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異世界オープナー  作者: マノイ
王族になんて関わりたくない編

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24/44

24. 宿場町の少年と火事の家の玄関の扉

「おう、お前ら。今日はこの街に泊まるぜ」


 王都へ向かうアケィラ一行は宿場町で一泊することになった。


「宿場町って割りにはあんまり栄えてる感じがしねぇな」


 宿は多く飲食店も立ち並んでいるが、それ以外の商店はほとんど見当たらず露店も無い。大通りの先を見れば住宅街が広がっているが、更にその先の農場も遠くは無さそうで、街そのものがこじんまりとしている。


「そりゃあここは大きな街の真ん中にあるからな。買い物するならどっちかの街でするだろ」

「確かに」


 宿泊のついで買いの需要が見込まれないのであればわざわざ出店しに来ることは無いだろう。


「この街の特産品でもありゃあ話は別だろうが、この街の住人は仕事で住んでる奴がほとんどで町おこしなんてする気はこれっぽっちもねぇよ」

「建物が集まってるだけで正式には町じゃないってことか」

「そういうこと」


 工業団地のようなものなのだろう。

 実際、この宿場町に領主はおらず、王都の一部として扱われているらしい。


「この時期なら宿はどこでも空いてるから、好きなとこに泊まりな」


 てっきり先代領主と一緒に一番豪華な宿に強引に泊まらされるのかと思いきや選択肢を貰えたことに驚くアケィラ。しかし面倒なことには変わりない。


「よしアケィラ、あの宿に泊まろう」

「アケィラはあっちの宿に泊まるの」

「アケイラ君。良ければ僕達と一緒の宿に泊まらないか?」


 カミーラが、トゥーガックスが、勇者が一緒に泊まろうと誘ってくるからだ。


「俺が泊まる宿は自分で決め……あれ? 姉さんは?」


 てっきりエィビィが一番に誘ってくるかと思いきや、何もアクションが無かったことを訝しむ。周囲を確認すると、エィビィは輪郭が曖昧な存在感が薄い男から何かを受け取っているところだった。


「あれって母さんの使い魔じゃん」


 体全体が魔力で構成されている存在であり、単純なことしか出来ない。鳥型の使い魔が手紙を届けるというのが定番であるが、アケィラの母の使い魔は人型らしい。


「確か母さんって大切な荷物を運ぶのに使い魔使ってたよな。姉さんが受け取ったのは大量の書類かな。姉さんの嫌そうな表情から察するに領地運営の仕事な気がする」


 エィビィは領主であり、本来であれば何日も家を空けてなどいられない。代わりに両親が領地運営をしているが、重要な決裁はエィビィがやらなければならないのだ。仕事が山ほど溜まっていて、その一部を寄こしたのだろうとアケィラは想像した。


「姉さん、仕事?」

「ち、ちち、違うよ! アケィラちゃんと一緒のお部屋でのんびりしたいな~!」

「おいコラ、仕事はちゃんとやれ」

「いいいいやああああ!せっかくアケィラちゃんと旅してるんだから遊ぶの~!」

「母さんに怒られるぞ」

「…………仕事する」


 自由奔放に見えるエィビィがアケィラを放置して仕事するだなど余程のこと。どうやら二人にとって母親は恐怖の象徴でもあるようだ。


「んじゃ俺行くから」

「せめて同じ宿に泊まる!」

「待てアケィラ、私もいくぞ!」

「私も私も~」

「僕達もそうしよう」

「はぁ……一人しか空いてない宿ねぇかな」




 部屋からは絶対に出ない。


 熾烈なバトルの末、どうにか一人部屋を勝ち取ったアケィラは同行者達にそう伝えて引きこもった。


 と思わせて裏をかいて外出した。


「私この街の美味い店知ってるんだ。一緒に行こうぜ」

「カミーラの美味しいは脂っこいって意味でしょ。私ならバランスが取れた美味しい料理を出す店知ってるよ」

「なんでだよ!脂美味しいだろ!」

「程ほどならね~」

「どうしてこうなった」


 こっそり出てきたはずなのに、何故かカミーラとトゥーガックスがついてきた。魔力探知をして誰も近くに居ないことを確認して宿を出たはずなのだが、二人はアケィラの行動を予想して予め宿の外に出て、魔力探知から逃れるようにかなり離れた所でアケィラが出てくるのを待ち、出てきたところで猛スピードで駆け寄って来た。


