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異世界オープナー  作者: マノイ
貴族になんて関わりたくない編

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12/44

12. 騒がしい同級生と見覚えのあるパズル

「どの国に逃げよう」


 領主からの呼び出しを受けたアケィラは、本気で国外逃亡しようと悩んでいた。


「帝国は帝位継承のお家騒動で不穏な空気があるからパス。皇国はクソ教会の総本山があるからダメ。南部商業連合は安定しているが商売をするにはルールが厳しすぎるから無理。砂国は暑いから嫌だし、山岳公国は冬に雪が凄いらしいから論外。くっ……大国ではやはりここの王国が一番住みやすいのか」


 だがその王国の貴族に彼の実力が知られようとしており、平穏な生活が脅かされそうになっている。


「なら小国を探すしかないのか。だが小国は大国の気分次第で簡単に吸収合併滅亡してしまう。俺が死ぬまで安定してそうな小国などあるのだろうか」


 とはいえ平穏という望みを叶えるには調べるしかない。

 己の店で頭を抱えながらアケィラは進むべき道を悩み続ける。


「領主との面会までにはまだ時間がある。面倒だがその間に逃亡準備を始めないと」


 逃亡など平穏とは正反対の面倒な作業だが、流れるがままに任せていたらより面倒なことになるのは火を見るよりも明らかだ。


 果たしてこの世界にアケィラにとっての楽園は存在するのだろうか。


「む、誰か来るな」


 問題は山積みだが、オープナー・フルヤは現在も営業中である。裏の老婆など、近所の人が助けを求めにやってくるかもしれないので仕方なく開けている。


 その店に誰かがやってくる強い気配をフルヤは感じ取った。


「この気配はまさか!?」


 勇者達やカミーラのような面倒な相手だったら入ってくる前に鍵を閉めて閉店扱いにしてやろうと思ったのだが、予想外の人物であったため反応が遅れてしまった。


「アケィラアケィラアケィラアケィラ~!ひっさしぶり~!」

「うるせぇ!」


 扉が壊れるのではと思えるほどの勢いで飛び込んできたのは小柄な少女だった。


 アケィラはその人物のことを知っていた。


「相変わらずだなトゥーガックス」

「トゥーッス!」

「その挨拶も相変わらずだな」


 冒険者学校時代の同級生。

 カミーラと同じくアケィラを敵視せず、むしろうざいくらいに構って来た彼女は、小柄で見た目は幼く見えるがれっきとした成人女性だ。


「会いたかったよアケィラ!」

「俺は会いたくなかった」

「うんうん、アケィラも会いたかったんだね!」

「話を聞け」

「アケィラ~!」

「おいこら飛び掛かってくるなくっついてくるな!」


 だらしない顔をしてベタベタと体を触って来るトゥーガックスを、心底嫌そうな顔で引き剥がそうとするアケィラ。幼い見た目とはいえ美少女である彼女にくっつかれたら普通の男なら喜びそうなものだが。


「トゥーガックス!やっぱり来てたか!アケィラから離れろ!」

「あ、カミーラ、トゥーッス!」

「離れろって言ってるだろうが!」

「アーッ!酷いよカミーラ!せっかく再会を堪能してたのに!」


 トゥーガックスの後を追ってカミーラまでも店にやってきて、アケィラにべたべたする彼女の首根っこを掴んで力任せに引き剥がした。


「まったく、油断も隙もありゃしない」

「カミーラもやってみたら?」

「で、でで、出来るわけないだろ!」

「その様子じゃ全く進展してないみたいだね。そんなんじゃ貰っちゃうよ」

「俺を物みたいに扱うな。どっちにもやらん」


 女三人寄れば姦しいらしいが、たった二人なのに十分騒がしく疲れた顔をするアケィラ。傍から見ていると美女と美少女が取り合っていて羨ましい限りなのだが、トラブルを持ち込んでくるという大きなマイナス点のせいでアケィラの心が靡くことは今のところ無い。


「カミーラはトゥーガックスの気配を感じて追って来ただけだろうが、トゥーガックスは何しに来たんだ?というか俺の店をどうやって知った?」


 アケィラを巡ってバチバチなカミーラがわざわざ教えるとは思えない。だがトゥーガックスは偶然ではなく確信をもってこの店に走って来た。ということは誰かからこの店のことを聞いたのだろうか。


「探知魔法使ったらすぐに見つかったよ?」

「……そういやお前魔法チートだったか」


 広大な街の中から目的の人物を特定するなんてことはいくら探知魔法でも不可能である。魔力がいくらあっても足りないからだ。だがトゥーガックスは膨大な魔力と類まれなる魔法センスでそれをどうにか可能にしたのだろう。


