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異世界オープナー  作者: マノイ
教会になんて関わりたくない編

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37/44

37. 教皇と開戦 前編

 アケィラの夢に聖女が出現した翌朝。

 げっそりとした顔の陛下がアケィラの元を訪れ、夢の内容のすり合わせを実施した。アケィラが予想した通り、陛下は夢の中で王妃に何度も消し炭にされて怒られたらしい。


 聖女の言葉が事実であると判断した陛下は、夢の内容を元にカロール村奪還のための具体的な指示を出し、準備は着々と進んでいた。


 そんなある日のこと。


「アケィラ様! 陛下がお呼びです!」

「ん?」


 部屋で寛いでいたら、慌てた様子でメイドが飛び込んで来た。

 何があったのかと訝しみながら、この日の護衛のトゥーガックスとイゼと共にメイドの後について行く。


 案内された場所は広い会議室のような場所で、大きな長机が置かれているが誰も座らず多くの人が立っていた。


「なんだなんだ。勢揃いじゃないか」


 陛下、宰相、宮廷魔導士長、騎士団長、どこかで見たことのある少年、近衛兵などの王城組。

 カミーラ、トゥーガックス、勇者メンバーなどの冒険者組。

 それらに加えて、教会との戦争準備で見知った顔がチラホラと。


 この王城に居るであろう、アケィラが知っている重要人物がほとんど揃っていた。

 ここに居ないのは姉や幼い王女や元領主くらいだろうか。


 余程急いで集まったのか、立ち位置がバラバラで上座下座などもめちゃくちゃである。


「何が起きたって言うんだ?」


 誰も彼も真剣な表情で待機していて嫌な予感しかしない。

 そんなアケィラの元に一人の少年がやってきた。


はじめまして(・・・・・・)アケィラ殿」

「…………お初にお目にかかります。王子殿下」


 明らかに見覚えがあるのだが、向こうが初対面を装うのであれば面倒事を避けるためにそれに従うアケィラであった。


「ようやく君に会える日が来たよ」

「私はここしばらく王城に居ましたので、いつでも機会はあったのでは?」

「それがさ、勝手なことをするなって父上に怒られて謹慎喰らってたのさ」

「謹慎?」

「そ。せっかく君についての情報収集を頑張ったのに酷いと思わない?」

「……何のことか良く分かりませんね」


 どうやら王子が宿場町でアケィラに会おうとしたことは独断であったらしく、その行為を国王に咎められたようだ。


「(思わせぶりに登場したくせに、これまでまったく姿を見せなかったのはそういうことか)」


 いつ何が起きるのかとずっと警戒していたが、それが杞憂であったと分かり肩を落とす。実は王子の姿を模した教会側の刺客なのではと疑ったこともあるくらいに警戒していたので、無駄な警戒だった感は半端なかった。


「そうだ。良ければ今度影に訓練してあげて欲しい。あの時に君に封じられたのが悔しいらしいんだよ」

「(俺との接触は誤魔化すつもりだったんじゃないのかよ!)」


 せっかく『はじめまして』と挨拶したのに、二人の関係を匂わせるような事ばかり言ってしまう王子。アケィラが国王の方を見ると困り顔だった。どうやら王子はちょっとばかりやんちゃで親を困らせてしまうタイプのようだ。


「王子、その話は後程。緊急事態が起きて呼ばれたのだと思いますので」

「ああそうだった」


 本来であれば国王や宰相がアケィラに説明する予定だったのだが、王子が近寄ったので王子が説明するのかと思い二人の会話を待ってくれていたのだ。王子はそんなことにも気付いていない様子だったので、アケィラが話を促した。


