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異世界オープナー  作者: マノイ
教会になんて関わりたくない編

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43/44

43. 最後の戦いとカロール村の解放 後編

「(どうする。どうすれば良い)」


 疲れ果てた脳に更に鞭打ち、アケィラは必死に考える。

 自分は安全なところにいるが、このままでは多くの知り合いが死に、王国が滅亡してしまうかもしれない。


「(ダメだ。何も思いつかない)」


 もしもアケィラがあの場に居たとしても、一瞬で殺されてしまうだろう。

 相手が舐めプして自由に行動出来たとしても、状況を覆すことなど出来そうにない。


 それなのに遠く離れたアケィラに一体何が出来ると言うのだろうか。


「(本当にそうか? 本当に何も出来ないのか? 考えろ、考えるんだ)」


 異世界人だからこそ、この世界の常識に囚われない考え方が出来る。

 そうやってアケィラはこれまで新たな発見をしてきた。


 それならば今回もまた独自の感性でどうにかならないだろうか。


「…………」


 しかし思いつかない。

 圧倒的な暴力を相手に、小細工しか出来ないアケィラでは(・・・・・・)どうにもならない。


「(くそ、こんなのもう奇跡を願うしか……奇跡?)」


 自分がどうにもできないのであれば、どうにかできる相手にお願いすれば良い。

 そしてうってつけの相手が現地にいるではないか。


 どんな状況でもひっくり返せる、不条理な存在が。


『助けて!』


 噂をすればなんとやら。

 ちょうど彼女の存在に思い至った瞬間、アケィラ達の前に突然それが出現した。


「うお!」

「誰!?」

「!?」


 考え込んでいたこともあり、三人とも驚愕し、エィビィに至っては攻撃魔法を放とうとしていた。


「って聖女じゃないか。夢の中じゃなくても出て来れるのか」


 宙にふわふわと浮かぶ白い影。

 それは以前、夢の中で遭遇した聖女の形をしていた。


『現実に出るのは聖力を沢山使うのよ!』

「ふ~ん」

『そんなことより助けて!』

「いやむしろこっちの方が助けてもらいたいんだが、お前ならあのオーマジクとやらを止められるだろ?」

『はぃい!? 出来るわけないでしょ!』

「そこをなんとか」

『無茶言わないでよ! 奇跡だって万能じゃないんだから!』

「数秒動きを止めるくらいならなんとかならないか?」

『そのくらいなら……ってそんな場合じゃないの! このままじゃそれも出来なくなっちゃう!』


 焦る聖女と冷静なアケィラのチグハグ感が妙に緊張感を削ぐが、エィビィ達はそんなことは気にせず何故か二人の様子を白い目で見ていた。


「あれが聖女……アケィラちゃんと妙に仲が良い気がするんだけど」

「まさかの、ライバル、これ以上は、やめて」


 後で詰問されるのかもしれないがこればかりは仕方ない。

 今はそれよりも聖女が焦っている理由だ。


『教会が私の封印に呪いをかけて、聖力がどんどん漏れちゃってるの! 外からの聖力の補給も防がれてるし、このままじゃ奇跡が維持できなくなっちゃう!』


 カロール村の歪みが修復されたのだから、奇跡を終わらせて村人と王妃を出現させれば良い。だが今は村のど真ん中で激しい戦闘が行われていて、出現させれば少なくない被害が起きてしまうだろう。


 もうしばらくは奇跡を維持しなければならないのだが、聖力の喪失によりそれが難しくなっていた。


「教会が? そうか、王国軍が封印の近くで何かやってたのはそれだったのか」

「最後に嫌がらせしたのね」

「オーマジクの、存在、知っていて、やったのかも」


 呪いをかけた正確な理由は分からないが、最悪な状況であることには間違いない。


「呪いを解いて、聖力を補給して、封印を解いて、オーマジクの動きを止め、その瞬間にカミーラ達に倒してもらい、村人たちを元に戻す」


 この中で一番の問題点は何処にあるだろうか。


「呪いを解くのは俺が遠隔で出来るかもしれない。それならいけるか?」

『待ってよ! あんな化け物の動きを止めるなら、生半可な量の聖力じゃ無理よ! 補給している間にあいつに狙われて終わりよ!』


 戦争後であり、しかもカロール村の修復のために魔法使いは魔力を大量に消費している。しかもオーマジクと戦闘中であるため、今も魔力は減り続けている。オーマジクを止める奇跡に必要な聖力が圧倒的に足りていない。しかもオーマジクを撃破するまでは村人達をまだ戻すわけにはいかず、そっちの聖力も必要となる。