 そんなことをしているからアケィラにストーカーだの言われるのである。


「ああもう煩い。腹なんて減ってねぇし、やっぱり部屋に戻……ん、ボール?」


 なんとなく大通りを住宅街の方に向かって歩いていたら、足元にボールが転がって来た。


「すいませ~ん!とってもらえますか!」


 前方を見ると、遠くの方で少年が手を振っていた。

 どうやら友達とボール遊びをしているようだ。


「あいよ!」


 アケィラはボールを拾うと、それを少年に向けて転がして返してあげた。


「投げないのか?」

「軽いボールだから空気抵抗を受けて遠くまで飛びそうに無かったんだよ」

「力が無いと大変だな」

「投げたら破裂させるよりマシだ」

「させないぞ!?」


 無意識に煽って来たがあっさりと返り討ちにあるカミーラ。

 なおトゥーガックスは非力組なのでアケィラの返し方に違和感を覚えず何も言わなかった。


 そんな三人は流れでなんとなく少年達の方へと歩いた。


 すると先ほどの少年がアケィラ達に気付き声をかけてきた。


 他の子供達よりも背丈が高く、兄が弟の面倒を見てあげているように見える。


「あ、さっきはありがとうございました」

「…………ああ」


 ボールを返した時は元気に対応してあげたのに、何故かアケィラが渋い顔をしている。


「どうしたんだアケィラ?」

「何かあったの?」


 カミーラとトゥーガックスは何も感じることは無い様子で、アケィラの変化を不思議に思い見ていた。


「…………」

「アケィラ?」

「お~い?」


 二人が声をかけてもアケィラは全く反応しない。

 少年も不思議そうに首をかしげている。


「お兄さんどうしちゃったんですか?」

「どうしちゃったんだろうな」

「私も分かんなーい」


 三人に観察される中、アケィラは僅かに目を細めてからようやく口を開いた。


「用事思い出したから宿に戻……」


 そして突然帰ると言い出したと思ったら、何かに気付いたかのように言葉を止めて辺りをキョロキョロと見始めた。


「この臭いは……」

「臭い?」

「何の事?」


 カミーラとトゥーガックスが鼻をスンスンさせてみるが、何も感じない。

 そんな二人を無視してアケィラは突然走り出した。


「お、おい!」

「どこ行くの?宿はそっちじゃないよ?」


 慌ててカミーラとトゥーガックスが追いかけるが、アケィラは彼女達の様子など全く気にせず、真剣な顔で何かを探している。


「どこだ。風向き的にはこっちだが、正確な場所が分からない。くそ、こうなったら……」


 アケィラは得意の魔力を全方位に飛ばし、何かを探し始める。


「あそこか!」


 そしてすぐに何かを見つけると走り出し、カミーラとトゥーガックスもそれについていく。


「あれ、焦げ臭い?」

「ほんとだ」


 するとカミーラ達も、異変に気付いた様子だ。

 走れば走るほど、焦げた刺激臭が強くなってくる。


「そういうことか!」

「アケィラの鼻ってすごすぎる!」


 アケィラの鼻が特別優れているというわけではない。

 カミーラやトゥーガックスであっても、微かに焦げ臭いかもと言われれば、集中することで気付けただろう。


 では何故アケィラがほんの僅かな焦げ臭さを知覚出来たかと言うと、とある理由で神経が鋭敏になっていたのと、些細な違和感を逃さないオープナーとしての癖のようなものがあるためだった。


