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異世界オープナー  作者: マノイ
戦争になんて関わりたくない編

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10. 魔人と爆弾

「ふわぁあ、眠い」


 いつもの通りに眠そうなアケィラ。

 だが外はいつも通りでは無かった。


「決戦が始まったか。わざわざ知らせに来なくも良かったのに」


 先日勇者が店に訪れ、戦争の開始を伝えに来たのだ。


『絶対に勝って帰ってきますから、安心して待っててくださいね!』

「どいつもこいつもフラグ立てやがって!」


 戦争と関わりたくは無いが、普通に心配はする。それがたとえ最強の勇者で、これまた関わりたくない相手だったとしても。つまりはアケィラはそういう人間なのだ。


「知らなきゃこんなイライラもせずに安眠できたのに。チクショウ」


 眠くはあるのだが、カウンターに突っ伏して寝てしまうような気分には全くなれない。

 それなら真面目に営業すれば良いかと思えばそれも違う。


「どうせ客なんて来ないだろうし、どうすっかな」


 戦争中により住民は戦争に駆り出されているか避難している。

 こんな時に何かを開けて欲しいだなんて客が来る訳が無い。


 営業する意味が無い。

 かといって眠る気にもならない。


 そんなアケィラが何をするのか。


「決めた。色街へ行こう」


 戦争の様子が心配で寝る気になれないのにエロは良いのか。

 アケィラは最高のアイデアを思いついたと言わんばかりの満面の笑みで店を閉め、外へと飛び出した。


「人が全然いねぇ」


 いつもは活気に溢れている大通りに人影がほとんどない。

 たまに見かけても足早に買い物に向かう人や街を守る衛兵達であり、ピリピリした様子が伝わってくる。


 オープナー・フルヤにまで届くほどの喧騒は鳴りを潜め、深夜であるかのようにシンと静まり返っている様子は不気味であり、否応が無しに今が戦時中だということを意識させられる。


「俺みたいな弱者は、ひっそりと日常を謳歌させてもらうさ。命を懸けて戦ってくれる戦士達に感謝感謝」


 その感謝の裏でエロを堪能するのはいかがなものかと思わなくも無いが、変な話では無い。

 戦争に負ければ大軍がこの街を襲い蹂躙されてしまうのだ。それに勝ったとしても多くの犠牲者が出て、その中には知り合いが含まれているかと思うと不安と心配でたまらない。それを耐えるために強烈なエロという快楽の力を借りるのは精神安定の手段としてありえるのだから。


「これだけ人が少なければ、人気の子が選び放題だよな。ぐへへ」


 遠くから見ることしか出来ないへたれが、人気の子に会えるのだろうか。

 いや、そもそももっと根本的な問題があった。


「なん……だと……」


 がっくしと肩を落とし項垂れるアケィラ。

 彼の目の前には『色街休業中』の看板が。


 そりゃあそうだ。

 色街の従業員だって避難していて、仕事どころではない。


 まるでこの世の終わりかのように絶望するアケィラだが、彼を良く知る者がみたら違和感を覚えるだろう。


 果たして本当に彼がそのことに気付いていなかったのだろうかと。

 そしてがっかりする様子があまりにも演技臭いと。


「はぁ、しゃーない。少し散歩でもして帰るか」


 それが結果として街の見回りになっているのは偶然かはたまた。




「疲れた。ちょっと休もう」


 街の中央に位置する、噴水と花時計が人気の緑豊かな中央公園。

 その噴水近くのベンチでアケィラは休憩していた。


「こんなに街を見たのは久しぶりだな」


 冒険者学校に通っている時は寮に住み、今は店内でほぼ引きこもりのような生活をしていて偶に買い物や食事に行くとしても同じ店ばかり。街を堪能するといった気持ちを忘れていたアケィラは長年住んでいる街にも関わらず観光気分だった。




「にしても、やっぱり雰囲気は地球とあんま変わらないな」




 街の様子を思い出しながら、同時に記憶の中の風景を思い出して比較する。そこには大きな違いがあったが、大きく一致する点も多かった。


「やっぱり魔道具が発達してるのが大きいな。電灯もあるし、上下水道も整備されてるし、製品の大量生産も出来てるし、馬車じゃなくて魔道車使われてるし、個人の車とか新幹線みたいな移動手段以外は大して現代と変わらないんじゃないか?」


 実際にこの街の写真を見せてヨーロッパの地方都市だと説明しても信じてもらえるだろう。


「俺としては住みやすくて大歓迎だがな」


 せっかく異世界に来たのに現代と似ているだなんてつまらないと思う人もいるかもしれないが、それはあくまでも物語を読む側や観光気分の者だけだ。実際に住むとなるとあまりにも不便でありストレスが溜まりに溜まってしまうだろう。その点、アケィラは運が良かったと言えよう。


