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里長

「・・・・・・ノアを救いたい。手を貸してはくれないか?」


 深々と頭を下げる速見。その様子を見て、ミルは端正な顔の眉間に深いシワを寄せて、深く息を吐いた。


「ハヤミ殿・・・・・・もちろん私もノアちゃんの事は心配です。すぐにでも動きたい気持ちはある・・・しかし、相手が相手な以上、下手な手は打てません」


「魔王サジタリウス・・・か。ミル、魔王サジタリウスが復活してからどれくらいになるかわかるか? それと、今世界がどうなっているのかも、知っている範囲でいいから教えてもらいてえんだが・・・・・・」


 速見の質問に、ミルはキョトンとした顔をした。


「魔王サジタリウスが・・・・・・復活? 申し訳ございません。其の質問にどんな意図があるのかはわかりませんが・・・、魔王サジタリウスが一度死んで蘇ったなんて話は聞きませんし、今の魔王以前に、”サジタリウス”の名を冠した魔王が存在していたという記録はありません」


「・・・・・・それは本当か?」


「ええ。私も世間の事情に詳しいわけではありませんが、確かな情報です。それに、今の魔王が君臨してから少なくとも200年、他の魔王が台頭した事はありません」


「200年・・・・・・だと?」


 自体は速見が考えていたよりも大事になっていたようだ。


 速見のこめかみから、つぅーっと、一筋の汗が流れ落ちたのだった。









 里に戻った二人。ボロボロな二人の姿を見て、他の森の民達は何事かと駆け寄ってきた。 二人を治療しようと提案した女性をミルが手で制する。


「治療は結構です・・・・・長老はご在宅でしょうか?」


 ミルの問いに、森の民の女性はコクリと頷く。


「ありがとう。事情はまた後で説明いたします・・・・・・まずは長老と話をしなければ」


 最後は自分に言い聞かせているかのような小声だった。


 ミルは何かを決心したかのような表情をして、速見についてくるようにと合図をした。


「・・・里長にノアが攫われた事を説明するのか?」


「ええ、私一人の助力では難しいでしょうから・・・・・・。それに、魔王サジタリウスについては、長老から話を聞いた方が早いでしょう」


 そんな話をしている間に、二人は目的地にたどり着いた。


 里の中でも大きめな(しかしかなりシンプルではあるのだが)家、里長が住むという家の木製ドアを、ミルが控えめにノックする。


「・・・入りなさい」


 中からしゃがれた声がした。ミルが静かにドアを開ける。


 ドアを空けた其の先に待っていたのは、大きな椅子に腰掛けたシワシワの老人であった。 

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