伝説の続き 2
「さて勇者ヤマトに討ち滅ぼされた鬼の一族ですが、もちろん鬼といっても皆が皆血に飢えた戦闘狂ばかりではありません。鬼種の原種となった個体が好戦的な性格をしていたので戦闘が好きなモノが多かったのは事実なのですが、それでも少数ながら戦闘を好まない個体も確かに存在したのです」
戦闘を好まない個体。
いつの間にかシャルロッテは名も知らぬ目の前の女性の語る伝説に聞き入っていた。
「まあそもそも鬼種の雌個体は身体能力が雄のソレほど高くはありません。人間よりは高いですが、それでも鍛練を積んだ戦士であれば雌個体を力で圧倒する事も可能でしょう」
「雌の個体は弱かったという事ですか?」
シャルロッテの質問に女性は静かに首を横に振った。
「直接的な戦闘力に限った話で言えば貧弱でした・・・しかし雌の個体は雄の個体には存在しない特殊能力を持つモノが多かったのです」
「特殊能力・・・」
「ええ、例えば気配を完全に消すことができる隠密能力。闇の中を見渡す事の出来る暗視能力などです」
シャルロッテは先日自分たちを襲った襲撃者の姿を思い浮かべた。
「そして鬼種の雌は高い魔法適正を持ちます。魔法適性を持つとはいえ、鬼種に伝わる魔法は ”呪術” と呼ばれる特殊なモノで、今世界的に知られている魔法とは違うモノなのですが」
呪術・・・気にはなるが今は問うべき時では無いだろう。シャルロッテは無言で頷いて話の続きを促した。
「そんな特殊な体質を持つ雌の一体に、高度な呪術を扱う術を持ち高い戦闘力を有しながらも戦うことを好まない個体がいました。その雌は自分と同じように戦いを好まない鬼種を数名引き連れて島国から船を使って外の世界に脱したのです。・・・それは勇者ヤマトが島に来た少し前の話でした」
「つまり・・・その戦いを好まない鬼種がたどり着いた先がこの島だと?」
「ええ、その通り。リーダーである雌が引き連れた鬼種は5体、雌が二体と雄が三体です」
そして女性は一息つくと机の上の紅茶を啜って乾いた口を潤し、再び口を開く。
「彼女は名を ”アーテファ”といいました・・・」
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