当たりを引いた……
「やっと本気を出したな友よ」
浅野さんが、格好のいいポーズをとって僕にそう言ってくる。周りを見れば門番がいた、広くこれから激戦を繰り広げるであろう、そんな雰囲気を持った部屋が、瓦礫の山になっている。床は抉れて、天井からは煉瓦が落ちてきた。
巨人と呼ばれ始めた僕の異能が、目から光を発しただけでこの有様だ。今までにも使った事はあるが、そのどれもがコントロールをミスっている。使いたくなかった理由には、この異能に頼りっきりになる事が怖いためでもあった。
「幸い魔石も鉱石も無事だ。鉱石は溶けているが、固まれば問題あるまい」
黒い塊と、門番が体内に保有していた魔石が鈍く光っている。魔石に関しては、質もいい上に大きい。これは期待できそうだと思うと、浅野が提案をしてくる。それは僕にとって意外な提案だった。
「なぁ友よ、このままドームに戻らないか?」
時間は現在昼前である。いつもは先に行こうとする浅野の提案に驚いて、その顔を見るが真剣な表情をしていた。
「珍しいな。確かに、これだけの魔石があるから問題ないけど……どうして急に帰ろうとするのさ? 今までは先に進む事ばかり考えていたのに」
「決まっている! 門番を二人で倒した事を宣伝して目立つためだ! これでようやく人工島も、僕と言う存在を知る事ができる。素晴らしいとは思わないか?」
そうか、確か言っていたな……門番を倒すと目立つとかなんとか。こいつに色々と期待するのは止めるとして、僕は魔石や鉱石を回収すると再び開いた入り口を目指した。このまま帰る方がいいかも知れない。先に進んだ奴等と顔を会わせるのも嫌だから。
「きっと僕たちの活躍を聞いて、チームに入れてくれと言う連中が来る! そうしたらまた先に進んで……ついに僕の時代が来たな、友よ!」
「そうだね」
適当に会話をしながら上を目指す僕たち。騙した連中の事は後で考えるとして、手に入れた魔石や鉱石が高く売れたらいいなぁ。そんな事を考えていた。
◇
「これは凄い……全部で二百八十万を超えますよ」
期待通り、いきなり大金を得てしまった。嬉しいが、このお金の大半は装備品のローンに消える事になる。後で支払いを済ませておこう。それでも五十万は残るから、その金額を浅野と分けるかな。
換金所でのやり取りを済ませると、僕たちはそのままドーム内を移動して回る。そこで珍しい店を見つけた。
「出会い喫茶? 店の説明は……あなたやチームに相応しい仲間を見つけてみませんか! 凄い、こんな店があったのか! 浅野、仲間を求める場所を見つけたよ!」
「なんだこの店は? 僕には相応しくない如何わしい店じゃないか」
難色を示す浅野を、無理やり引きずって店に入る。そこにはカウンターがあり、入場料を取るようだった。カウンターの店員に話を聞くと、やる気無さそうに答える。
「ここでチームの仲間が見つけられるんですか?」
「え、あぁ……そっすね。入場料一万円になります。空いてる席に座るか、張り出している紙を見て内容を確認してください。あ、一応、この紙に自己アピールや欲しい仲間を書いて張って下さいね。あぁ、紙にどこのテーブルに座っているかも書いて下さい」
そう言われて二枚の紙を貰ったので、早速仲間を募集している事を書いた。隣では、浅野が自分がいかに美しいかを細かな字でぎっしりと書きこんでいる。
そのまま奥に進むと、大きな掲示板に何枚もの紙が張り出されていた。その内容を見ると、仲間を募集しているチームだったり、チームに入りたい冒険者だったりと様々だ。その掲示板に紙を貼り、僕はチームに入りたい人の自己PRを見る。
『人工島に来て一年になります。前衛で騎士やってまーす』
……軽い感じだな。次!
