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異世界オープナー  作者: マノイ
教会になんて関わりたくない編

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38/44

38. 教皇と開戦 後編

「はははは! これは傑作だ! 神に会っただなど、どれほど下手な詐欺師ですら言わないぞ!」


 アケィラの突然の告白に爆笑する教皇。あまりにも荒唐無稽な話であり、普通であれば自然な反応であるといえよう。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 しかし王国の面々は全く異なる反応を見せた。


 アケィラの言葉を疑う様子はなく、一様に驚愕していたのだ。

 今が教皇との通信の場でなければ、一斉に詰め寄って説明を求めたに違いない。


 カミーラは思った。


「(何か秘密があると思っていたが、まさか異世界人で神に会ったことがあるだなんてな。でもアケィラならあり得ると思えるから不思議だ)」


 アケィラは決して異世界の知識を広めようとはしておらず、あくまでもこの世界の住人として生活していた。だが、常識外れの視点による新発見があまりにも多すぎる。アケィラが異世界人でありそもそも基本となる常識が別にあると考えると、アケィラがこの世界にとって特異な考え方をしていることに納得出来てしまうのだ。


 この場の面々はアケィラがこれまでやらかしてきたことを知っている。それゆえアケィラの言葉が嘘だと否定できず、素直に驚かざるを得ない。


「(だが彼の言葉が本当だとしても、それを証明できなければ意味が無い)」


 一早く冷静に戻った国王が、状況が改善されていないことに気付いて内心で焦り出す。


「ふん。話にならんな。空間異常を修正出来るというのも、やはり詐欺だったのではないか? 改めて検討することをお勧めする」


 自分の優位は崩れないとの自信があるのだろう。教皇は気持ち悪い笑みを浮かべながら王国側を煽ろうとする。


 しかしアケィラだけは、やはりこの状況を全く不利だと考えていないようだ。


「なら俺が異世界から来たってことについて、少しだけ信憑性を高めてやろう」

「なんだと?」


 教皇の疑問の声を無視してアケィラは会議室入り口付近に立つトゥーガックスに声をかけた。


「呼んできて欲しい人がいるんだが……」


 具体的な指示をしようと思ったら会議室の扉が開かれた。


「呼んだ?」

「え?」


 するとそこには、あるものを手にした司書が立っていた。


「丁度呼ぼうと思ってたところなんだが、どうしてここに?」

「必要かと、思って、外で、待機、してた」

「流石だな。助かるわ」


 アケィラの好感度を上昇させるために、突入する最高のタイミングを狙っていたのであるが、そのことに気付いているのは彼女の事を警戒する女性陣だけだった。


「(くっ……美味しいところをもってかれた!)」

「(相変わらずやり方が汚い)」


 カミーラとトゥーガックスは心の中で悔しがるが、この状況で抗議や追い返しなど出来るはずもなく、彼女がアケィラを喜ばせるシーンをただただ見守ることしか出来なかった。


「ふっ」

「(こいつ!)」

「(ああああ!)」


 そんな二人をこっそりと鼻で笑って挑発する。もちろんアケィラに気付かないように。


「ちょっとその辺り片付けますね」


 アケィラは女性陣の無言のやりとりなど気にせず、通信の宝玉が乗せられていない長机を壁の方へと移動させて広めのスペースを作った。


「それじゃあ頼む」

「うん」


 偉い人達に見られているというにも関わらず、彼女は緊張する様子を見せずに、手にしていた物に跨った。そのままペダルを漕いで、会議室内を移動する。


「どうだ。これが俺の世界にあった二輪車だ」


 教会が神託を利用することをアケィラは予想していた。それに対抗するには、自分が異世界人であり神に会ったことを説明するしかないと考えたのだが、もちろんそんなことを言ったところで普通は信じて貰えない。ゆえにアケィラは元の世界の知識を披露することで、自身が異世界人であることを証明しようと考えた。