「実は教皇から通信が来てね」

「教皇から?」


 教会のボスである教皇。

 そいつが国に何かを伝えようとしているらしい。


 それならば重要人物勢揃いで聞いてやろうじゃないかとアケィラも呼ばれたのだった。


「別に私は居なくても良いと思うのですが……」

「そう言わないでくれ。先方からも是非君に参加して欲しいとお願いされているのさ」

「……そうですか」


 どうして指名されているのか、なんて疑問を今更口にすることは無い。

 ただ面倒なことになったなと、心の中で溜息をつくだけ。


「(何も言わず黙って立ってれば良いか)」


 そんなわけがない。

 指名されたということは、向こうから何か話しかけられるかもしれないということ。


 そんなことは分かっているが、現実逃避しているだけだった。


「全員揃ったようだな」


 国王が会議室内を見渡して、参加者を確認する。

 そして宰相に目線をやると、宰相は長テーブルに水晶玉のような何かを置いて操作する。水晶玉は以前アケィラが見た録画の魔道具よりも少し大きめのものである。


 やがて水晶玉から光が発せられると、会議室の一方の壁に大きなスクリーンが映し出された。


 どうやらプロジェクターのようなものらしい。


「陛下、始めますぞ」

「うむ」


 国王の合図で宰相が何か操作をすると、スクリーンにある人物が映し出された。


「(あれが教皇か。いかにもな生臭クズな見た目だな)」


 黄金に輝くセンスの悪い椅子に座る教皇は、これまたセンスが悪く宝飾品だらけのローブを着ていて、でっぷりと太っていることが目に見えて分かる。頭は剃っているのか髪が無く年齢が分かりにくそうなものだが、皴が大量にある様子からかなりの高齢だと推測可能だ。


 向こうからもこちらの様子が確認できるらしく、お互いが同時にスクリーンに映ったようだが、教皇は嫌らしい笑みを浮かべて豪華な椅子にふんぞり返ったままだ。


 教皇は皇国のトップであるため国王と同格ではあるのだが、明らかに相手を下に見ている。


「ふん。遅いぞ」


 本来であれば即座に宰相が苦情を呈する流れになるのだが、王国側は教皇の無礼な態度に無反応だった。予想とは異なる反応が気になったのか、教皇は露骨に眉を(しか)めて不審がっていた。


 すると国王が更に不審さを増大させる反応をした。


「そんなに早く終わらせたいのなら、さっさと用件を言ったらどうだ」

「何?」


 カロール村の人々や王妃を人質に取られていたため、これまで王国は教会に従うしか無かったが、もうすでにその必要はなくなっている。無駄にへりくだることなどせずに強気に出ていた。


 その状況を教皇も理解しているのだろう。一瞬苛立った様子を見せたが、すぐに余裕な表情に戻った。


「確かに仰る通りですな。下賤な者との会話など、早く切り上げるに限る」

「…………」

「チッ」


 相変わらず王国側は教皇の挑発に乗って来ない。

 どうやら教皇は王国側の準備について正確に把握できていないようだ。もし把握できていたらここまで余裕な態度ではいられないはずなのだから。その点、王国の情報統制能力の高さが伺える。


「こちらから伝えたいことは一つ。カロール村は我々が管理しているから余計な手出しはしないでもらいたい」


 今回の通信の目的は、どうやらカロール村を解放しようとしている王国に対して圧力をかけることだったようだ。もしもそれが為されれば、これまで王国内で好き放題やっていた教会が責められることは目に見えている。それゆえの行動だったのだろうが、判断するのが遅かった。


