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お隣さんのギャルが僕を惚れさせたくて全力すぎる  作者: 枩葉松@書籍発売中
第2章

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第8話 食べちゃいたい


 自分で言うのも何だが、あたしはかなり優秀な人間だと思う。

 勉強はできるし、スポーツだって得意な方。誰とだってすぐに仲良くなれるし、嫌われることより好かれることの方が多い。


 でも、そんなあたしにも致命的な弱点がある。


 ――家事ができない。


 厳密にはできないわけじゃない。普段から最低限のことは自分でやっているし、実際、生活が成立する程度にはできる。


 ただ不器用ゆえ、佐伯みたいに何でも高水準でテキパキとこなせない。

 特に料理は苦手で、彼に作ってもらうまではそれはもう味気のない食事の毎日だった。


 本当に、本当に、彼には助けられてばかり。

 だけど、いつまでもその優しさに甘えたりはしない。今日あたしは、ちょー美味しい料理で佐伯の胃袋を掴んでみせる!


「ご飯は炊いてあるみたいですけど、メインは何を作るんです?」

「カレーだよ! ママ直伝、天城カレー!」


 カレー。日本人なら誰でも知っている家庭料理の一つ。

 胃袋を掴むとか言って簡単すぎないかって? いやいや、甘いね。お子様カレー並みの甘々思考だね。

 さっきも言ったけど、あたしはバカじゃない。


 無理に難解な料理を披露して失敗するより、お手軽に作れて確実に美味しいものを提供した方が絶対にいい。佐伯だってその方が喜ぶはず。


「この前、ママに会ってさ。その時に久しぶりに食べたくなって作ってもらったの。うちのカレー、本当に美味しんだよ!」

「いいですね。カレーって家庭の色が出るので、よその家のを食べるの好きなんですよ。天城さんのところは、どういう感じで作るんですか?」

「玉ねぎを大量に入れるの! みじん切りで、どっさーって!」


 通常四個のところを、ママは倍の八個入れる。

 他の具材は、ジャガイモと鶏の手羽元だけ。

 これがシンプルでとても美味しい。


 さて、まずは玉ねぎから。

 こいつの調理が終われば、作業の八割が完了したと言っても過言ではない。


 皮を剥いて水洗いし、ボウルに移す。八個全て剥き終わり、さて、と包丁を握る。

 思い返すと最後に包丁握ったの、佐伯にオムライス……という名のチキンライスを作った時だ。何か久しぶりで緊張するな。


 大丈夫、大丈夫……。

 ただ、みじん切りにするだけだし。


 事前に切り方は調べてある。一言一句、間違いなく記憶している。

 それを頼りに、まず半分に。八個全てを二等分して……ふぅ、ここからが正念場だ。

 面の方を下にして、端から縦に細かく切れ込みをいれてゆく。


 猫の手で、ゆっくりと……うん、そうそう!

 あたしってば上手いじゃん!


「っ! わっ、目がぁ……!」

「だ、大丈夫ですか、天城さん!?」

「だい、丈夫っ! 何でもないから!」


 玉ねぎを切ると目が痛くなる――そんな当たり前のことを忘れ、指を切らないように手元をガン見しながら作業をしてしまった。


 ……やばい、涙が止まらない。

 すごく痛い……けど、ちゃんとやらなきゃ。


 今日はあたしが、佐伯の奥さんなんだから!


「天城さん、包丁を置いてください。僕が代わりにやるので」

「えっ、佐伯!? ダメだって、座っててよ!」


 気づくと、彼が隣に立っていた。

 包丁を持つあたしの右手にそっと自身の手を添え、優しく離すように促す。


「言ったじゃん、今日はあたしが奥さんなの! 惚れさせるための作戦なんだから、ちゃんと従って!」

「いえ、ですが……」

「ですがも何もないよ! それとも、あたしが作ったものが怖くて食べられないってこと!?」


 そう口にして、まずいことを言ってしまったとすぐに後悔した。

 別に佐伯は、そんなことは微塵も思っていない。きっとあたしが玉ねぎに苦戦しているから、親切心で手を貸そうとしてくれただけなのに……。


「……ご、ごめんなさい。今あたし、酷いこと言っちゃった……っ」


 涙目でよく見えないが、彼はあたしを見て笑ったような気がした。

 ガサゴソと何かを取り出し、今度は冷凍庫を開ける。何をしているのだろうと思っていると、「これ使ってください」とタオルらしきものを渡される。


「保冷剤を包んでいます。まぶたの上から当てて冷やせば、痛みが和らぐと思いますよ」

「えっ……あ、ありがと……」


 言っているうちに、いつの間にか包丁は佐伯の手に。

 トントンと、軽やかな音を鳴らす。あたしとはまるで違う、気持ちのいいリズムを刻む。


「天城さんの邪魔をしてしまったことは謝ります」


 そう呟いて、刻んだ玉ねぎをボウルに移した。


「でも、これって夫婦ごっこなんですよね? だったら、困ってる奥さんをただ座って見てるとか、僕のしょうに合わないので無理です。仮に夫婦になるなら、僕は二人で一緒に悩んで頑張り合える夫婦になりたいので」


 あたしの方を見て、彼は笑った。


「……って、何か臭いこと言ってますね、僕。い、今のは忘れてください……っ」


 恥ずかしそうに……だけど、揺るぎない意思を持って。

 ……あぁあ。


 あぅう~……!

 んぁあ~~~~~!! もぉおおおお~~~~~~~~~!!


 好き!! すきすきすき大好き!!

 何だよこの男はよぉ!!

 いつもいつもいつも、どれだけあたしのことキュンキュンさせたら気が済むのさぁ!!

 やばい……やばいやばいやばいっ、ちょーやばい!! 抱き着きたい!!


 今すぐギューッてして、ちゅっちゅしたい♡ でも料理中だからできないの辛い♡

 うぎぃ~~~~~♡♡♡

 我慢しろあたしぃ~~~~~♡♡♡


「玉ねぎを片付けてるうちに、天城さんはジャガイモの皮むきをお願いします。それと僕、これ終わったらあとは見守っているので安心してください」

「……っ」

「天城さん?」

「ちょ、ちょっと待って! 今あたし、戦ってるから! 佐伯を食べちゃいたい自分と戦ってるからー!」

「……はい?」


 佐伯と出会って、早三ヵ月。

 きっとあたしは、もっともっと、死ぬまで一生、彼の好きなところに出会い続けられると思う。未来のことは何もわからないけど、そう確信できる。


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