 そこで相談したのが王城に避難していた学生時代の友人で現在司書の女性。多くの本を読み世界中のあらゆることについての知識が深い彼女と協力し、この世界に存在しないであろう物を作っていたのだ。


 その一つが、今紹介した自転車だ。


「この世界には魔導車はあるが、人力での二輪車は存在しない。なら何故俺が存在しない物を作れたのか。異世界の知識があるからだ」

「そ、そんなもの、偶然思いついただけだろうが!」

「そう言うと思って他にも作ってあるぜ」

「はい、これ」

「うお、他にも持って来てくれたのか」


 司書がアイテムボックスから取り出したのは、お皿に乗った真っ白な柔らかそうな物体。


「これは豆腐って言って、俺の世界にあった食べ物だ。作り方は……」


 この世界でも多種多様な料理がある。だが豆腐と同じような料理は存在しない。しかも作り方が風変わりであり、ちょっとした思い付きで作れるようなものではない。


 アケィラが豆腐の作り方の説明をすると、教皇の顔が徐々に青くなってきた。豆腐が本当にこの世界には無い異質なものである雰囲気を察したのだ。


「ということで、こんな珍妙な料理を知っているのは、元の世界で食べたことがあるからだ」

「ぐぅっ……」

「ちなみに他にもいくつか用意してあるぜ。それに物以外にも、政治のやり方とか音楽とか歴史とか、情報に関しても出せるものは山ほどある。一つだけじゃ胡散臭くても、沢山出てくりゃ信憑性が高まるってもんだろ」


 アケィラ・フルヤは異世界人である可能性が高い。


 この世界では『異世界』という概念が通じるということをアケィラは知っている。その辺りの話は自分を拾ってくれたフルヤ家とたっぷりしたからだ。ゆえにここまで証拠を並べれば、信じる方向に気持ちが傾くだろうということは分かっていた。


「だが確証はない! それにたとえ貴様が異世界人だったとしても、神に会ったことなど証明できまい!」


 教皇は諦めない。

 もしここでアケィラの言葉を認めてしまったならば、神は神託を行わないという話を認めてしまったならば、これまでの神託が全て噓だったことを認めてしまうようなものだからだ。


「ああ、出来ないな」


 アケィラは教皇の言葉を素直に認めた。その様子に教皇は少しだけほっとしたが、安心するにはまだ早かった。


「そもそも俺は信憑性が高くなるって言っただけだ。証明するとは言ってない」

「ふん!証明できないのであれば意味が無いわ!」

「それはどうかな?」

「何?」


 確かにアケィラに神と会ったことを証明する術は無い。

 だが別に証明しなくても全く問題無かったのだ。


「俺は異世界人であり、この世界に来る時に神に会った。そして異世界人である信憑性を高めるために、この世界には存在しない物を作り出した」

「それがどうしたと言うんだ! そんなものは神に会った証拠にはならん!」

「証拠にはならなくても信憑性はあるだろ?」

「同じことを繰り返すな!信憑性など意味が無い!誰もが納得する証拠を見せろ!」

「くっくっくっ、なら同じことを言わせてもらう」

「は?」

「お前が神託を受けたという証拠を見せろよ」

「な!?」


 アケィラのその言葉に、王国側のメンバーは何を言いたいのか察したらしい。だが愚かな教皇だけは気付かない。あるいは気付いているが、気付かないフリをしているのか。


「私は教皇だぞ!神託を受けるのは当然のことだ!」

「そう思っている教徒は果たして何人いるかな」

「なにぃ!?」


 神の信徒にとって、教会の偉い人が神託を受けるのは当然と感じるだろう。だが教皇はやりすぎたのだ。


「神が告げるにしては不自然な神託の数々。人々から治療費をふんだくり、若い女を攫うかのように強引に勧誘し、果てには行き場の無い子供たちを引き取り人体実験に使っているなんて噂もある。お前の信憑性(・・・)は果たしてどれだけ高いかな」

