表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影武者殺しⅠ―魔法使いと「影」の討伐―  作者: 真柴 石蕗
第1章 影武者殺しの旅へ
13/55

第11話 影の正体


「森を抜けた先の街を過ぎれば、夕刻にはエミュンカラに着くはずだ。急ぐぞ」



 木々の合間を縫うように、アドルフの後ろ姿はすいすいと前へ進んでいく。

 鍛え抜かれた背中を追いながら、一度は落ち着いた呼吸がまた荒くなり始めた。


 こちらは駆け足状態だが、彼はせいぜい早歩き程度だ。

 身長差ゆえの歩幅もあるのだろう。

 だがそれ以上に、圧倒的な体力差を思い知らされる。



 もっと、身体を鍛えないとな……。



 せめて、鼻歌交じりに彼の横を並んで歩けるくらいには。

 魔道具に頼らず、一人で山賊と渡り合えるくらいには。

 そうでなければ、また相棒の足を引っ張り、余計な心配を背負わせてしまう。


 腰に差した短刀へ、そっと指を這わせた。

 ひやりとした、冷たい感触。

 この感覚にも、早く慣れなければ。


 黒フードたちのような得体の知れぬ襲撃者が、またいつどこで牙を剥くかも分からないのだから。




 ◇◇◇




 余計な会話もなく、一本道を黙々と進み続ける。

 密生した草木の壁がふいに途切れ、前方の視界がぱっと開けた。

 思わず数歩飛び出すと、灰色の建物が寄り集まった街並みが遠くに見える。


 ようやくソアラの森を抜けたのだ。


 肩で大きく息をつき、後方を振り返る。

 樹林の隙間をすり抜ける風が、侵入者を追い出すように不気味な葉擦れの音を立てていた。



「お前、さっきの連中についてどう思う」



 気づけばアドルフが足音もなく隣へ並び、森の方角へ鋭い視線を向けている。



「黒フードの襲撃者たちですか?」


「ああ」


「どうって……不気味な恰好でしたけれど、なかなかの手練れだと感じました。互角とまでは言わなくとも、アドルフさんと渡り合っていたわけですから」



 疲れの色が微塵もない顔で、アドルフは「ふうむ」と低く唸る。

 何か、腑に落ちない様子だ。



「……何か、気になることでも?」


「あの連中には、たしかに魔力は感じなかったんだよな」


「ええ。彼らは純粋な人族でしょう。少なくとも、僕はそう感じました」



 頭三つ分ほど高い軍人の横顔を、そっと見上げる。



「アドルフさんは、あの襲撃者たちが普通の人族ではないと?」


「よく分からん。正直、剣術の腕は大したこともなかった。なのに妙に手合いが悪かった」


「と、言いますと」


「軍式の訓練を受けているにしては、動きが奇妙だった。かといって素人の戦い方でもない……軍事以外の、特殊な訓練でも受けた連中かもしれん。異国の剣技か、未知の武技か」



 それは――もしかして、「影武者」に関わる者たち?

 そう訊き返したいが、喉がつっかえて上手く声が出ない。


 軍人として父上から絶大な信頼を寄せられている、アドルフの勘だ。

 仮に、黒フードの者たちが影武者と無関係だとしても、彼らがただの悪党で済むとも思えない。



「――あ!」


「どうした、いきなりでかい声を出して」



 眉をひそめた相棒に、「あ、いえ」と口ごもる。



「四人目の襲撃者……草むらに潜んでいた弓使い、止めを刺さないままで良かったんでしょうか」



 僕が勢い任せに飛びつき、短刀でローブごと地面に釘差しにしたあの後。

 アドルフは短刀を抜き、弓使いを近くの木にロープで縛りつけただけでその場を立ち去った。


 ほかの三人は木の根元で沈黙したまま――おそらく、あの時点ですでに息絶えていたのだろう。



「ああ、あいつか。いいんだよ、わざと生かしておいたんだ」


「なぜです?」


「様子見さ。連中の正体がどうにもつかめなくてな……自力でロープを解けるようなら、もう一度俺らを襲ってくるかもしれん。そのときは、今度こそ身ぐるみ剥がして正体を暴き出す」



 勇ましい軍人は、ソアラの森へ厳しい眼差しを送っていた。


 あの森の中に、弓使いはまだ潜んでいる。

 アドルフを矢で狙っていたときの、冷たく血に飢えた、獣のような双眸が脳裏に蘇った。


 もし再び、相まみえる時が来るのなら。

 黒フードの中で(うごめ)く影の正体を、この目で見極めなければ。



 拳を固く握りしめ、顔を横に向ける。

 隣にいたはずの相棒は、いつの間にかソアラの森に背を向けて、街のほうへ歩き出していた。




 ◇◇◇



 

 アドルフの目算通り、その日の黄昏時にはソアラの森からほど近い街を抜け、エミュンカラの郊外に到着した。


 てきとうに見つけた宿で簡単な食事を済ませ、僕もアドルフもすぐにベッドへ倒れ込む。

 旅の初日から謎の襲撃者と交戦し、張りつめていた糸がぷつりと切れたのだろう。

 

 一日の感想を語り合う余裕もなく、二人とも泥のように深い眠りへ落ちていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