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観測者 2





「ごめんね、魔王サジタリウス。君に恨みは無い・・・・・・恨みは無いんだけど、殺さない訳にはいかなかった」


 ポツリと呟いた少女。


 漆黒の肌を持つ森の民は、返り血に染まった自身の顔を服の袖で拭う。


 彼女の足下には血まみれになった魔族の死体が一つ。苦悶の顔を浮かべている魔族の額には、一本の矢が突きささっていた。


 死体となった彼は、やがて魔王と呼ばれる筈だった選ばれし魔族。


 ”魔王サジタリウス” の名を冠する予定だった器だ。


「これでこの時代に ”魔王サジタリウス” は現れない・・・・・・そして・・・」


 彼女は閉じられていた左目をゆっくりと開いた。


 生まれながらにして光を映さない・・・・・・白く濁った左目に妖しげな青色の光りが灯った。







 ”千里眼” とは遠くを見る魔眼ではない。


 それは ”世界を識る” 魔眼。


 歴史の観測者のみに与えられる資格。


 しかし、その神のような能力に適合できる存在は少なく、千里眼を保有していたほとんどの者は、その力の本質に至る事は無かった。


 彼女は・・・・・・。


 歴史上、初めて千里眼に適合した ”観測者” は、魔王サジタリウスの死体の上で一人涙を流していた。


「今日から私は森の民では無い・・・魔王、 ”魔王サジタリウス”だ」


 彼女の左目に宿る力は ”時の観測”。


 確定した事象と起こりえたかもしれない可能性を観測する力。


 彼女はこの両目の魔眼の能力によって、生まれながらにしてこの世の真理に最も近い存在になった。


 そして識った。


 どう足掻いても、この世界は魔神の復活によって滅びてしまうという事を。


「させない・・・」


 名を捨てた彼女は心に誓う。


「世界は・・・・・・私が救ってみせる」


 それが困難な道である事はわかっている。


 しかし、世界の破滅を識りながら、それを無視して怠惰にくらすような事はできなかった。


 不幸にも、彼女は観測者として優しすぎたのだ。




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