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騙されない! そう思っているから騙される

 海上都市である人工島に来て二日目、ローンを組んで装備を二人分用意した所までは順調だった。問題は僕たちが、たったの二人という事だろう。基本的に低階層なら浅野一人で問題ないが、低階層では稼ぎが少ないのだ。食費、消耗品、宿泊費……それらを考えると、一日十万円は稼がないと厳しい計算だ。


 一日十万稼ぐ、考えるだけでも難しいこの難題に浅野は、一人鼻歌交じりでダンジョン入り口まで歩いている。ドームに入ると、大きな入り口が待ち構えるかのように僕たちの前に現れる。


「フフフ、友よ、ついにこの時が来たな。ここはレベルにして8という日本最大級! それすなわち、世界最大級のダンジョンだ! 僕も心が躍るという物だ」


「踊るのはいいけどさ、一日で十万円稼がないといけないのを理解してね。後、装備は大事に使ってよ」


「ハハハ!!!」


「話聞けよこの野郎!」


 そんな馬鹿な会話をしながらダンジョンに入る僕たちに比べ、周りには緊張している若者が集まっていた。他のベテランは感情が顔に出ていない。僕たちを値踏みするかのように見るだけだ。


 ダンジョンに入るには身分証を提示して、許可証を発行しなければならない。その許可証には個人情報を入力されていて、振込先の銀行口座、住所等々……完全に管理されている。管理社会って凄いな、と思いつつ許可証を発行して貰う。


 そして雰囲気はあまり出ないが、ここからが本番! そう思って、僕たち二人はダンジョンへと向かうのだ。



 レンガで作られたダンジョンが、人工島の特徴である。低階層はこのままレンガで作られた壁に床、そして天井が続いているのだ。薄暗く、気味の悪い光が灯った場所を二人で歩いている。


「ハンドガン二丁に、ナイフが予備を含めて五本。そして怪我や毒を受けた時の薬は腰のバックに……」


 ブツブツと確認をしていたら、浅野はナイフを器用にペン回しのように回していた。大事にしろと言った傍からこれである。だが、そんな浅野が真剣な表情になると、ナイフを投げた。……投げんなよ! ハンドガンがあるだろうが!


「気をつけたまえ。どうやら僕たちの実力を見誤った愚か者たちが、この先で待ち構えているようだ」


「それよりもナイフを投げるなよ! あれは結構高いんだから、後で回収するぞ」


 向かってきたのは、人の顔の大きさの蜘蛛の群れだった。糸を吐きながら近づいてくるその姿に、心の中では気持ち悪いと思いつつもハンドガンで撃ち抜いて行く。それが終わると、すぐにナイフを回収した。回収したが、その場にナイフは二本落ちていた。


「おや、先客だな」


 浅野が何でも無いように呟いたが、視線の先には真新しい装備を付けた新人が数名倒れている。いや、倒れているという言葉は間違いだ。死んでいた。食い散らかしている途中の死体を見て、僕はその場で吐いてしまう。


「はじめてか、友よ。じきになれるから心配ない」


「そんな物になれるのは……いや、いい」


 甘い考えだと思い、その言葉を飲み込んだ。なれなければならない。僕はこの世界で生きていくために、このダンジョンと言う世界で食って行くためには甘えてはいられない。


「この先が地下へ進む道だな。順調に地下十階まで行きたい物だ。そうすれば、そこのフロアにはボスがいる。門番と言われる復活を繰り返す奴だが、稼げる上に倒せば目立つ事が出来る」


 ゲームかよ。そう思ったが言葉に出ない。想像以上に吐いた事で体力が消耗したようだ。そのまま蜘蛛から魔石を回収すると、先を目指す。僕は支援魔法使いでもある。階層を制覇するというか、記憶する事で次回から変動しても最短距離でダンジョンを歩く事が出来るのだ。変動期で中の様子が変わっても、下へ続く道を知る事が出来る魔法【マーク】を下へ続く階段に仕込む。


「意外だな。支援魔法が使えてのか?」


「いや! ダンジョンに来る前に教えただろう!? 何で忘れているんだよ」


「ふん、自慢ではないが、人の事を覚えるのは苦手だ。だから、今では覚えない事にしている」


「大事な事は聞いとけよ!」


 イライラしながら先を進むと、今度は一本道で罠がある。これも支援魔法の【スキップ】という魔法で回避が出来る。出来るのに、浅野は罠を簡単に飛び越えた。


「急ぎたまえ」


「何でお前……折角魔法を使ったのに」


 呪文やイメージが無駄に終わると、僕は自分は魔法で罠を回避して歩き出した。蜘蛛や芋虫といった虫型に加え、鶏のような魔物が多い人工島のダンジョン。低階層では苦戦する事なく先を進んだ。これは経験者である浅野の力が大きいだろう。