『後衛で初級の水魔法が使える。報酬はきっちりチームの人数で割った額! 道具はチーム持ち必須』
魔法使いは欲しいが、初級の魔法使いでこれは酷いのではないだろうか? かなり上から目線だからパスだ。
『今日冒険者になりました! できれば女の子がいるチームで、でも彼氏持ちは不可』
女の子じゃないし、欲しくも無いから次に行こう。
『中級魔法が使える魔法使いです。チームには正式には入りませんが、一回の探査で道具はチーム持ちで五十万でレンタル可』
五十万は厳しいし、道具もただじゃないからパスだなぁ。
その後も大した人材は見付からなかった。こんな所に、優秀な人が来る事は無いのだろう。優秀ならギルドに入るしさ。ここはつまり掃き溜めという事か……
張り出された物を見終わると、そのまま浅野が座っていたテーブルに座る。誰かが来る事もないまま、僕たちはお金を払ったのだから一応は待つ事にした。浅野は、自分の自己アピールを見て貰う事に興味が出たようだ。理解しがたい浅野の自己アピールを見ている人たちを楽しそうに見ている。
「フフフ、僕と言う存在を知れて、ここに居る連中も幸せだな」
「そうだね」
そこから一時間待ってみた。待っては見たが、誰一人僕たちのいるテーブルには来ない。浅野が間違ったテーブル席に座っている事も疑ったが、番号は合っていた。
◇
「フム、とても有意義な時間だった」
「どこが!? あれのどこが有意義だよ! 誰一人として仲間を得る事が出来なかったし、折角十階層の門番を倒したって書いたのに、誰も面談に来ないとかおかしいよね!」
そう、誰も来なかったのだ。数時間も粘って、最後はこちらから声もかけた。それなのに、誰も仲間にはならなかった。浅野と同じような格好をつけた騎士は、二人しかいないチームで苦労したくないと言い。守銭奴の魔法使いはこちらを無視! ついでに初心者も僕たちを見て無視! 最後は優秀な魔法使いだったが、金が無いと知ると帰れ! そう言われた。
「僕の魅力に興味の無い人間はどうでもいい! こっちから声をかけてやってあの態度……無知とは罪だな」
一人で納得している浅野は放置して、僕は今後の事を考えた。ドームで仲間を募集している連中もいるし、門番を倒した事で、ギルドに入れるかも知れない。そう前向きに考えた。
◇
現実って辛い……どういう訳か、門番を倒したのは青年のチームとなり、逃げ出したのが僕たちという事になっていた。帰ってきた青年たちが、ギルドと結託して噂を流したらしい。生きて帰ると思わなかったのと、今までも同じような事をしてきたのが知れるのは不味いという結果……僕たちを悪者にしたのだ。
何故知る事が出来たか? それは簡単だ。僕を貶している連中に、そのギルドに所属している奴がいるからだ。佐竹 真奈が所属し、あの寝取り男の父親が幹部をしている一流のギルドである。最近は落ち目であるようで、質の低い連中でもギルドに入れているんだとか……
【エイト】と呼ばれるギルドで、その名の通り八人で始めたギルドらしい。寝取り男の父親が、そこの初期メンバーのようだ。不思議な縁で繋がっている事は実感している。
そんな佐竹が、僕を騙した連中の事を掲示板で書き込んで笑い者にしている。
『大谷騙されて、私は爆笑w』
こんな書き込みの後に、疑問に思う書き込みに答える形で内情を暴露。本当にこいつらは進学校を卒業したのだろうか? 馬鹿過ぎて不憫だ……いや、この世界では進学校扱いでも、向こうでは馬鹿学校とか? 事実、僕はそんなに頭が良くなかった。そんな平行世界の僕が、進学校に入ったこと自体がおかしい!
成程、謎が解けたので一安心だ。不憫だが、復讐はする事に変わりはない。
「そういう事になっているんだが、浅野の意見を聞きたい」
「……何がそういう事だ! 君は僕に内緒で、四六時中監視する連中を持っていたのか! 何て羨ましい……僕よりも目立っている事が問題だ!」
「いい意味で目立ってんじゃないよ! 悪い意味で見られてるんだよ! 笑われてるし、そんな連中のネタにされる僕の気持ちも考えろ! それで、この後どうしたらいい?」
「確かに人がいなければ、これ以上深くは潜れないな。仕方がない……声をかけて回るとしよう。スカウトすれば、僕の魅力にひかれて集まる筈だ」
自信満々に言い切る浅野。それは置いておくとして、地道に勧誘をするか。
◇
「宜しくお願いします」
……次の日の朝一番に声をかけた女性は、僕たちがチームに加わらないか誘うとすぐに承諾してきた。これには少し疑ってみたくなる。黒髪のサラサラな長髪に、強化スーツを着た身体を恥ずかしそうに上着で隠している姿。顔は少しだけ幼く感じるが、育ちが良さそうな御嬢さんといった感じの女性だ。
美人である。ダメもとで美人に声をかけて見たら、その美人が承諾してきた。真新しい装備をしているので、新人だと判断したのだ。だが、よく見ると装備している強化スーツも、所持している武器も高級品である。
これは裏があるかも? そう思っても仕方がない。最近騙されたばかりだしな。
