魔王サジタリウス
一瞬も気を抜けない狙撃合戦。
速見は周囲を警戒しながら大きく深呼吸をした。
どうやら集中しすぎて呼吸を忘れていたようで、がんがんと頭が痛んでいる。本来遠距離の狙撃というモノは一撃必殺であるべきだ。距離が離れれば離れるほど、一射にかける集中力は大きくなるし、遠距離狙撃なんてそう何度も狙えるようなものではない。
故にこの闘いは異常だった。
10キロ以上も離れた位置から繰り広げられる狙撃合戦は、正確無比な一撃が息もつかせぬ連撃で飛んでくるだけでなく、相手の行動を読み、一手二手先まで計算しなくては即ゲームオーバー。通常ではありえないような千里眼の連続行使に、速見の脳みそは情報処理が追いつかず、オーバーフローを起こしていた。
(しかし負ける訳にはいかねえ・・・もっと・・・・・・もっといける。持っている眼は同じモノだ・・・ならば俺だけが競り負けるのはおかしいだろうが!!)
速見の人生は常に射撃と供にあった。
この世界に飛ばされる前、もっと言えば、大日本帝国の兵士となる前から家業のまたぎとして、射線の先の獲物について常に考えてきた。
速見自身にプライドなんて大層なものは無い。しかし、獲物を射るという行為に関して、今まで負けたことは無かったのだ。
大きく息を吸い込む。
酸欠気味の肺に、めいっぱいの酸素を取り込んだ。
どこからか魔王サジタリウスにより放たれた矢の気配を感じる。しかし速見はその気配を雑念と断じ、思考からその一切を追い出した。
思考が鋭く研ぎ澄まされていく。
周囲の音、全てが消えた無音の世界で、速見は自分の呼吸の音だけに耳を傾けていた。
一つ
二つ・・・・・・
カッと眼を見ひらく。
限界まで研ぎ澄まされた集中力が、かつて無いほど右目の千里眼のポテンシャルを引き出した。
今まで見えなかった範囲まで一気に視界が広がる。
先程まで視認できていなかった飛来する矢を確認し、即座に迎撃の矢を放つ。
過度の能力行使による頭痛すら、最早感じない。
故に、先へ。
もっと先へと視界を広げていく。
そして見つけた。
うっそうと広がる森林の中にポツンと立っている古びた城の姿。
魔王サジタリウスの居城。
しかしまだ先があったようだ。
千里眼に魔力を込め、さらに視界を先へと進める。
やがて ”ソコ” へとたどり着いた。
魔王城の頂上。天井の無い開けた広間に、その人物は弓を構えて立っていた。
「やあ、やっと会えたね。千里眼の同胞よ」
柔らかな声で速見に語りかけてくるは、魔王城の主人。魔王サジタリウス。
漆黒の肌に、森の民の特徴である尖った耳。白銀の長髪がサラリと風に流れる。柔らかな曲線のシルエット、少し垂れた優しげな眼、紅が引かれた唇が静かに微笑む。
魔王サジタリウスは、女性であった。




