勇者と・・・? 2
「あ・・・あぁ・・・・・・」
タケルの心臓を握りつぶした勇者・・・否、勇者だった怪物はうめき声を上げる。
グジュグジュと湿った音を立てて再生していく体。しかし、もうその左半身は人間の原型を保ってはいなかった。
破壊と再生を繰り返し、ドロドロになった浅黒い表皮。より効率よく力を発揮するために作り替えられたしなやかな筋肉・・・それは人よりも獣のそれに近い。再生した左側の瞳はギョロリと飛び出し、一見魚のようにも見えるその目が四方に高速で動いている。
勇者だった怪物の視線が、一瞬、地面に転がる聖剣に注がれた。
自分の名すら忘れた怪物が、唯一今まで持ち歩いていた人間の欠片・・・・・・フッと目をそらす。今の彼に聖剣を取る資格などありはしない。そして怪物はくるりと聖剣に背を向けてゆっくりと歩き出す。
(・・・・・・あァ、いったいオレはどこに向かっているのだロうか?)
薄くモヤのかかったような、ぼんやりとした思考。怪物はだんだんと消えてゆく人間としての意識をかき集め、最後の思考を働かせる。
きっと、もうすぐ考える事すら出来なくなるのだろう。そんな確信にも似た予感がしているのだ。だから怪物は全神経を集中して最後の思考を続ける。
どこに行けばいい?
何をしたらいい?
わからない
わからない
自分が何者かすら、わからないのだから。
――― こっちだよ○○。
声が、聞こえた。
年端もいかぬ・・・少年の声だ。
顔を上げると、そこにいたのは、ぼんやりと青白く発光した嫌に見覚えのある少年の姿。
――― こっちこっち、早くおいでよ
少年が手招きをしている。体が勝手に動き出し、手招きをする少年の元へとかけよる・・・・・・。
しかし、妙だ。行けども行けども少年との距離が縮まらない。
――― 早くしないと・・・間に合わなくなっちゃうよ?
一体何に間に合わなくなるのだろうか?
すると少年が無邪気な笑顔で笑った。
――― 君を完成させる為の儀式に・・・・・・・さ。
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