「姉さんの魔力なら……いや、現地に転移したら無くなってしまうか」

「うん。飛ぶだけならいけるかもだけど、ほとんど空になっちゃう」

「大量の聖力、いや、魔力か……そんなもの何処に……あれ?」


 そんなものは存在しない。

 あるいは戦場全体に声をかけて寄せ集めればどうにかなるかもしれないが、そんな時間もない。


 そのはずだったのだが。


「あるじゃないか!」


 アケィラは腰に下げた魔法袋からペンダントを取り出した。

 ミュゼスゥを助けたお礼にと、イナニュワから貰ったものだ。


 そこにはイナニュワが時間をかけて貯めた大量の魔力がこめられている。


「アケィラちゃん、それは?」


 エィビィの瞳がスッと細くなるが、気にしてはならない。


「貰いもんだ。これに大量の魔力がこめられている。これならいけるだろ」


 他人の魔力を扱うのは難しい。

 だが何故か聖女に関しては、それを受け取って己の聖力へと変換が可能だ。


 それはこれまでの聖力の補給の様子から間違いない。


 つまりこのペンダントこそ、聖女が今一番欲している物になる。


『魔力があっても、呪いを何とかしないとダメ!』

「それは俺がなんとかするって言っただろ」

『誰も解除できない呪いなんだよ!?』

「ふふ、解呪の魔法なんかに頼ってるからだ。突貫で付与した呪いなんか、ちゃんと視れば一瞬で解けるさ」


 実際、遥か上空からその呪いを確認するだけで、アケィラは大まかな仕組みを理解できていた。解呪の魔法が効かないように設定されているだけの、雑な呪い。


 それを解除するだなど、アケィラにとっては些細なことでしかない。


「ということでなんとかしろよな」

『うう……やれば良いんでしょー!』


 これ以外にこの状況をどうにかする選択肢が無いことは聖女にも分かっていたのだろう。凶悪なオーマジクと立ち向かわなければならないことは恐怖ではあるが、意を決したらしい。


「安心しろ。お前を無防備になんかしない」


 アケィラは三人に作戦を伝え、オーマジク撃破のために動き出す。


ーーーーーーーー


「うう……お腹たぷたぷ……」

「もう少し、右、行き過ぎ」

「うっぷ、はーい」


 鳳凰作成のために消費した魔力を少しでも回復しようと薬を飲みまくったエィビィは、目を閉じて集中している。


 正確な場所に転移するためなのだが、同時に司書の指示に従ってミニ鳳凰を動かしてもいる。


 司書はアケィラとエィビィに指示をする係だ。


「そこで、そのまま、待機」


 ミニ鳳凰は聖女の封印の上空で待機。後はアケィラの準備次第。


「ちっ、やっぱり気付かねーか」


 アケィラが先に送り込んだ小さな魔力の小鳥。

 それをオーマジクからかなり離れた背後で動かすが、勇者達は全く気付いていない。一瞬でもオーマジクから目を離したらやられると思い全ての集中を敵に注いでいるためだ。


 ミニ鳳凰を使って魔力の文字を空に描けば気付いてもらえそうだが、それでは魔法が得意な敵にも気付かれてしまうだろう。ミニ鳳凰が居なければアケィラが呪いを解くことが不可能であるため、壊されてしまう可能性が高い危険は犯せない。


「ならこれを使おう」


 アケィラが取り出したのは小さなベル。

 どういう仕組みなのか、自分が呼んでいることを勇者に伝えられる魔道具だ。以前、ござる侍が店に来た時に使ったきり、魔法袋の肥やしとしていた。


「信じてるぜ勇者君。勘違いするなよな」


 戦争中にこのベルで呼び出されたならば、アケィラに危機が迫っていると思われてもおかしくない。だが、アケィラはミニ鳳凰を使って自分がこの戦場に何かしらの手段でアクセスしていることを勇者達に知らせている。


 そのベルが救助要請ではなく、苦境に陥った勇者達へのメッセージなのだと理解してくれるかどうかは賭けだった。


 チリンチリン。


 ベルを鳴らした瞬間、勇者の身体がピクリと震えた。

 視線はオーマジクから逸らさず、カミーラおよびトゥーガックスと入れ替わり休憩するフリをして一旦後ろに下がった。


「よし、気付いたな」


 勇者の視線がオーマジクの背後を捉えた。位置関係の都合上、オーマジクからは自分を見ているようにしか思えないだろう。


 アケィラは小鳥を飛ばし『奇跡』という言葉を空に描いた。勇者はそれを見て小さく頷く。


「やるぞ!」


 せめてもの撹乱にと、アケィラは小鳥をオーマジクに体当たりさせようとする。オーマジクは振り返ることもせずにそれを霧散させたが、何をされそうになったのか警戒している。


 その隙に勇者が何かを叫び、その場の猛者たちは聖女を守るべく壁となる。


 そんなことをしてしまえば聖女を使うとバレバレなのだが、隠して守りが薄いままに行動したとして、それがバレたら一瞬で潰されてしまうため、だったら最初から全力で守るべきとの判断だった。


