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アーテファ 4

「初めましてかしらアーテファさん」


 ある日鬼族の居住スペースに一人の女が訪ねてきた。


 アーテファは満面の笑みを浮かべて挨拶をする女をキョトンと見返す。フムル族の皆とは仲良くやっているのだが、目の前の女は見たことが無かった。先日の宴にもいなかったように思える。


 奇妙な服装をした女だった。


 フムル族は皆バナナの葉や木の繊維を加工した衣服を身に付けているのだが、目の前の女は白色をした上質な布で作られたヒラヒラとした服を身に付けており、両耳に大きな飾りをぶら下げている。


 顔には赤色の顔料で奇妙な文様が描かれているのだった。


「・・・初めまして。失礼ながらアナタはフムル族の方で合ってますか? 何せアナタを集落の中で見たことが無いものでして」


 アーテファの言葉に女はフワリと微笑んだ。


「ええそうでしょうね。確かに私はフムル族のものです。名をレゾと申します」


「レゾさんですね。何故私は今まで集落でアナタを見かけなかったのでしょうか」


「それは仕方の無いことです。何故ならフムル族で私だけ集落から離れた地で暮らしておりますので」

 一人だけ?

 よほど変な表情を浮かべていたのか、アーテファと話していたレゾがくすりと笑った。


「ご安心を、別に村八分にされているとかそういう訳ではありません・・・そうですね、謂わば私の職業的なモノが関わっている事でして」


「職業とは?」


「私は集落で唯一のシャーマンなのです。集落から離れた霊地に神殿を構えて毎日その場で修行をして霊力を高めています」


 シャーマン・・・霊力を高めてその身に霊や時には神すら下ろすと言われるモノ。


 アーテファが実際にシャーマンと呼ばれる者を見たのはこれが初めてだが、その話だけは聞いたことがあった。


「なるほどそうでしたか。今日は新参者の私たちの顔を見に来たのですか?」


「ええ、それもありますが・・・最近我が娘がアーテファさんに大変お世話になっているようですのでそのお礼をと」


「娘さん・・・もしかして」


「そうです。フィエゥは私の一人娘なのです」


 聞いてみればレゾの顔立ちはフィエゥによく似ているようだった。


「私の夫は娘が赤子の頃に死にました・・・修行場に幼子を連れる訳にはいきませんので娘の世話は族長に任せきりにしてしまっています。フィエゥにはずいぶんと寂しい思いをさせてしまって申し訳ないかぎりです」


「役目がありますからね。仕方の無いことです」


「そう言って頂けると救われます。しかし最近の娘はアナタと遊んで貰ってとても楽しそうで・・・それでお礼を言いにきました」


「いえ、お礼を言われるような事は・・・フィエゥには色々と教えて貰っていてむしろ私たちが助けられていますから」


「・・・アナタは良い方ですねアーテファさん。ですが今回の訪問にはもう一つ用事があったのです・・・大変心苦しいのですが、集落唯一のシャーマンとして一つ仕事をしてきました」


「・・・仕事とは何でしょうか?」


 アーテファの問いに、レゾは少し悲しそうな顔をした。


「島の外からやってきたフムル族にとって初めての外来人・・・私にはシャーマンとして部族を守る義務があります・・・失礼ながら、精霊をこの身に下ろしてあなた方の事を診させていただきました」


 そしてレゾは一呼吸置くと先ほどとは打って変わった力強い視線でアーテファを見つめる。


「アーテファさん・・・アナタ方は人間ではありませんね?」



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