「断る」

「何?」

「これまでカロール村をお守り頂きありがとうございます。これからは私達でどうにかしますから、どうかお引き取り下さい」

「ば、馬鹿な!」


 国王の言葉に、教皇は慌てて立ち上がった。


「聖女がいなければカロール村は維持できないのだぞ。我々が撤退したら誰が聖女に聖力を供給すると言うのだ!」

「もちろん我々が行います」

「はっ、何を馬鹿なことを。聖力は教会の者しか扱えん。まさか撤退しろと言いながら教会の力だけは借りたいだなどとふざけたことを言うつもりでは無かろうな」

「もちろん申し上げません。教会の力は不要です」

「なんだと!?」


 どうしてそんなことが言えるのかと、教皇は分かりやすく驚愕していた。


「どうやらまだ報告が届いていないご様子ですね」

「な、なんのことだ」

「貴方達が絞っていた聖女様の聖力が満ちたということです」

「はぁ!?」


 教皇は慌てて何処かに連絡を取り始めた。そして少し後、国王の言葉が真実であると知ったらしい。


「なんてことをしてくれたんだ。聖女様に不純な聖力を供給するだなど、しかも過剰なまでに! このままでは聖女様が死んでしまうかもしれない! 責任をとってもらうぞ!」

「不純はさておき、過剰とは?」

「聖女様はお身体が弱く、大量の聖力を捧げると器が崩壊しかねないのだ。それゆえ聖力の供給を制限していたというのに」


 聖女の聖力を制限していたのは、供給を止めたら聖女とカロール村をすぐに始末出来るようにしておくことで王国の反抗を防ぐためだった。教皇はそれにとってつけたような理由を考えて王国を責め出した。


「聖女様はそんな話は仰っていませんでしたよ」

「は?」

「我々の中に聖女様の聖力の回復に一役買った人物がおりまして、聖女様が彼に接触して色々と教えてくれたのですよ」

「なぁにいいいい!?」


 聖女は封印されていて、外部と連絡を取れない。

 その大前提は崩れないと教皇は思い込んでいて、予期せぬ展開に脂汗を流していた。


「に、偽物だ! 聖女様は命を懸けて封印されたのだ。外部と連絡が取れる筈が無い!」

「そりゃあこれまでは聖力が制限されてましたからね。聖力が増えたら使える奇跡が増えて連絡出来るようになったそうですよ」

「ぐぅっ!」


 このまま言い返せなければ、教会が不要であると認めたことになってしまう。

 そしてそれはこれまで好き勝手やって来た教会の破滅を意味することにもなってしまうため、教皇はなんとしても反論しなければと考える。

 そこにとどめを刺そうと国王が更なる事実を告げる。


「それにもう情報が伝わっているとは思いますが、カロール村の空間異常を修復する手立ても見つかりました。カロール村の問題はもうすぐ解決します」

「ありえん!ありえん!ありえん!空間異常を修復するだなど絶対にありえん!」

「そうは言われましても、我々は目の前で修復する場面を目撃しましたよ」

「何かの仕掛けがあるに決まっている! お前達は騙されているのだ!」

「私の娘が事故で起こしてしまった空間異常を直してみせたというのに?」

「ぐぅっ!」


 アケィラが空間異常を起こした何かを持ちこんで、それを自分で直したのならば仕掛けた可能性は考えるべきだろう。だがアケィラが修復したのは偶発的に起きたと誰もが分かっている既存の空間異常だ。しかもその直し方を教えた上に、実際にその方法で空間異常を直せているのだから疑う余地は全く無かった。


