幕間 襲撃者
今回も幕間です
こちらはある程度本筋に関係あるかもしれません
見張られているような、妙な視線を感じる。
エボニーとのコラボの翌日、気分転換がてらガーデン通りを歩いていたときに、不意にそう思った。
なんというか、物陰から見られているというか、監視されているというか……こんな経験は初めてで自分では判断がつかなかったので、とりあえずシダに話してみることにした。
「きっ、気のせいじゃないですか……ね? えっと、今日は用事があるので……」
……少し引っかかる反応ではあったものの、確かにシダの言う通り、気のせいだという可能性は高い。
わざわざ私を監視する意味が分からないし。
その時はまだそう思っていたけど、それから何日か経って、いろいろとあって……ついに疑惑は確信に変わった。
どうやら私は誰かに尾行されているらしい。
今まで「人の気配がする」という感覚がよく分からなかった私だけど、そこに誰かがいる気がするというような第六感的な感覚ではなく、意識外から微かな音が聞こえてきたり、視界の端に気になるものが映ったり、そういうちょっとしたものが積み重なって気配になっているんだと理解できた。
ここ数日の私の周囲には常にそんな気配があって、やはり誰かに見られているような感覚がしていた。
ただ……それでもやはり確信するには至らず。
もっと証拠になるようなものを見つけよう。
そう思いながらアリフラにログインした私の頬をどこからか飛来した一本の矢が掠めた。
「えっ」
一瞬で物証が手に入ったんだけど。
……いや、そうじゃなくて。
「……誰?」
私の言葉に反応して、ゆらりと空気が揺らめいたかと思うと、先ほどまで何もなかったはずの空間から一人のプレイヤーが現れた。
鼻までを覆うマスクをつけ、黒い装備に身を包み、短弓を携えている女だ。
そんな暗殺者という言葉が似合う姿をしている彼女は、私に冷たい目を向けながら話し始める。
「お前は……お前は近づきすぎた」
真実を知ったキャラを始末する悪役のようなセリフを言って、彼女は弓を引き絞った。矢は当然のように私を狙っている。
急に武器を向けられて竦む脚を何とか動かして、咄嗟に転がり込むように物陰に飛び込むと、背後から空気を切り裂くような音が響いた。
慌てて振り返ると、石の壁に矢が深々と突き刺さっていた。完全に当てる気で来てる。脅しとかではないらしい。
どうにかこの場から逃げないと。そうは考えたものの、位置が悪い。
前回のログアウトが自分の店の前だったので、店は近い。逃げ込めればそれが一番いいけど、そうしようと思うと遮蔽物のない場所を通る必要がある。
ここから出ればすぐに射られてしまうだろうし、かといって逃げようとしても器用に極振りした生産職ではすぐに追いつかれてしまう。
助けを呼びたいところだけど、時間帯のせいか辺りに人は見当たらない。
「詰んでる……」
そう考えている間にもすぐに襲撃者は矢をつがえて私に狙いを定めてくる。
もうダメだ。そう思った瞬間、店のドアが勢いよく開け放たれた。
「っ、大丈夫ですか!?」
シダだ。どうやら騒ぎを聞きつけて来てくれたらしい。
その一瞬で状況を察したらしいシダは、そのまま私の傍まで駆け寄ってきて、それから私と襲撃者との間に割って入った。
そして――
「いい加減にして、お姉ちゃん!!」
シダがそう叫ぶと、襲撃者は目に見えてうろたえ…………お姉ちゃん?
――――
「うちの姉がすみませんでした!」
頭を下げるシダの隣で、襲撃者は不機嫌そうに他所を向いている。
彼女の名前はカトレア=ルーハインド。
有名クラン【セフィロト】に所属するトッププレイヤーであり、シダの実の姉らしい。
シダって有名プレイヤーとの謎の伝手があったりしたけど、もしかしてこの人が橋渡しになってたのかな。
まあそれはともかく、一番気になっていることを聞いてみる。
「なんで、私を?」
「……素材を集めていたんだ。妹の為に」
そっぽを向いたまま、カトレアは訥々と話し始めた。
「幸い、狩人には素材を多く集めるためのスキルが幾つもある。その日取れた素材の九割を妹に送る生活をこれまで毎日続けてきていたんだ。妹は初め迷惑そうにしていたが、ある日を境にむしろ自分から要求してくれるようになった。遂にこの姉に心を開いてくれたかと、その時はそう思ったんだ…………真実は、違ったが」
カトレアの死んだような目に殺意が宿る。
というか今までさんざん使ってきたけど、シダが持ってた素材って姉からのプレゼントだったんだ。
そう考えると、カトレアからしてみれば恋人へのプレゼントをホストに横流しされるような、そんな感覚だったのかもしれない。何か若干罪悪感が湧いてきた。
「脳を破壊されそうになりながらも、私はお前を監視することにした。妹のそばにいる資格があるのかを判断する為にな。そしてこれまで君を逐一監視して、一つ気づいたんだ」
そこでカトレアは一度言葉を切って、それから勢いよく私を指さして叫んだ。
「お前の距離感はおかしい!!」
「えー」
「えー、じゃない! 暇さえあれば手を繋ぎやがって!! 見る度に脳細胞が死滅するのを感じた!! 私が手を繋ごうとするとストレートに拒否してくるんだぞ!!」
カトレアは全てを呪うような表情で地面に崩れ落ちながら尚も叫ぶ。
「極め付けは一週間前だ……!! お前は妹と、ハグを…………!!! 妹に触れていいのは私だけなんだぞ!!!」
そう言いながら、カトレアはシダに抱き着いて顔をわしゃわしゃと撫で始めた。
シダは本気で抵抗しているけど、トッププレイヤーとのステータス差でなすすべなく抑え込まれていた。
そうやって無理やりするから嫌われるんじゃないのかな。
「……まあいい、久しぶりにイモウトニウムを補給出来たし、今日のところはこれで失礼する。だがその前に一つ聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」
「お前にシダを愛する覚悟はあるのか、ということだ」
急にとんでもないことを言い始めた。
愛する……愛する? どういう意味で?
よく分からないけど、少なくとも私はシダと一緒にいたいし……そういう意味では、あると言っていいのかもしれない。
「覚悟ならある。私はシダと一緒にいたい」
「ちょっ、先生!?」
こんなに慌ててるシダを見るのは初めてかもしれない。なんか、姉が執着する気持ちもわかる気がするな。
なんて考えていると、カトレアは忌々しげに舌打ちし、立ち上がった。
「なら覚えておけ。お前が相応しい人間なのか、私はこれからも監視を続ける。不義理を働けば……殺す。分かったか」
そう言って、カトレアは最初に現れたときのようにスッと空間に溶け込むようにして消えたのだった。
なんか、ゲームだから殺されてもリスポーンできるわけだけど、リスキルくらいなら普通にやってきそうな凄味があるのが怖い。
「本当にすみません……姉は私のことになると暴走しがちで……」
「気にしてないよ。まあ、驚きはしたけど……いろいろ納得もしたし」
「そうですか……。まあ、私としても今日は嬉しかったです。先生の口から、一緒に…………はう」
言い終わる前にシダは床にへたり込んでしまう。
「えっ、大丈夫?」
「大丈夫です……先生って本当に、無自覚ですよね……」
「無自覚?」
まあ、とりあえずシダが無事そうでよかった。
ただ私の方は一度にいろいろありすぎて少し疲れてしまったので、結局その日は配信を休み、シダと二人で過ごしたのだった。
明日は今まで出た武器と素材をまとめたものを投稿します。




