第26話 言ってやったぜ
程なくして、神社に到着。
「佐伯は何てお願いしたの?」
「無病息災と、天城さんの仕事が上手くいきますようにと……天城さんは?」
「あたし? 今年こそ佐伯と付き合えますように、ってお願いした!」
「そんなことのために、お賽銭に千円も投げたんですか……?」
「ふふふぅー! これは間違いなく叶ったね! 何たって課金額が違うから!」
「か、課金額って……バチ当たりなこと言ったので、たぶん叶いませんよ」
「えぇー!?」
参拝が終わり、他のひとたちの邪魔にならないよう隅の方へ。
ちょうどよく、佐伯のスマホが鳴った。親御さんからの電話らしく、今どこにいるのか喋っている。
う、うわぁー! 緊張してきたー!
佐伯のお父さんとお母さんって、どんなひとたちなんだろ……。
お爺さんは元警察官って、昴ちゃんが言ってたよね。その影響で、ご両親も厳しいひとだったりするのかな。佐伯がちょー真面目な性格なのも、それが関係してたりして?
……ちょ、ちょっと待って! もしそうだったら、あたしやばくない!?
だって、金髪だよ!? ピアスだよ!? メイクもバチバチだよ!?
不良だろって言われたら、言い訳できないじゃん!
どうしよう……い、今からメイク落とす? ピアスも外す?
うーん、それでも髪はどうにもならないしなぁ……。
「すぐこっちに来るそうです……ん? 天城さん、だ、大丈夫ですか? 顔色が悪いですけど……」
……やばい。
やばい、やばい、やばい。
ものすごく、やばい!!
ご両親に嫌われたら、流石に終わる。佐伯の外堀埋めちゃおー♡ とか思ってたけど、自分の墓穴を掘るハメになる。
――……いっそ、逃げるか。
戦略的撤退。
適当な理由をつけてここを脱し、後日改めて清楚有咲ちゃんに変身してから会う。
うん、ありだ。というか、それしかない!
「あ、来ました。おーい、こっちこっちー!」
「ひぇっ!?」
時すでに遅し。
もはや逃げ出す時間などない。
お、終わった……あたしの恋、終わっちゃった……。
「えぇ~~~~~~~~~!? 可愛いぃ~~~~~~~~~!!」
死にかけていたが、突然の絶叫にハッと呼吸の仕方を思い出す。
目の前にいたのは、あたしよりも少し背の低い中年女性。
年齢は四十代くらい。昔は死ぬほどモテただろうな、と一瞬でわかる顔立ち。
そのひとはあたしを見て、茶色がかった瞳をキラキラと輝かせている。
「ちょ、えっ、真白!? この子が天城さん!? すっごく可愛いじゃない!!」
「か、母さん、声デカいって……!」
「可愛ぃー! 昴ちゃんもそうだけど、やっぱりモデルさんって違うわねー!」
「そんな近くでジロジロ見たら失礼だから……!」
「えぇー? だって、こんなに可愛いのよ!? 見ない方が失礼でしょ!!」
「もうちょっと遠慮を……って、あの、天城さん? 本当に大丈夫ですか?」
「……だ、大丈夫。いやもう、何か、安心しちゃって……」
「はい?」
緊張が解け、一気に身体から力が抜けた。
あぁー……よかった。あたしの恋、まだ終わってなかった。
にしても、すごく元気なお母さんだなぁ。失礼だけど、本当に佐伯のお母さん? でも、顔とかはよく似てるし……。
「ほらアナタ、見て! あの動画の天城さん! ねっ、可愛いでしょ!!」
手招きされてやって来たのは、巨人だった。
分厚いコートで身を包む、身長が二メートル近い大男。ドシドシとやって来て、あたしの前で立ち止まる。
「…………」
言葉はない。
ただ軍人のように鋭い目で、こちらを見下ろす。
怖い――そう思った瞬間、佐伯のお母さんがぴょんとジャンプして、そのひとの後頭部を思い切り叩いた。
「んもーっ、アナタ! その他人を無言で見下ろすのやめなさいって、何度言ったらわかるの!? 天城さんが怖がってるでしょ!!」
「あっ……ご、ごめん、なさい……」
「天城さん、悪かったわね! うちの主人、ひとと話すのが大の苦手で……! もうね、いっつもこうなのよ!」
言いながら、バシバシとその大きな背中を叩いた。
ふと、佐伯のお父さんと目が合う。
微笑みかけると、向こうは照れ臭そうに視線を逸らして、またこっちを見て、不器用に笑って軽く頭を下げる。
……わっ。
わぁ~~~!! すごっ、今の佐伯だ!! ちょー佐伯っぽい!!
なるほどなぁ……佐伯の体格と控えめな感じはお父さん似、顔立ちはお母さん似って感じかー。
「えーっと……もう知ってると思うけど、一応紹介するよ。友達の天城有咲さん。こう見えて成績は学年一位で、僕の勉強の面倒を見てくれてるんだ」
「あっ、はい! 天城有咲です! よろしくお願いします!」
ペコリと頭を下げて、目一杯の笑顔。
そして、この雰囲気なら問題ないと判断し、用意していた台詞を頭の中から取り出す。
「佐伯の……真白君のことが、大好きです!! ちょー恋してます!!」
言ってやったぜ。