「んで、戻って来たってことは稼ぎは終わったのか?」


 トゥーガックスの実家は貧乏男爵家であり、彼女はお金を稼いで実家を楽にさせるために冒険者をやっている。稼ぎ終わるまでは街に戻って来ないと宣言していたので、戻って来たということは稼ぎ終わったのだろう。


「終わったよ!」

「ならさっさと実家に帰れ。家族が待ってるだろ」

「帰るからアケィラ一緒に行こ!」

「なんでだよ!」

「家族に紹介して一緒に暮らすため……いだいいだい!カミーラ首が痛いよ!」


 カミーラによって掴まれていた首をより強く握られてしまったようだ。


「ぶーぶー、別に良いじゃん。結婚してよ。アケィラが一緒ならパズルの話が出来るから楽しいんだもん」

「そんな理由で結婚しようとするな」

「それだけじゃないよ。アケィラのことちゃんと」

「それにそういうのは俺を楽しませてから言え。お前がもってくるパズルを楽しめた覚えが無いんだが」


 学生時代、トゥーガックスが何度も新作パズルを持ってきてアケィラに挑戦したが、その悉くを即行で解かれてしまった。頭を悩ませる楽しみを与えてくれないのに、自分だけが楽しいから一緒に暮らしたいというのは間違っている、と言われれば確かにそうかもしれない。


 アケィラが本当に楽しくないと思っているかどうかは別として、だが。


「ふっふっふっ、そう言うと思って持って来たんだよ」

「何?」

「探索中ずっと暇だったから考える時間はたっぷりあったんだ」

「探索に集中しろ。まったくカミーラといいトゥーガックスといい、どうしてもっと安全に探索しようとしないんだ」

「心配してくれるの?」

「一般常識だ」


 ふんと不機嫌そうに装うアケィラの様子をトゥーガックスはにまにまと見つめて満足そうだ。


「まぁ良いや。今回の新作だけど凄いんだよ。なんと時間をかければ誰でも解けるんだ!」

「それは面白いのか?」

「工夫すれば少し早く解けるってとこがポイントだよ。それに少しずつ解けてるって実感できるのがハマっちゃうポイントなんだ」

「お前のその一般受け難易度に拘る姿勢は素直に賞賛するわ」


 難解すぎるパズルを考えようと思えば案外簡単に作れるものだ。大事なのは程よい難易度のパズルを作ることで、これが難しい。しかも彼女は頑張れば誰にでも解けるけれど、パズルが得意なアケィラにも頭を悩ませてもらいたいという難題に挑んでいるのだ。


 自分が作ったパズルを万人に遊んでもらいたい。

 アケィラにも楽しんでもらいたい。


 アケィラに解かれまくると難易度を極端に上げたくなるものだが、決してそうはせずに理想のパズルを求めて考え続ける姿勢をアケィラは『オープナー』として好ましく思っていた。


「じゃあこれを見て、その賞賛を好意に変えちゃえ!」


 トゥーガックスはアイテムボックスからあるものを取り出し、カウンターの上に置いた。


 高さ十センチ、横幅五十センチ、縦幅ニ十センチくらいの真っ白な直方体の箱だ。

 蓋の部分が少しだけ凹んでいて、何かを置けそうな感じである。


「結構大きな箱だな。これを開ければ良いのか?」

「ちっちっちっ、それだけじゃ開かないんだよね。これも必要なんだ」


 トゥーガックスは更にアイテムボックスから、あるものが入った袋を取り出した。


「その中に入っている物を、蓋の窪みに綺麗にそろえて並べると箱が開く仕組みになっているの。面白いでしょ!」

「ほうほう。一体何を並べろって言うんだ?」


 アケィラは袋を開き、中に入っている物を一つ取り出した。


 それは指でつまめるサイズで、凸凹した形の平らな硬い紙のようなものだった。

 それぞれ異なる色が塗られていて、それ単独では何の絵柄なのか良く分からない。


「ふむふむ。なるほど」


 アケィラはそのパーツを袋から全部取り出し、一辺だけ凸凹が無く真っすぐな特殊な形状の物だけをピックアップした。


 その様子を見たトゥーガックスが青褪める。


「どうして見ただけで解き方が分かるのよ!」


 どうやらアケィラの作業はこのパズルの正しい解き方だったようだ。


「(いやだってこれ、ジグソーパズルだろ。普通に知ってるやつだったし)」


 アケィラは四隅のピースを見つけるとそれを蓋の隅に置き、トゥーガックスを見る。


「ここから先は淡々と嵌まるところを探すだけだが、どうする?」

「ぐやじいいいい!」


 さめざめと悔し泣きするトゥーガックスの様子に、流石のアケィラも可哀想に思えて来た。これまで彼女が作ったパズルは未知のものばかりで多少は考えて解いたが、今回のパズルは彼女が長期間かけて考えて思いついたのに知っていたから考えることなく解法を見つけてしまったからだ。


