精霊術の秘奥 3
「周囲の樹木すべての操っているというのか!? そんな馬鹿な!?」
動揺している様子の執事服の少女。対照的にドレス姿の少女は冷静に周囲を観察しながらギュッと両手で大鎌を握り締めていた。
ミルは冷徹な視線で二人を見据えると、スッと右手を振り下ろす。その動きに呼応するかのように、周囲の樹木がメキメキと音を立てて二人の少女に襲いかかった。
「落ちついてデルタ。攻撃の数が増えただけ、やることは変わらないわ」
「あっ・・・あぁ、そうだねラムダ。全くその通りだ。私とした事がどうかしていたよ」
そして落ち着きを取り戻した執事服の少女は両手に剣を握り締め、襲い来る樹木を迎撃に当たる。
両手の剣が鮮やかに舞い、伸びた木の枝を切断。同時に枝の切断面から吹き出した大量の樹液が少女の顔に掛かり、その視界を一瞬奪った。
「くっ!? こざかしい、こんなちゃっちな目つぶしで私の動きを封じたつもりか!!」
サッと袖で眼を拭い、次の攻撃に備える少女。しかし彼女はあることに気がついた。
「・・・いない? 彼はどこに消えたんだいラムダ」
ミルの姿が見えない。樹液の目つぶしを受けている間にどこかに身を潜めたのだろうか?そう考えた少女は、隣で鎌を握り締めているドレス姿の少女に問いかけた。
「ごめんなさいデルタ。私も見失ってしまったわ・・・おかしいわね、ずっと彼の姿は目で追っていた筈なのだけれど・・・」
これでは先程と立場が逆転してしまっている。陽動からの不意打ちは二人の得意戦法だというのに。
ミルの姿は見えないが、しかし周囲の樹木は絶えず二人を攻撃してくる。
これだけの植物を操っているのだ。操縦者本人が遠くにいってしまったとは考えられない。この近くで身を潜めていると考えるのが自然だろう。
「面倒だ・・・この辺の木を全て丸坊主にしてしまおうか、ねえラムダ」
「そうねデルタ。隠れる場所が無くなれば、すばしこいネズミさんも姿を現すでしょう」
そこからの少女達の猛攻は凄まじいの一言だった。
次々に襲い来る樹木達をまるで問題ないとばかりに一刀の元に蹂躙する二人の少女。このままでは宣言通り全ての樹木が伐採されるかに思われたその時、何故か少女達は糸が切れた操り人形のようにパタリとその場に倒れた。
「な・・・に・・・これ?」
ピクリとも動かない自身の体に、ただただ戸惑う少女達。そして、まるでそうなることを待っていたかのように植物による攻撃の手が止まり、木の陰からミルが姿を表した。
「この辺には樹液に麻痺性の毒を蓄える樹木が群生しています。とはいえ、それをお嬢さん方が知らないのも無理はありません。なぜなら、その毒性は非常に弱く、樹木一本分程度では全く効果が無いものですから・・・森と供に生きる我々以外、この樹木の毒性には気がついていないでしょう」
そしてミルはニコリと微笑んだ。
「安心して下さい。死にはしませんから」
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