顔。



「あれ……街じゃないですか?」



 寝ぼけ眼のまま、ベンジャミンが示す指先を追った。

 砂で霞んだ景色の向こうに、建物らしき影が点々と浮かんでいる。

 荷車の中から上半身を乗り出すと同時に、後方から張りのある声が飛んだ。



「ネーデラアルネだ! もうすぐ休めるぞ!」



 隊商の中で、男たちの野太い歓声が上がる。

 それにつられたのか、馬たちの足取りまで心なしか軽くなった気がした。



 やがて一行は、“隊商(キャラバン)の村”と呼ばれるネーデラアルネに到着した。

 

 あちこちに乱立するテントは、隊商らが滞在用に組み立てたものだろう。

 掘立小屋のような建物は、旅人用の休憩施設か。

 人の数より馬やロバのほうが多いのも、この村ならではの光景だ。



「ありがとうございました。おかげで無事に目的地までたどり着けました」



 僕とベンジャミンが頭を下げ、アドルフが金貨一枚をアザムに差し出す。

 ターバンの男は分厚い掌の中で金貨をしっかり握りしめると、



「旅は道連れってやつだな。意外と楽しかったぜ」



 黄ばんだ歯をのぞかせ、にかりと笑った。

 強面な見た目に反して、どこか人懐っこさのある笑顔だ。

 これからどうするのかと問うと、「ここで半日ほど休む」とのこと。



「この砂嵐も、夜になれば昼間より落ち着く。日没の後に出発するのさ」


「ネーデラアルネを出たら、湿原も通るんですか」


「ローリイン湿原か? まさか! 俺たちはあんたらとは別ルートで、リベルタへ向かうんだ」



 アドルフにこれからの動きを尋ねると、「俺たちはここで休憩する時間はない。すぐにでも出るぞ」とそっけなく返された。



「あんたら、さっきも言ったがタリアへ向かうなら最大限に用心することだな」



 別れ際、アザムはふと真顔になって忠告する。

 道中での会話が頭に蘇り、僕は深くうなずいた。


 砂嵐の中で、隊商の列が次第に遠のいていく。

 馬列の間から手を振る商人たちに、僕とベンジャミンも大きく手を振り返した。




 ◇◇◇




「アドルフさん。僕たち、ローリイン湿原を通ってタリアへ行くんですか?」



 隣を歩く軍人に問いかけると、彼は手元の地図から僕へと視線を移した。



「地図の縮尺通りなら、湿原はかなりの面積だ。避けると大きな遠回りになる」


「でも、ローリイン湿原といえば魔物や精霊が棲むことで有名です。そこを横切るのは……」



 僕の言葉に、アドルフとベンジャミンは同時に顔をしかめる。

 二人とも、オルガノ山での出来事を思い出したのだろう。

 脅しめいた言い方に少しの罪悪感を覚えつつ、僕は続けた。



「ただでさえ広大な面積の湿原に、正体不明の魔物たちがうようよいるんですよ。時間がかかるとしても、湿原を避けてタリアへ向かうのが無難かと――」



 そのときだった。

 何気なく彷徨わせた視線が、前方の一点で止まる。

 突如会話を中断した僕に、アドルフが怪訝な声で問いかけた。



「どうした、ネイサン」


「あれ……何か、落ちてませんか?」



 僕が向けた指先に、二人の視線も集中する。

 砂が堆積する大地に、ぽつりと黒っぽい何かが落ちていた。

 

 足早に近づくと、それは片方だけの手袋(グローブ)だった。

 革製で作りは丈夫だが、かなり使い込まれているようだ。

 あちこちが(ほつ)れ、細かな傷痕も目立つ。

 

 ベンジャミンが拾い上げて、手の入れ口を地面に向けた。

 少し振ってみると、中から大量の砂粒がざらざらとこぼれ落ちる。



「誰かの落とし物でしょうか」


「だろうな」



 アドルフの返答は、明らかに無関心のそれだ。

 一方で、植物学者は引っかかるものがあるらしい。



「商人や旅人も多く通るでしょうし、落とし物くらいあるでしょうが……何だか、不自然な感じですね。わざと落としていったような」



 指先で摘まんだ手袋を、じっくりと観察している。

 僕の意識もまた、その落とし物に強く惹きつけられていた。


 ただし、ベンジャミンとは別の理由で。



「そんなものを気にする暇はない。ここは砂漠だぞ。さっさと行こう」



 三人旅に慣れたのか、軍人の口調はすっかり砕けている。

 じれったそうに足踏みするアドルフを、僕は慌てて呼び止めた。



「ちょっと待ってください」


「あ?」


「もしかすると……移動時間を短縮できるかもしれません」


「ネイサン、寝言を言うにはまだ日が高いぞ」



 皮肉を飛ばす軍人と、首を傾げる植物学者。

 僕は、ベンジャミンの指先からぶら下がる手袋を静かに見つめる。

 わずかに早まる呼吸を抑えながら、確信を持って二人に告げた。



「この手袋――おそらく、補助魔道具です」


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