「あ、あの、誘っておいてなんですが、僕たちの事を知っているとか?」
その美人は顔を横にかしげると、分からないといった感じで聞き返す。
「すいません。私は今日来たばかりで何も知らなくて……」
嘘をいっている感じはないが、女は怖いからな。僕は、後ろで興味無さそうにしている浅野の意見を聞いた。
「僕は基本的に、邪魔にならなければどうでもいい。それに、こいつよりも美しい事は明らかだ」
何をいっているんだお前は! お前が美しいとか、関係ないからな。それはいいとして、僕は早速チームに入って貰う事にした。相手もそれを聞くと安心したのか、深々とお辞儀をしてくる。
「宜しくお願いします。私は【一之瀬 鏡花】と言います。不束者ですが、何卒ご指導のほどを宜しくお願い申し上げます」
固い挨拶をしてくる一之瀬さんに、僕もお辞儀をしてこちらこそ! と自己紹介を開始した。ついでに浅野の事も教える。そこまで行くと、今度はチーム内での金の分配だ。話を始めると、何だかおかしな方に発展してきた。
「お金ですか? そうですね……私は無くても構いません」
「え?」
「ほう」
三人で三分割という話なのに、それを聞くと自分はお金はいらないというのだ。冒険者になる連中は、基本的に金が大事だ。綺麗事を抜きにして、装備や治療には相当なお金がかかる。そして危険な仕事をしているというのに、お金がいらないという一之瀬さん。
「い、いや、それだと不味いよね? お金がいらないなら、いったい何が欲しいのかな?」
「……じ、実は私、今までずっと言われた事しかしてなくて、お父様の言う通りにお稽古や勉学に励んできたんです。でも、最近はこのままでいいのかな? そう思うようになって、お父様から独立するって伝えたんです」
伝えたの? それがどうしてお金がいらないという事に繋がるんだ?
「そしたらお父様が、社会はお前が思う程に甘くない! って言う物ですから、私も初めて反抗して気が動転してて。口喧嘩をしてたら三番目のお母様が『外に出すのもいい経験』といってくれたんです。だから、一人でも生きていける所を証明したいんです」
「……」
「……友よ、この女は間違っていないか?」
一人で生きていける事を証明したいのに、何でお金がいらないの? そう思ったが、それ以上に僕の関心は、一之瀬さんのお父さんに奥さんが最低でも三人いるという事だろう。衝撃過ぎる事実だ。
「い、一之瀬さん? 一人で生きていかないといけないのに、何でお金を受け取らないのかな? それっておかしいよね」
「え!? おかしい、ですか? でも私、お父様から渡された支度金が十億くらいありますから、流石にこれ以上持っていても使い道が……」
「羨ましい悩みだな。その金を僕たちに渡すと……ッ! 痛いじゃないか友よ!」
言い終わる前に馬鹿の頭を叩くと、一之瀬さんに色々と説明する。そんな事を人前でいわない事や、お金を稼いでこそ一人前だという事を……僕の話を真剣に聞く一之瀬さんは、何か感動したかのように泣き出した。
「私、先程まで声をかけられる事も無く、不安でしたけど……最初に声をかけて頂いた男性に、こんなにやさしくされて嬉しくて。分かりました! お金は受け取る事にして、大谷さんのチームでこのご恩をお返しします」
そこまで感動されても困る。それよりも、こんな美人に声をかけないとかあり得るのか? 下心満載の男共なら沢山いるというのに……そう思って周りを見ると、黒い装備に身を包んだいかにも強そうな方々と目があった。バラバラに配置されているが、全員が僕たちを睨んでいる。
「一之瀬さんのお父さんて、何やってる人?」
「お父様ですか? 私は詳しくありませんが、確か冒険者を若い頃にしていた話をよく聞きました。今は会社で働いていると言っていましたし、名前は【ライトファング】という会社のようですよ」
それを聞くと、同じように周りを見ていた馬鹿が呟く。
「決まりだな。日本のトップギルドだ。この子を守っている連中は、その中でも精鋭だと思うぞ」
日本のトップに君臨するギルドであり、規模も大きく人材も豊富なギルドだ。ギルドマスターは確か一之瀬……ギルド名でもあるライトファングは、確かギルドマスターの名前から来ている。【一之瀬 光牙】、最強の冒険者と言われている男だ。
「あ、ステータスを見せた方がいいんですよね? これが私のステータスですよ大谷さん」
笑顔でスマートフォンを手渡され、画面に表示された内容を見て唖然とする。
【一之瀬 鏡花】【19】【ランクA+】【職業・大魔法使い】【薙刀二段】【全攻撃魔法・高】【魔法使いのお手本】
全攻撃魔法・高、これは全ての攻撃魔法を修めた事を示している。下、中、上と来て高は高位とかいうランクだったともう。こんなステータスを始めてみた。技能の数は少ないが、全攻撃魔法を使えるのだから、それはさほど問題ない事だろう。
同じように一之瀬さんのステータスを見た馬鹿も、口元をヒクヒクさせて画面を見ている。
「頑張りましょうね大谷さん! それから浅野さんも」