「さてと、眠いけど腹が減って来たし、そろそろ店に戻るか」


 大通りと同じで普段は賑わう公園内はあまりにも静かで、風が心地よく寝てしまいそうだ。

 だがそれを空腹感が拒絶してきたため、アケィラは仕方なく移動することにした。


「せっかくなので花時計でも見てこうかな」


 立派な花時計も、人がいない今なら独り占めだ。

 存分に堪能できるだろう。


 本当にそれだけだった。

 何かを感じたとかそういう意図は全く無かった。


 だがアケィラの運は引き当ててしまう。


 彼にとっての最悪を。

 周囲にとっての最善を。


「うわぁ、マジかよ」


 アケィラがそこで見たのは、花時計の花壇部分でしゃがみ何かをやっている怪しい男。

 とっさに眼に魔力を籠めてそれを見たら、人間に敵対している魔人が変装している姿であることがすぐに分かってしまった。


 このタイミングで戦争相手が街に紛れこんでいるなど、嫌な予感しかしない。


 アケィラがついに戦闘する時が来たのだろうか。

 いや、彼はこうなることを予感して策を練っていたのだ。


 アケィラは魔人に気付かれないように急いで走る。

 花時計とは別の場所へと。


「衛兵さん。あっちに敵がいました!」

「何だと!?」


 アケィラは街を巡回している衛兵の場所を覚え、彼らから大きく離れないように移動していたのだ。何かあった時にすぐにこうして報告できるように。


 自力で戦うつもりなど毛頭なかったのだ。


「案内しろ!」

「はい!」


 衛兵を連れて花時計に戻ると、件の魔人はいなくなっていた。

 だが周囲を見渡すと、花時計から離れて去ろうとしていた男を見つけた。


「あの男です!」

「普通の男に見えるが?」

「俺って魔力を使って変装を見破ることが出来るんです。あれは間違いなく魔人です」

「そうか、分かった」


 衛兵は仲間を呼ぶと、その男を一斉に囲んだ。


「な、なんだ!?」

「少しお話を聞かせて貰おうか。魔人殿」

「ぐっ……何故バレた!」


 正体を全く隠すことなくすぐに認めてしまってしまった。

 だがそれは魔人が馬鹿だからという訳ではない。


「お前らのような雑魚が俺様を止められると思ったか!」


 己の力に自信があり、魔人を囲む衛兵たちの実力がそれほど高くないと気付いていたからだった。


「ふはははは!俺様の正体に気付いてしまった愚かさを悔い、死ぬが良い!」


 魔人は変装を解き、平凡な男性の姿から筋肉質な男へと変化する。

 肌の色が少し濃くなり、頭上に二本の角が生え、そして何よりも獣のような獰猛な表情が衛兵たちを震え上がらせた。


 そんな彼らを撃破しようと魔人は体内の魔力を使い魔法を放とうとする。見た目は武闘派だが魔法使い寄りなタイプだったらしい。


「人間など我が魔力で…………ぬ!?」


 しかしここで魔人に異変が起きる。


「何故だ!何故魔力が使えん!」


 どれだけ力を籠めても、身体の中から魔法の発動に必要な魔力が出て来ないのだ。


「ならば自然の魔力を……何故だ!何故集まらん!」


 体内の魔力がダメなら、そこら辺に漂っている自然の魔力を集めて魔法を使おうとしたが、何故かそれも集まってくれない。


「今だ!」


 もちろんそんなチャンスを衛兵たちが見逃すはずが無い。

 動揺している魔人の隙を突き、一斉に斬りかかった。


「ぎゃああああ!」


 圧倒的に優位な状況だと油断していたこともあったのだろう。突然魔法が封じられたことによる動揺も重なり、魔人は弱者である衛兵たちにあっさりと敗れてしまった。


「くそ……何故だ……何故……ま……ほ……う…………が…………」


 魔人は最後まで己に起きた不具合の理由に気付かなかった。

 そして命の灯が消えた後、魔人の身体をこっそり覆っていた誰かさんの魔力が消えたことに、気付く者もいなかった。


「よしよし。これで手柄は全部衛兵のものだ。あいつを見つけたことで多少は俺も感謝されるだろうが、俺は報告しただけで一番危険な戦闘は衛兵がやったことになる。注目は間違いなくあっちに向かうだろう」


