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異世界オープナー  作者: マノイ
教会になんて関わりたくない編

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39/44

39. カロール村解放戦と通信回線

「アケィラちゃんアケィラちゃんアケィラちゃんアケィラちゃああああん!」

「姉さん暑い」

「だって久しぶりに会えたんだも~ん! お話ししたかった~!」


 ソファーに座るアケィラに背後から抱き着き頬ずりしまくっているのは、アケィラの姉のエィビィ。


 これまで帝国貴族として大量の仕事に追われていたのと、アケィラが王国の内情に深く関わりすぎているため気軽に会えなかった。


「どうして姉さんがここにいるのさ」

「酷い! お姉ちゃんのこと嫌いになっちゃったの!?」

「そうじゃなくて、ここって偉い人が一時的に避難する秘密の部屋だろ。帝国貴族の姉さんに教えて良いとは思えないんだけど」


 アケィラ達がいるのは戦争などで王国が滅びようとしている時に、王族などを長期間避難させておく秘密の地下室。カロール村解放戦の開戦に伴い、村周辺では王国軍と教会軍が睨み合っているが、アケィラはそこには赴かずに隠れていた。

 他の場所に隠れると教会の別動隊がアケィラを殺しに来るかもしれないため、絶対に安全な場所で待つことになったのだ。


「だってアケィラちゃんが知ってたら同じことでしょ」

「そりゃそうか」


 この場所の事をアケィラが知ってしまったのであれば、姉がここに来ずともいずれは帝国に知られてしまうだろう。わざわざ姉に隠す必要は全く無かった。


「でもだとしても、姉さんまでここに避難する必要は無かっただろ。姉さんなら教会の連中に襲われても返り討ちにするだろうし」

「もちろんあんな連中なんかに負けないよ。だからお姉ちゃんが来たのは、避難じゃなくてアケィラちゃんを守るため。万が一にもここを嗅ぎつけられた時のためにね」

「過剰戦力すぎだろ……でも姉さんを王国の内乱に関わらせるわけにもいかないし、適材適所なのか?」


 カロール村解放戦はあくまでも王国国内の話であり、そこで帝国貴族の現当主が活躍したなんてことになったらややこしいことになってしまう。とはいえ強力な戦力を遊ばせておくのは勿体ないため、家族を守るという名目でアケィラの傍にいることが許されたのだろう。


「来てくれて感謝はしてるけど、俺以外も守ってくれよ」

「え~」

「不満そうにするなって。お世話になっている人なんだから」

「(女の勘があの二人よりも危険だって言ってるのよね)」


 アケィラとエィビィから視線を向けられたのは、少し離れた所で椅子に座って本を読んでいる一人の女性。図書館で働く冒険者学校時代の同期の司書だ。姉弟のコミュニケーションの邪魔をしないようにと我関せずと過ごしているが、そうやって好感度稼ぎをしていることを姉は勘付いていた。


 アケィラの身近な人物が教会に人質に取られないようにと、ここに避難しに来ていた。なお、アケィラの店がある街の人々は、領主や街に戻った領主代行が中心になって守っている。


 ノリィ王女をはじめとした王族は、現地に赴いたりそもそも地方や国外にいたり王城に留まって近衛兵に守られたりしている。王族が避難するのは国が滅びる直前であるべきだという国の方針があるためここにはいない。