「あの家だ!」


 アケィラが辿り着いた家からは、微かに黒煙が漏れ始めていた。


「火事か」

「消火なら私にお任せ!」


 魔法が得意なトゥーガックスであれば、水魔法で大量の水を生成して火事を消すことが可能だろう。

 しかしそのためには家の中の火災部分に水を入れる必要があり、家の一部を破壊するか玄関や窓を開ければならない。


「よし、私が玄関を破って……」

「待て止めろ」

「アケィラ?」

「中に人がいる。火事で家が脆くなってるから、お前の馬鹿力で開けたら家が潰れて中の人も潰れちまう」

「何だって!?」


 アケィラはここに来ると同時に家の中を魔力で詳細に調べた。

 すると横たわっている人の存在を感知し、しかも家の作りが粗悪であり今にも崩れ落ちそうだということが分かったのだ。


「じゃあどうすれば良い!?」

「俺が開ける」


 アケィラは魔力で玄関付近をもう一度確認する。


「鍵穴はシンプルな構造か。熱くなっているがまだ変形していないから、今ならまだ普通に開く」


 玄関が熱く火傷するかもしれないため、アケィラは手で直接触れずに、ピッキングツールを魔力で浮遊させて鍵穴に突っ込んだ。すると十秒もかからずに解錠された。


「よし、なら今度こそ私達が!」

「待て。バックドラフトが起きるかもしれん」

「バックドラフト?」


 説明している時間が惜しい。

 アケィラは魔力を使って玄関の扉を離れた所から僅かに開けて、酸素が一気に流れ込まないようにした。もしも一気に開けてしまったら、大量の酸素が入ったことにより火種が一気に燃え上がる危険性があった。


「トゥーガックス。あの隙間を狙って水を大量に入れられるか?」

「うぇ!? そんなのアケィラみたいな魔力制御お化けじゃなきゃ出来ないよ!」

「なら狙いは雑で良いからとにかく水を入れろ」

「わ、分かった」


 トゥーガックスは僅かに開いた扉の隙間めがけて、水魔法を放つ。


「ウォーターストリーム!」


 大量の水が川のように流れて扉に押し寄せる。

 すると当然その勢いに扉が閉まりそうになるのだが、アケィラが魔力で必死に支えて隙間をキープした。


「ぐっ……」


 物凄い圧力を必死に耐えるアケィラ。

 しんどい作業ではあるが、数十秒も耐えれば十分に水が中に入りバックドラフトは起きなくなるだろう。


「よし、もう大丈夫だ」


 アケィラが扉を開けると、中から大量の黒煙が出てくるが火が噴き出して来るようなことは無かった。


「後は頼む」

「任された!」

「行くよ!」


 ここから先は肉体労働が得意な二人に任せるべきだ。

 やるべきことを終えたアケィラは家から離れて二人を待つ。


「もう大丈夫です!」

「ヒール!他に痛いところは無い!?」


 するとすぐに中からおばあさんを救出した二人が出て来た。

 一安心したアケィラは二人に後をこっそり託して宿に戻ってしまった。


 それは火事の後始末が面倒だからという理由では決してない。


「危ない危ない。あのガキに捕まるところだった」


 アケィラを追って火事現場にやってきた、とある少年の姿が目に入ったからだった。


「服はボロいし、手足も土で汚してはいたが、肌質の良さやガキらしくない優雅な動きはどう見ても平民のものじゃなかった。しかも周囲にヤバそうな奴らがうようよしてやがった。強い護衛だらけで身分を隠して接触してこようとか、面倒ごとの予感しかしないわ」


 つまりそれに巻き込まれる前に逃げたかったのである。







「あ~あ、逃げられちゃいましたか」


 ボールを手にした少年は、それを地面に何度もバウンドさせながら呟いた。


「追いましょうか?」


 姿が見えない何者かが少年に向けて話しかけた。

 しかし少年はそのことを全く不思議に思わず自然に話し返す。


「ううん、止めておく。どうやら私の正体に気付いたみたいだからね」

「そうなのですか?」

「しかも君達のことまでバレてたんじゃないかな」

「…………ありえません。魔力探知は受けてませんでした」

「そりゃあ、怪しい奴らに囲まれてるかもしれないって気付いていて露骨に魔力で探るなんてマネはしないでしょ。君達に気付かれないような微量の魔力を放って周囲の状況を探ってたんだよ」

「…………」


 アケィラが少年と会った時に黙り込んでいたのは周囲を魔力で探っていたからであり、少年はそのことに気が付いていた。


「あの短時間で私の正体に気付く観察力。影に気付かれずに察知する魔力操作の精度の高さ。そして何より火事に気付き迷うことなく救助に向かった崇高な精神。どうやら噂に違わぬ人物のようですね」


 少年は満足そうに頷き、影は主を守るためにより一層精進せねばと誓う。

 そしてアケィラは宿で仕事に飽きた姉に抱き着かれながら寒気を感じるのであった。

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― 新着の感想 ―
逃げても隠れても、追ってこようとする人はいますねえ。 子供は果たして敵か味方か(貴族はみんな敵だな、彼にはw)
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