「絶対にありえない! そいつをワシの前に出せ! お前らに真実を教えてやる!」


 喚く教皇に対しアケィラを紹介する必要は今のところない。通信の直前にアケィラを参加させて欲しいという要望は来たが、参加させると明言はしていなかったのだ。


 国王はチラっとアケィラの方を見る。


「はぁ……」


 このまま何もせずに我関せずでいるのがアケィラの主義だ。

 面倒事になど関わりたくない。


 しかしアケィラは溜息をついて、国王の隣に移動したではないか。


「お前が詐欺師が!」

「クズに言われたくねーよ」

「なんだその口の利き方は!ワシを誰だと思ってる!」

「ただの犯罪者のクズジジイだろ」

「きさまああああああああああ!」


 国王と並ぶ権力者の教皇が相手であれば、アケィラの性格上は敬語を使って丁寧に接するはず。だがアケィラは明確な敵意をもって教皇を雑に扱った。


「敬う必要もないクズ相手なら、普通のことだろ」

「殺す!殺す!殺す!殺す!今すぐあいつを殺せええええ!」

「ぷっ、どうせまた暗殺者送って失敗するだけだろ」

「きいいいいいいいい!」


 徹底的に煽るアケィラ。

 カロール村に対する所業も、市民に対する不当な扱いも、何もかもがアケィラにとって気に入らない。


 そして何よりも、教皇のせいで面倒ごとに巻き込まれてしまったことが腹立たしい。


 これまでの鬱憤を晴らすかのように、アケィラは教皇に対して辛辣な態度を取り続ける。


「教皇に向かってその態度!万死に値する!神の裁きが……!」


 激昂していた教皇の言葉が突然止まった。

 何かに気付いたのか、必死に考えている。


 やがて最初の頃のように不敵な笑みを浮かべ、豪華な椅子に腰を下ろした。


「ふっ、興奮して済まなかったな。神の敵に遭遇したとなれば、敬虔な神の使徒として黙ってはいられなかったのだ」


 奇妙な変化を受けて、今度は王国側が警戒する。

 完全に王国側の思い通りに進んでいたが、それをひっくり返す方法を教皇が見つけたのではないかという嫌な予感がしたからだ。


「だがすぐに気付いた。愚かな者達を神は決して許さないであろうと」

「何が言いたい」

「神託があるのだよ。カロール村に教会の者以外が関わってはならないと」

「!?」


 教皇の言葉に王国側が体を強張らせた。


 神託。


 その一言で、これまでの優位が一気にひっくり返ってしまったからだ。


「神のお言葉を無視したとなれば、信者が黙っていないぞ」


 教会の信者は万を遥かに越えるくらい存在する。その多くが教皇のことを信じてはいないが、神託があったと聞かされれば従ってしまうだろう。その神託に真っ向から反抗するとなると、世界中の信者が王国に敵対するかもしれない。


 それだけ彼らにとって神託は重いのだ。


「そんな神託あるわけねーだろ」

「ふっ、愚かな。神託を疑うような輩などおらぬわ」

 

 たとえどれだけ教皇が胡散臭かろうが、神託があったと教会が発表したのであれば、それが本当に神の言葉である可能性が僅かにでもある限り、信徒は信じざるを得ない。


 追い詰められた教皇は神の力を借りて脅しをかけて来たのだ。


 苦し紛れの方法ではあったが、王国の面々は上手い返しを思いつかない。その空気を察した教皇は心にゆとりが戻り、逆転勝利したと内心喜んでいた。


 だがしかし。


「だからそんな神託あるわけねーだろ」


 アケィラだけは、この状況を逆境だなど全く思っていなかった。


「これだから無能は。貴様一人がそう思い込んだところで意味が無いことが分からないのか」

「思い込みとかじゃねーよ。あいつが(・・・・)神託なんか出すわけないって言ってんだよ」

「…………は?」


 何を言っているのか分からない。

 教皇の顔にはその言葉がペタリと張られていた。


 だがそれは教皇だけでは無い。

 国王も、宰相も、カミーラ達も、その場の誰もが疑問符を浮かべてアケィラをみた。


「俺以上に面倒臭がりなあいつが神託とか、マジ笑えるわ」

「何を……言ってる」

「断言する。あいつは絶対に神託なんか出さない」

「何を言ってるんだ!」


 教皇は激昂し、再び立ち上がった。

 それはまるでアケィラの言葉を勢い任せに否定したいかの様子だ。


 誰もが分かっていた。

 アケィラが何を言いたいのかを。


 そして誰もが信じられなかった。

 アケィラの言葉に含まれたある事実を。


 だがアケィラは動じない。

 それが真実だと堂々とした姿勢を崩さない。


 アケィラのことを深く知っている人々こそ、アケィラが嘘をついていないと分かってしまう。




「俺は神に会ったことがあるんだよ。何しろ異世界からの転移者だからな」

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転生でなく転移者か。姉との付き合いも転移してから、なんだな。 きっと、神と出会ってしまったことこそ、最大の失敗だったんだろうなあw
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