「そ、それは……」

「どれだけお前達の信憑性が低くても、神託が本当である可能性が僅かでもあれば信徒は信じざるを得ない。だが、そこに俺が登場した。神に会っただなどとあまりにも不敬な主張をする俺が、その主張の信憑性を高めてみせた」

「…………」

「怪しい教会上層部と、怪しい異世界人。果たして信徒はどちらを信じるかな」

「ぐぅっ!」


 教会がやりすぎていなければ、多くの信徒は教会の方を信じたかもしれない。しかし調子に乗ってやりすぎて不信感を抱かれすぎてしまったが故に、アケィラの言葉を信じてしまうに違いない。何しろアケィラは教会とは違い信憑性(・・・)が高いのだから。それに人は信じたいものを信じたくなるものなのだ。


「ふ、ふふ、ふざけるな!そんなバカげた話、信じる訳が無いだろう!」

「そう思いたければ思うが良い」


 ここで、アケィラは国王に視線を向けて会話のバトンを返した。


「どうやらここまでのようですね」

「馬鹿な! お前達はその詐欺師の話を信じると言うのか!」

「少なくとも貴方の神託よりは信憑性(・・・)が高いとは感じてますよ」

「ぐぅっ……どいつもこいつも!」


 教皇は激昂しながらもどうにか逆転の一手を放とうと考えるが、全く思いつかない。神託という最終手段を潰された以上、やれることと言えば神に会ったと証言するアケィラを秘密裏に殺すことくらいだろうが、そのアケィラは今は徹底的に守られていて手が出せない。


「では最後にもう一度お伝えします。カロール村から撤退してください。後は私達が引き継ぎますので」


 教会に向けた最終通告。

 この答え次第で、この先の大きな流れが決定する。


 教皇がどの道を選ぶのか。

 それはもちろん決まっている。


「断る! それが神の意思だ! 教会は詐欺師の言葉になど耳を貸さぬ!」


 ここで退いてしまっては、待っているのは断罪だ。

 なんとしても抵抗し、アケィラを殺害し、それが神の意思による行いだと押し通さなければならない。


「そうですか、では我が国は……いえ、それは彼に任せましょうか」

「は?」


 最後の最後、肝心なところで国王は会話のバトンをアケィラに渡した。国としての最終決断の場面なのに、何故そんなことをするのかと不思議がる。


「せっかくオープナーがいるのだ。専門家に任せた方が良いだろう」

「…………マジかよ」


 悪戯顔の国王に、無理矢理美味しいところを押し付けられてしまった。慌てて宰相の方を見ると、やれやれと顔を横に振るだけで止めてくれない。


「(どうなっても知らないからな!)」


 アケィラは少しだけ溜息をついて、顔を真っ赤にした教皇を睨みつけた。


「神は言ってたよ。面倒だから自分達のことは自分達でやれってな。だから神の言葉を騙るただのクズくらい、俺達の手で始末をしねぇとな」

「~~~~!」


 怒りすぎで教皇は口をパクパクするだけで言葉も出ない。


「まったくどうしてこんな面倒なことになっちまったんだか」


 街の片隅でひっそりと店を構えていればそれで良かったのに、気付けば多くの面倒ごとに雁字搦めにされてしまっていた。自分が異世界からの転移者であると宣言してしまったことで、この先さらに多くの面倒事が降りかかってしまうだろう。


 どうしてアケィラがそこまで積極的に行動したのか。


 この場の多くの人物がその理由(優しさ)に気が付いていた。

 そんなアケィラだからこそ、今この場で中心になっているのかもしれない。


「責任をとってもらうぞ小悪党。全力で潰してやるから覚悟しやがれ!」


 オープナー・フルヤ。

 なんでも開ける専門家が、教会との()戦 を宣言した。

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― 新着の感想 ―
皆の前で全部バラしたのなら、事が終わっても異世界の知識を求める輩は後を絶たないでしょうね。 平穏さんは二度と帰らぬ旅に出てしまったのですね。
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