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勇者と勇者 4

 血だらけの勇者はスッと自身の右手を傷口に当てた。


 傷にあてがった右手をなで下ろすように動かすと、あれだけ鮮やかに切り裂かれていた傷は、見事に塞がっているのだった。まるでそこには最初から傷など無かったかのように・・・。


「・・・ははっ、化けものめ」


 自然と口からこぼれでた言葉。


 しかしタケルは自分のその台詞に違和感を覚えた。


(・・・化けもの?)


 化けもの・・・それはどの立場からの言葉なのか。


 考える。


 考える。


 何故かその答えが、目の前の絶望的な現状を打破する手助けになるような、そんな気がしているのだ。

 化けもの・・・すなわち人外、人にあらざるモノ・・・。ならばその言葉は人間という立場のモノからしか出てくる筈がない・・・。


「・・・ああ、そういう事か」


 何かを納得した表情を浮かべたタケルの元へ、勇者による無慈悲な攻撃が襲いかかる。視認する事すら難しい速度で放たれた聖剣の突きは、無防備で立ち尽くすタケルの腹部を深々と貫いた。


 明らかな致命傷。勝負ありかと思われた次の瞬間。バキバキに折れた筈のタケルの右手がガッチリと聖剣を握る勇者の右手を捕まえた。


 先ほどの戦いから鑑みても、二人の基礎能力の差は歴然。しかもタケルの右手は先ほど、使い物にならないほど傷ついている。ならばこの拘束には何の意味も無く、勇者は手をふりほどこうとして、あることに気がついた。


 単純な膂力では魔神の力を得ている勇者が圧倒的に上・・・その筈が、拘束されている右手が少しも動かせないのだ。


 傷ついた筈のタケルの右手が、おそろしいほどの怪力で勇者の右手を締め付けている。


 バッと顔を上げるタケル。腹部を貫かれた痛みなど微塵も感じさせずに、勇者の顔を正面から見据えて静かに口を開く。


「・・・ああ、実践から退いて百と数十年、どうやらオイラは”人”というものにどっぷりと浸かりすぎていたらしい」


 そして空いた左手を高く掲げる。


「来い! 草薙の剣!」


 どこからともなく飛んできた一振りの剣を宙でキャッチし、タケルはそのまま勇者を斬り付けた。


 パッと飛び散る鮮血。


 拘束していた右手が離されると、勇者は一歩、二歩とよろめきながら後退する。


「人の世に溶け込む為に、自身の力を封印してきた・・・其の期間が長すぎたせいで、自分の本気すら忘れていたみたいだ」


 そう言っている間に、負傷していたタケルの右腕はみるみるうちに回復してしまう。その様子は先ほどの勇者と酷似していた。


「さあ来いよ後輩君、ここらかは勇者同士の対決じゃなく、化けもの同士の殺し合いだ」




 

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