「雑魚が多いが、これなら十万はすぐに稼げるな。このまま中層まで行くぞ友よ」


 無理だろう。いや、絶対に無理だ。中層までの距離が長いのと、僕たちのチームが二人と言う事が無理の理由だ。装備も道具もギリギリで、食料は昼食程度しか確保していない。今日は十万稼いだらすぐに帰ろうと考えていた。


 だが、馬鹿はそんな事を気にしない。あらかじめ調べていた魔石の買い取り額を参考に、一定量の魔石を得る事が出来たので帰ろうと提案すると、拒否してきた。


「甘えるな友よ! これからが本番だろうが……未だに、階段を五回降りただけの状態だ。これくらいで諦められては困る」


「いや、もう時間も時間だし、魔石も回収したから一度上に帰らないと。仲間や荷物持ちがいれば、まだ先に進めるよ。でも、僕たちにはその両方が無い訳だ」


「ムムム、それは早急にどうにかせねばならないな」


 こいつは本当に一流か? 戦闘やダンジョンでの動きは勉強になるが、基本的な事が抜けている気がする。


「フッ、昔はギルドに全て任せていたが、それが無くなるとこうも違うのか」


 あぁ、戦闘以外の事を任せてたのね。



 地上、というか海上に一度戻ると、すぐにドーム内の買い取り上に魔石を換金する。相場と言うか、色々と外交関係で値段も変わる事が多い魔石だが、ある程度の値段で取引される。そこまで大きく変わる事もないが、大量に魔石や資源を回収する冒険者には一円や二円の差は大きいらしい。


 魔石や貴重な植物に鉱石関係は、今では普通に質や量を測る機械が存在する。渡すとすぐに機械が買い取り金額を弾きだしてくれる。買い取り用の幾つもあるカウンターで、僕と浅野が待っていると受付のおじさんが機械の表示を言ってきた。


「十二万と五千六百九十円になります。各種カードや電子マネーに変換なさいますか?」


「十万は銀行に振り込んで貰って、残りは電子マネーでお願いします」


 端数を僕の電子マネーにチャージして貰うと、僕たちはそのまま明日の探査のために消耗品の買い出しへと出かけた。ドーム内にも出店のような形で各種道具を売っているが、食事もしたいので外に出る事にした。


「あぁ、ピザが食いたいな友よ」


 浅野の一言で夕食はピザになる。チェーン店でピザ一枚を男と二人で食べたが、この虚しさは何だ? ウエイトレスも可愛いが、僕たちを見る目が好奇心でキラキラしていたのが恐ろしい。どういう目で見られているのだろう?



 その日の夜に掲示板などをスマートフォンで閲覧していると、案の定僕の事を馬鹿にしているスレが存在していた。高校時代の連中が集まったそのスレは、僕を馬鹿にして結束している感じだった。


 こいつら暇なのか? それともただの馬鹿なのか? 流石に人一人の人生を壊して、それを誇っている連中は醜いなと思っている。思っているが、弱者には厳しいこの世界では、見下す事でうっぷんを晴らしているのかも知れない。実際にそういうスレが多い。活躍している者を妬むのではなく、下にいる者を見て悦に浸っている傾向だろうか?


 特定可能な文章で、堂々と今の自分と僕を比べて悦に浸っている。それはいい。僕としては関係ないからな。好きなだけ比べて喜んでいてくれ。でも、家族の批判をしている連中は要チェックだ! いつか復讐してやるから覚悟しろ。


 あ、寝取り関係の男と女は興味ないからいいや。


 さて、復讐する事を誓ったら、現実問題としてどうやって這い上がるかだ。狭い部屋で、床に寝ている浅野だけではこの先が不安でしょうがない。ギルドに入って、簡単にチームの仲間を紹介して貰う事や、レンタルする事が出来ない僕たち。


 ギルドに所属しない奴をチームに誘うか、どこかのギルドに所属するしかない。後者は無理だ。僕の怪しいステータスと、ブラックリスト扱いの浅野さんでは入る事が難しい。


 でもだ……ギルドに入らない連中は、色々と問題があると思う。問題があるか、弱いからギルドに入れないので、そんな連中とチームを組むか? そう言われると悩むな。いや、正直言って組みたくない。


 僕は横で寝ている浅野さんを見ると、これ以上問題児は必要ないと思った。



 そして次の日も、順調にダンジョンで魔石や鉱石を集めて回る。低階層は地下三十階までを指す。その後は六十階からは深層と呼ばれ、出てくる魔物も別次元らしい。浅野も数回しか長野で深層へ進んだ事しかない、と言い厳しい顔をした。


 その日は前回よりも深く潜り、九階付近で二十一万円を稼ぐ。そして換金を済ませて外に出ると、数人の男たちが僕たちに声をかけてきた。カツアゲ? それを想像したが、相手は僕たちに意外な提案をしてきた。