「今です!」


 司書の合図でミニ鳳凰が急下降し、聖女の封印へと突撃する。

 それと同時にエィビィの姿が消える。


 勇者達が必死にオーマジクに抵抗しているため、ミニ鳳凰の存在は上手く誤魔化せている。


 ミニ鳳凰の口からアケィラの魔力の線が飛び出した。


 今度は急加速しながらの精密操作。


 ミニ鳳凰が封印に激突して消滅してしまえば呪いの解除は不可能になる。それなら最初からエィビィが現地に転移して操作すればゆとりをもって作業可能かと思えるが、魔力を大量消費する超長距離転移などしたらオーマジクにすぐに気付かれ警戒されて速攻で殺されてしまう可能性があるため出来なかった。


 オーマジクに気付かれ対処される前に呪いと封印を解く。


 チャンスは一瞬だ。


「やはり単純な呪いだな。この程度が誰も解けないだなんて情けない」


 解呪の魔法に拘らず解呪した経験がある者が一人でもいれば、あっさりと解けていただろう。


 だがこの世の中ではそれは常識では無い。


 特に呪いは下手に弄ればより悪化したり、伝染する可能性がある。魔法を使わず強引に解除するのは危険だからやってはならないことだとすら言われている。


 その常識もこれから様変わりして行くことになるのだろう。


 アケィラがここで成功すればの話だが。


「狙いはあそこだ……」


 タイミングを見計らう。


「…………」


 ほんの僅かな操作ミスが命取り。


「…………」


 せっかく風呂に入ったのに、また滝のような汗が流れて来る


「…………」


 瞬きの一つすら許されず、呼吸も止まっている。


「…………」


 極限の集中力が、超高速移動をスローに感じさせた。


 そして。


「!!」


 呪いの術式は効果を失った。


『…………!』


 その直前に転移が完了したエィビィの声に反応し、即座に封印解除が試みられる。映像からだと何を言っているのか不明だが、一体何を告げればそれを信じて咄嗟に動けるのだろうか。


 だが、それでも遅いと言わんばかりに、封印は内側から強引に破られた。


『……!』


 飛び出して来た聖女に向けてエィビィはペンダントを投げ、聖女はそれを手にして奇跡を唱える。


『…………………………!』


 途端に膨大な魔力がペンダントから飛び出し、聖女はそれを体内に吸収させること無く聖力へと変換させた。


 今まで一度もやったことのない、強引な奇跡の起こし方。


 状況を察したオーマジクが全力で聖女を殺しに魔法を放とうとしているため、魔力を体内に取り込むほんの僅かな時間ですら致命的になり得ると判断したのだ。


『!?』


 半ば賭けのようなものだったが、聖女の試みは成功し、オーマジクが極大魔法を放つ直前に奇跡が発動された。


 オーマジクの動きが静止する。

 それは数秒も保たないだろう。


 だが一瞬でも止まれば十分だ。


『!!!!』


 こうなることをカミーラは予想していたのか、オーマジクの動きが止まる前から動き出していた。ボロボロの身体を奮い立たせ、配信では聞こえていないが恐らくは咆哮し、手にした大剣でオーマジクを袈裟斬りにする。


 聖女の奇跡は、単に動きを静止させるだけではなくオーマジクの数々の耐性防御も無効にしていたらしい。


 世界最強は次世代の最強によって打ち倒された。


--------


「ふぅ、疲れた」

「お疲れ様」


 画面の向こうでは疲れ切った王国軍がへたり込みながら勝利を祝っている。


 ミニ鳳凰は現地に転移したエィビィが封印への衝突ギリギリで旋回させて回避させ、アケィラは引き続き現地の様子を確認出来ている。


 聖女も保護され、カロール村の人々や王妃様も戻って来た。


「ちっ、いちゃつきやがって」


 国王が王妃と抱き合い、涙を流して喜びあっている。

 そんな二人を素直に祝福する言葉が出ないのは、ただのツンデレであり本心では喜んでいるに違いない。


 本人が実はかなり危険な状態であることを理解せずに。


「(私もやりたい。好感度沢山あげたし、邪魔者居なくなったし、二人っきりだし、そろそろ少しぐらい手を出しても良いよね、ぐへへ)」


 本当は超肉食系の司書が牙を剥こうとしていたのだ。


 ただでさえこれから厄介なことが沢山待っているのに、ここで女の戦いまで厄介なことになったらアケィラのメンタルは耐えられるのだろうか。


「俺にとっての戦いはここからが本番だな」


 平穏を求めての戦いという本番が想像していたよりも早く来ることを、そしてその最初の刺客がすぐ傍にいることにアケィラが気付くかどうかは、司書の決断にゆだねられていた。


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― 新着の感想 ―
すっかり遅れてしまいました。 魔力タンク。この伏線は無駄にはなりませんでしたねw 逆に言えば、ここまでくる道のりのどこかが違っていたら、結末にはたどり着けなくなってしまったわけですね。
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