「そう悲観するな。これは売れるぞ。商業ギルドにでも持ち込めば大金で権利を買ってくれるだろ。実家の助けにもなるだろうさ」

「それはそうかもしれないけど!そうじゃないんだって!アケィラを楽しませたかったのに!」

「お、おう、そうか」


 このままでは面倒な絡み方をされてしまうかもしれない。


 嫌な予感を覚えたアケィラは強引に話を変えることにした。


「そうだ。トゥーガックスはこれからどうするんだ?」

「だからアケィラを連れて実家に……」

「そういうのは良いから。というか俺が断るの分かってただろ。それなら別にやること考えてるはずだ」

「もう少し冒険者を続けて稼ぐつもりだよ。お金はいくらあっても困らないもん」


 彼女が稼いだお金で実家の領地が持ち直したとしても、今後飢饉などの危機に襲われるかもしれない。それに元々が貧乏領なのだ。何もしなければまたお金が減って行くことは目に見えていた。それなら稼げる今のうちに蓄えておくべきというのは当然の考え方だろう。


「じゃあまたどっかに行くのか」

「ううん。急ぐ必要が無くなったから、アケィラがいるこの街を拠点にダンジョンにでも潜ろうかと思ってる」

「別に俺は関係ないだろ」

「またまた照れちゃって~」

「うざ」


 心底嫌そうにするアケィラだが、自分に迷惑をかけなければ彼女達の未来を心配する気持ちはある。そしてその心配の中にずっと解決できず困っていたことがあったのだが、彼女の登場によってそれが解消されそうだ。


「ならカミーラとパーティーを組んだらどうだ?」

「え?」

「絶対に嫌だ!」


 突然の問いかけにキョトンとするトゥーガックスと、断固拒否の姿勢を見せたカミーラ。


「それともカミーラみたいな地雷女は嫌か?」

「地雷じゃない!」

「ううん、嫌じゃないよ」

「あれ、そうなのか?ケンカばかりしてるからてっきり嫌かと思った」


 どうやら学校でもこの二人は仲が良かったとは言い難い関係だったらしい。


「カミーラがケンカ売って来てるだけで、こっちは気にしてないよ。むしろ同じ人を好きになった者同士で仲良くしたいって思ってる」

「そ、そそ、そういう冗談は良くないぞ!」

「冗談じゃないんだけどな。どっちが第一夫人になるかは譲れないけど」

「アケィラは私だけのものだ!」

「いや、俺は俺の物だ。勝手に所有権を主張するな」


 好きとか結婚とか、はっきりと好意を示されているのにアケィラは相変わらず冷たい対応だ。

 トラブルメイカーである彼女達への好感度が低いというのもあるが、じゃれているだけで本気だと思っていない鈍感さがあるのかもしれない。


「カミーラ。こいつとパーティーを組めばダンジョン深層に入っても怒らないぞ」

「何!?」

「パートナーが見つからなかったんだろ。こいつとなら付き合いも長いし上手くやれるんじゃないか?」

「ぐっ……確かにトゥーガックスなら相性は悪くないが……」


 物理のカミーラに魔法のトゥーガックス。

 前衛と後衛で綺麗に役割分担が出来て、二人という少なさも高い実力でカバーできる。


 カミーラが安全にダンジョン深層を探索するにはうってつけの人物だった。


 恋のライバルであるという点を除けば。


「カミーラが良いならこっちは問題無いよ」

「…………少し考えさせてくれ」


 カミーラがパートナーを作らなかった理由の一つに、アケィラに女性を近づけさせたくないという思惑があったからだ。もしもパートナーを作ったら、何かの拍子にアケィラと会ってしまい意気投合してしまうかもしれない。かといってパートナーにアケィラ以外の男性を選ぶなどあり得ない。ゆえにカミーラはソロを続けていた。


 だがその相手がトゥーガックスとなれば話は別だ。すでにアケィラの知り合いであり、戦いの相性が良く、そして何よりも一緒にダンジョンに潜ることで、目を離した隙にアケィラにアプローチされる危険が無くなるのだ。


 もしここで断ったら、カミーラはトゥーガックスに先を越されるのが心配で街を離れられなくなってしまう。


 結果として彼女はこの案を飲むしか無い。


 そして彼女達がパートナーシップを結ぶことは、実はアケィラにも大きなメリットがあった。


「(くっくっくっ、流石のこいつらも深層まで行くならそれなりに時間がかかるに違いない。他国に逃げようとしてもこいつらがついて来そうでどうするか悩んでいたが、これでこいつらからもおさらば出来るぜ)」


 突然のトゥーガックスの来訪に、面倒な奴がまた増えたと落ち込みかけたアケィラだが、久しぶりに思うように事態が運んだとほくそ笑むのであった。

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― 新着の感想 ―
さて、そう思い通りに事が運ぶものかw だいたい思惑って裏目に出ているんですけれどねw
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