「そんなことより、アケィラちゃんさっきから何やってるの?」


 アケィラは姉にベタベタされながら、水晶のような何かを弄っていた。

 教皇との通信に利用していた魔道具である。


「それって国宝でしょ?」

「国宝!?」


 アケィラは慌ててそれを優しく机に置いて距離を取った。


「知らなかったの?」

「クソ、そんな大事なもんを気軽に貸すんじゃねーよ!」


 どうやらアケィラはそれが国宝であることを知らなかったらしい。


「大国だけが保有している世界に数個しかない通信の宝玉だよ。帝国にも一個あるけど、壊れたら困るから余程の緊急事態でしか使わないルールになってたはず」

「壊れたら困るなら俺に渡すなよ!」


 だがどれだけ文句を言おうが、貸してくれた人々はここにはいないのである。

 そんなアケィラの叫びに反応してか、司書が本を閉じてアケィラに顔を向けた。


「信頼、されてる?」

「そんな信頼、面倒すぎるから捨ててしまいたい」

「今更?」

「…………はぁ」


 深い溜息を吐くことしか出来なかった。

 これまでのアケィラの功績を考えると、カロール村の事件が終結した後も面倒なことになること間違いなしだからだ。


 そしてその面倒なことを引き起こす要因は功績だけではない。


「それにしてもアケィラちゃん、よく異世界人だって明かす気になったね」


 この世界には無い多くの知識を有する異世界人。

 しかも転移時に神様に会ったことがあるとなれば、重要人物度は激増する。どう考えても面倒なことにしかならない。


「あの状況で教皇の神託発言を覆すには、そうするしか無かったんだよ」


 面倒なことは嫌いだが、それ以上に性根が優しいアケィラだ。

 カロール村の悲劇に心を痛め、自分がなんとかできるのであればなんとかしたいと思っていた。

 そして本人は気付いていないが、ミュゼスゥが呪いにかけられた時の教会の非道な対応に内心激しく憤り教会に対する嫌悪感が増大していた。つまりは激しくムカついていたのでついやってしまった、ということである。


「そうかな? そんなことしなくても大丈夫だったと思うけど」

「え?」

「だって明らかに怪しい神託でしょ。ここしばらくの教会の非人道的な行動を考えたら、信者であっても疑ってたと思うよ。だから神託なんて嘘だって強く主張するだけで覆せたと思うけどなぁ。時間は少しかかると思うけどね」

「…………マジか」


 アケィラの最大の秘密を使う必要は無かったかもしれない。そう告げられて少しの間茫然としたアケィラだが、すぐに気を取り直した。


「まぁしゃーない。時短できたから良しとでも思うとするよ。時間を与えたらあいつら何をするか分かったものじゃないからな。それに俺のことは隠してくれたからギリセーフだ」


 教会に宣戦布告したと国民に告げる際に、国王は神に会った異世界人の存在を説明したが、その時にアケィラの名前を出さなかった。ゆえに戦後すぐに国民がアケィラの元へと殺到するなんて事態にはならないだろう。


「お姉さん、知ってたんだ」


 アケィラが異世界人であるという話を、エィビィは驚くことなく自然に口にしていた。つまり家族には打ち明けていたということになる。


「もちろんだ。そもそも俺がこの世界に来た時に拾ってくれたのが姉さん達だったからな」

「そうなの?」

「ああ、色々と助けてくれて、家族にまでしてくれて、本当に感謝してる」

「私達はまさか異世界人だっただなんて思わなかったけどね~」

「(俺だって、異世界なのに家名が同じだなんてびっくりだったわ)」


 フルヤという名はエィビィの家のものであると同時に、アケィラが元居た世界での名字でもあった。奇妙な一致は偶然なのか神のいたずらなのか分かっていない。


「そっか、だから、家族のことが、好き、なんだね」

「……まぁな」

「私もアケィラちゃん好きいいいいいいいい!」

「だから暑いから止めろって!」


 摩擦熱が発生するくらいの超高速の頬ずりにアケィラは体を捩って逃れようとするが、魔力で身体強化しているのか拘束は外れず為すがままだ。


「ふふ、楽しそう」

「楽しくねーよ!ああもう、国宝弄るから離れてくれ!」

「ちぇっ、照れなくても良いのに」

「姉さんはもっと照れてくれよ……」


 流石に国宝を弄っている時は激しく構ってこないだろうと思い、渋々作業に戻ることにしたようだ。


「それ、何を、見てるの?」

「お姉ちゃんも知りた~い」

「これが通信の魔道具なら、カロール村を見ることが出来ないかなって思ってな」


 窓もない地下室にずっと閉じこもって待つだけというのは退屈であり、いつ終わるか分からないというのは不安にもなる。ゆえに外の状況を知るために、この魔道具が使えないかと考えていたのだ。


「う~ん。そんなこと出来るのかな。確かそれって同じ魔道具同士じゃなきゃ通信出来ないって聞いたことあるけど」

「うん、本にも、そう、書いて、あった」

「らしいな。だが……」


 アケィラはじっとその魔道具を視た。すると大小様々な魔法陣による術式が複雑に絡み合っていることが分かる。


「術式が難しすぎて詳しくは分からないが、別の通信先を設定可能なようにも見えるんだよな」

「流石アケィラちゃん。これまで誰も解明出来なかった魔道具の仕組みまで分かっちゃうなんて」

「いや分かって無いし。というか、これは敢えて分かるようになってる気がする」

「どういう、こと?」

「術式を目視可能で、術式の勉強をしていればピンと来るだろうってことさ」


 現代人は無属性の魔力を視ることが苦手であったが、その方法をアケィラが教えたことで無属性の魔力で作られた術式をいずれ誰もが見られるようになるだろう。

 また、術式の研究そのものはこれまで深くなされていたため、彼らがこの魔道具の術式を視ることで仕組みを完全に解析可能になるかもしれない。


 これまで不明だった多くの魔道具を理解し、新たに生み出すことが可能となる。


 アケィラの功績は留まるところを知らないのであったが、そのことに気付いた姉と司書はあえて言わなかった。姉は後で知って困惑する姿が見たいのと、司書はそれを伝えて困らせて好感度が下がらないようにするためだ。


