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炎の魔族


「・・・ハヤミ殿の持っている弓は、我が里の秘宝。確かにあの弓とハヤミ殿の千里眼があれば魔王と渡り合う事も可能でしょう・・・しかし、ハヤミ殿の持つ矢には限りがあります。長くは持たない」


 魔王城へ走りながらそう告げたミルの言葉に、併走するウィリアムはコクリと頷いた。


「ああ、速いとこ魔王城にたどり着いて魔王をやっちまわないとだな。少しスピードを上げるぞ・・・着いてこれるか?」


 ウィリアムの問いに、いつも物腰柔らかなミルにしては珍しく自信に満ちた顔で頷くのだった。


「ええ、私たち森の民は基本的に乗り物を使わずに森の中を移動をします。其の速度は只人の比ではありません。私に遠慮は無用ですよ」


「なるほどな・・・じゃあ少し本気を出すぜ!」


 グンと走るスピードを上げるウィリアム。


 彼はその類い希なる身体能力故に、何をするにしても常に力をセーブする癖がついていた。彼が本気を出してしまえば、周囲の人間は誰も着いてこれないのだと知っていたのだ。


 走るスピードを上げたウィリアムはチラリと背後を確認した。すると彼から少し遅れてはいるものの、しっかりと着いてきているミルの姿が見える。


 ウィリアムにとって、自分のスピードに付いてこられる人物(人では無いとはいえ)は初めての存在であり、思わずその顔に笑みが浮かんだ。


(さて、魔王城まではこのペースならもう少しで着くだろう・・・早めに決着をつけねえとな)


 そう考えた矢先、ウィリアムは自分に向けられた微かな殺意を感じ取る。


 自分の感覚を誰よりも信頼しているウィリアムは、何を疑うことも無く本能にしたがってクルリと方向転換をし、少し後ろからやってきたミルを右手で抱えて横っ飛びに回避行動をとる。


 一瞬遅れてやってくる熱波。


 チラリと背後を確認すると、そこには灼熱の業火に包まれた人型の魔族がこちらを睨み付けているのが見えた。


「我が名はトパーズ。魔王サジタリウス様が親衛隊の一人」


 炎の魔族、トパーズはチラリと視線をミルに向け凶悪な笑みを浮かべた。


「久しいな森の民・・・会いたかったぞ。弓の男はどこにいった? この右目の借りを返してやらねばならないからなぁ」


 そう言って潰れた右目を手で押さえるトパーズ。


 そこはかつての戦闘で速見に抉られた場所。魔族の回復力を持ってしても再生しなかったトパーズの汚点だ。


「・・・答える義理はありませんね。そして問答の必要も感じられません! 押し通ります!」


 ミルは懐からとりだした植物の種を地面に巻くと、精霊術を発動した。


 急速に成長した植物がトパーズを襲う。


 しかしトパーズは無造作に右手を振るうと彼の周囲に炎の障壁が発生し、襲い来る植物を一瞬で燃やし尽くした。


 ミルはギリリと歯を食いしばった。


 わかっていた事だが相性が悪すぎる。


 もう一度術を発動しようと懐に手を入れたミルを、隣りにいたウィリアムが手で制した。


「ウィリアム殿?」


 ウィリアムは背負った大剣を引き抜くと、その鋭い切先をトパーズに向ける。


「先に行けよミル。この魔族は俺が引き受ける」



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