「門番を共同で倒す?」


「そう、君たちも二人で中々厳しいだろ? それなら俺等と共同で倒して突破しないかと思ってね。ギルドには所属してるけど、仲間を集めるのに苦労してるんだ。お互いに助け合わないか?」


 三人の男が僕たちに提案してきたのは、10階の門番を倒して先に進まないかという事だった。確かに人数は欲しかった。突破できればしばらくは出現しなくなるから、共同で倒す事には賛成だ。強いチームには、大体上級の支援魔法使いがいる。そういう所は、テレポートで階層を飛ばすから門番は倒してくれないのだ。


 倒せない連中が、先に進むのを防ぐ目的もあるらしい。だが、倒す事で先に進めれば、今よりももっと稼げる。僕は浅野に視線を向けて確認を取ろうとするが、浅野は即答で……


「いいだろう! では、早速明日には門番を倒す事にする。朝一でドームに集合しろ」


 勝ってに色々と決めやがった。



 この人工島に来て三日目。僕たちは、借金を重ねて装備を充実させた。門番は強力な魔物であるため、それなりの準備がいるというのだ。ナイフは予備の武器として、僕は強化スーツにメイスと呼ばれる鈍器を買った。浅野は剣と強化スーツを揃え、これで借金は相当な額となる。


「これで失敗したら本当に厳しいな」


 返済やメンテの事を考えると、本当に頭が痛くなる。


「気にし過ぎだ友よ。これからはもっと稼げばいいだけだろう?」


 気楽な浅野を睨むが、本人は気にした様子も無い。僕は今回の件で、僕たちの実力が知れるなり、人との繋がりが出来る事を望んでいる。そうすれば人が集めやすくなるのでは? そんな期待を持っても罰は当たらないだろう。


 そう思っていると、昨日の三人を含んだ五人のチームが現れた。


「すまない待たせたね。こっちは五人いるけど構わないかい?」


「えぇ、構いませんよ。今日は宜しくお願いします」


「あぁ、お互いに頑張ろう」


 爽やかな青年がリーダーであるそのチームは、笑顔で僕たちに話しかけてきてくれた。ダンジョンでもお互いに協力して、順調に門番のいる十階層に到着する。前もって考えていた通りに、僕たちのチームが囮となっている間に、青年のチームが門番を倒すやり方で戦う事になる。


 だが、囮となる僕たち二人を残して、青年たちは先へ進んでしまった。


「はぁ!?」


「悪いね君たち、俺たちは先に行くから」


「ふ、ふざけるな! 門番はどうするんだよ! こいつを倒さないと帰りだって待ち構えるだろうが!」


 青年たちが、僕の言葉で笑い出す。ニヤニヤしながら、手元から高価な魔法が付与された札を取り出した。一度だけ使用できる魔法を付与した札である。一枚一枚が高価な品だ。それは魔法が使えないチームや、必要な支援魔法を持たないチームの切り札と言っていい。


「お前ら貧乏人と違ってな、俺たちは金を稼ぐ方法を知ってるんだよ。進むのを悩んでいた時に、貧乏人のお前らがいてくれて助かったぜ。なんせ、俺たちは門番を倒してないから、この先にテレポートが出来ないからな」


 そのまま歩いて階段を下りる青年たち。支援魔法の制約で、魔法を使う人間が門番を倒して先に進まないとテレポートに制約がかかるらしい。倒す時にその場にいればいいので、大した問題でもないのだが……それを無視したやり方があるとは知らなかった。


「そんな事よりも友よ……こいつを倒さないと逃げる事も出来んぞ」


 敵を見れば、イモリのような巨大な魔物が壁に張り付きつつこちらを見ている。不気味な瞳は、僕と浅野を見たままだ。完全に狙いをつけられた上に、先には進めるのに入ってきた入り口は閉じている。


「最悪だ」


「ふっ、アレを使う時が来たな友よ! さぁ、あの巨人でトカゲを握り潰してくれ! いつまでも慎重では困るのだよ」


 僕は他力本願な浅野を無視して、左手を前に突き出した。狭い場所で試した時は、ダンジョンを破壊してしまった僕の切り札。更に、小さな魔物相手には不向きと言う問題もあった。門番がいるこの場所は広く、そして的も大きい。それは切り札を使う条件が整った事を意味する。


「まだ使いなれてないのに……あいつら絶対に許さないからな!」


 黒い霧を纏った巨人の顔が現れると、イモリの魔物は急に驚いて動きを止めた。巨人の二つの目が眩い光を発すると、イモリとその周辺は吹き飛んでしまう。……力加減を間違ったようだ。イモリは蒸発したようだが、魔石と鉱石がその場に残っている。

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