「おそらくこれは、視れば使い方が簡単に分かるようになってるんだろう。一部だけ明らかに簡単に読める場所がある」


 アケィラはその場所に着目して術式を解析してみた。

 果たしてそれが本当に簡単なのか、アケィラが特異なのかはまだ不明である。


「なるほどな」


 アケィラは魔道具をまた机の上に置くと、右手の人差し指だけを立てた。

 そして無属性の魔力の細い線を生み出し、小さな鳥を形作った。


「久しぶりに見た!」

「すごい……」


 ノリィ王女に何度も見せている技だが、二人には見せていない。

 その超絶技巧に二人は釘付けだったが、本当に驚くべきはここからだ。


 アケィラはその魔法の鳥の頭部に小さな魔力の魔法陣を設置して、とある術式を組み込む。そして自由な左手を魔道具に掲げて魔力を注ぎ込んだ。


「登録」


 魔道具と魔法の鳥。

 それぞれが一瞬だけ淡く光った。


「これで良し、行ってこい」


 魔法の鳥がアケィラの身体から離れ、壁をすり抜けどこかに飛んで行ってしまった。


「アケィラちゃん、今のは?」

「この魔道具、どうやら特定の魔道具との通信が可能というよりは、特定の術式との通信が可能なものらしい」

「もしかして、さっきの、鳥に、その、術式を、設定、したの?」

「ああ。その上でこの魔道具とリンクさせたから、あの鳥が見た映像をこれで見れると思う」

「…………」

「…………」


 あまりのことに絶句してしまう女性陣。


 何故ならば、もしこの技術が国に知られてしまえば覗き放題になってしまうからだ。反政府と噂されている人物の監視をし、裏で行われている悪事を暴き、他国の情報を入手する。もちろん低俗な覗きも可能である。使い道などいくらでも考えられる、あまりにも危険な技術。

 もちろんこういう技術があると世界中に周知されていれば身を守る手段はいくつも考えられるだろうが、国が秘匿してしまえばどうしようもない。この国はまともだが、もしも教皇のような人物がこの技術を知ってしまったらと思うと恐ろしくてたまらない。


 そんなことを分かっているのかどうなのか。

 アケィラは鳥を飛ばすことだけに集中していて女性陣の懸念など何処吹く風だった。


 王都からカロール村までは遠い。

 鳥はかなりのスピードで飛べるが、辿りつくには相当な時間があるだろう。


 三人はまったりと雑談をしながら待った。


 そして。


「よし、到着した。見るぞ」

「今更だけど、向こうに到着する前に思った通りに起動するか確認しておけば良かったね」


 時間をかけたのに術式やアケィラの考えが間違っていて上手く行かなかったなんてことになったら無駄になってしまう。ゆえに近場で通信が可能かの確認をすべきだったのだ。


「そりゃそうだ。でもこの先、何日もここに缶詰になるかもしれないんだろ。だったら、効率良く調査なんてしてたら暇になってしまうじゃないか」

「あはは、なにそれ」


 実はアケィラも一発で上手く行くとは思っていなかった。ただの暇つぶし程度にしか考えていなかったのだ。


「どうせ失敗するだろうから期待はするなよな」


 そして失敗したらまた考えて時間を潰せば良い。

 そんな感じで気軽に考えながらアケィラは魔道具を起動した。


「…………」

「…………」

「…………」


 魔道具は淡く光り、壁に映像が映し出された。


 対峙する武装した多くの人々。

 そして映像に収まりきらないほどに広範囲に歪んだカロール村。


 それは間違いなく飛ばした鳥が見ている光景だった。


 巨大な歪みはあまりにも禍々しく、見ているだけで不快感がこみあげて吐きそうになる。


「さ、流石アケィラちゃん、一発で成功するだなんて」

「すごすぎ」

「…………マジか」


 せっかくの暇つぶしが終わってしまったと嘆くべきか、カロール村の様子を見て別の暇つぶしが出来るようになったと喜ぶべきか、複雑な心境のアケィラであった。


 そして女性陣は、新しい回線を本当に開いて(・・・)しまったアケィラを、様々なしがらみから守らなければと頭を悩ませることになる。


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― 新着の感想 ―
こちらの世界の知識があるから、抵抗がないのね。 そんなことできるわけがない、と思い込みでリミットをかけてしまうということは多いんだろうなあ。
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