 戦闘結果を花時計の所から眺めていたアケィラは、目論見通りにことが運んだことにほくそ笑んだ。


 確かにこのままなら彼の思い通りに進むだろう。

 だが運命が彼を放置することは無かった。


「あれ、何だこの気配は?」


 安心したのも束の間、アケィラは花時計の花壇の中から異様な魔力を感知してしまった。

 そこは魔人が何か細工をしていた場所であった。


「衛兵に任せる……いや、これはあいつらには荷が重そうだ」


 魔人と相対していた時の衛兵の様子は、戦い慣れしているとは言い難い物だった。

 あれでは火事場泥棒を狙った小悪党しか捕まえることは出来ないだろう。


 恐らくはそれこそが本来の巡回の目的で、後は何かあった時に街の人を避難誘導するかかりくらいの役割しか無いのかもしれない。


 つまりは厄介な魔力に対処するなど不可能だと言うこと。


 仕方なくアケィラは花壇をかき分け、妖しい魔力の出どころを確認した。


「おいおい、マジかよ」


 そこに置かれていたのは宝石箱程度の小箱だった。

 その小箱は蓋が開かれていて、中には魔道具に良く使われ、魔力伝導率が高いとされている魔力導線が張り巡らされていた。


 それが何なのか。

 アケィラが魔力を集中させた眼でそれを見るとすぐに理解できた。


 そしてアケィラ以外も、知識としてソレを知っている人物が近くにいたようだ。


「ば、ばば、爆弾だ!」


 魔人を撃破した衛兵の一人だ。


「爆弾だと!?」

「本当なのか!?」

「勘違いだったらシャレにならねーぞ!」

「ほ、本当だって!俺、魔道具が好きで図書館で色々な魔道具の本を良く読んでるんだ。その中にそれと同じ爆弾が書かれてた!見間違いじゃねぇ!」


 大騒ぎする衛兵たちに気付いたアケィラは、焦った様子で彼らに振り向いた。


「何でお前らここにいるんだよ!」

「何でって、通報したお礼を言いに来たんだ。そしたら君が花壇を調べてるから気になって」

「ぐっ……チクショウ!」


 これでこっそり爆弾を解除するという手段はとれなくなった。

 だがそれならそれで先ほどと同じ手段を取れば良い。


「衛兵にこれを解除できる奴はいないのか!?冒険者ギルドでも何でもいい!」

「そんな奴、とっくに戦争に向かってる!」

「だよなぁ」


 爆弾を解除可能なスキルは罠解除スキルである。

 そしてそのスキルは基本的にダンジョンに潜り様々な罠と関わることで覚えられる。ダンジョンに潜るということは戦闘もするということであり、戦闘スキルを持っていたり戦闘能力がついている。万を越える大軍と戦うには一人でも多くの人員が必要であり、そんな人物は間違いなく戦争に駆り出されているだろう。


「仮に居たとしても今から探して間に合うかどうか……」


 爆弾は今にも爆発しそうな不穏な魔力を放ち始めている。

 今すぐにでも対処しなければならない。


「に、にに、逃げないと」

「逃げるったって、この爆弾、そもそもどのくらいの威力があるものなんだ?」


 その疑問を聞いたアケィラはピンと来た。

 目立たず解決する方法があるのではないかと。


「魔力で見た感じ、この公園が吹き飛ぶくらいじゃないかな。だからこの公園から避難して誰も入れなければ良いと思う」


 そして衛兵と共に逃げた後、こっそりと彼らから逃げて中に入り、爆弾を解除すれば良い。

 だが残念ながらアケィラのその企みもあっと言う間に打ち砕かれる。


「いや違う。俺が見た文献では、そいつの威力はこの街全体を吹き飛ばす程の威力がある!」

「解除できない癖に詳しいだけのやつがいるとか卑怯だろ!」

「ひい!ご、ごめん?」


 理不尽な怒りを受けた衛兵は反射的に謝ってしまったが、何故謝らなければならないのかが分からず疑問形だった。


「くそ、魔力タンクがあれば強引に抑え込んで誤魔化せたかもしれないのに」


 ミュゼスゥを救うために長年コツコツと溜めていた魔力タンクは空になってしまっている。

 アケィラ自身の魔力量はそれほど多くないため、力技で抑え込むのは無理な話だ。


 魔人の魔力を抑え込んだのは力技ではなくテクニックであるが、爆弾相手にそのテクニックは通用しない。


「ど、どど、どうする!?」

「どうするったって、逃げるしかないだろ!」

「間に合うか!いや、間に合わせるんだ!」

「避難を!避難を呼びかけるんだ!」


 パニックになりかける衛兵達。

 爆発までの時間が刻一刻と迫っている爆弾。

 目立たず面倒なことはせず平穏無事な毎日を送りたいアケィラ。


「くそおおおおおおおお!」


 何を優先すべきかなど明らかだ。

 そのために平穏が犠牲になるとしても、アケィラは決して一人で逃げるようなことはしない。


「お、おい、何をしようとしてる!」

「馬鹿!止めろ!そいつは魔力に触れると起動しちまうんだよ!」

「知ってるわ!魔力を使わずに解除すれば良いんだろ!」


 宝石箱にレア食材入り小箱。

 偶然にも最近、魔法を使わずに箱を開けた経験が二回もある。


「爆発を阻止可能な場所が複雑に絡み合った魔力導線でロックされている、とでも思うことにするか」


 解除と解錠は全くの別物で本来であれば専門外の作業。

 だがそれをアケィラは強引に解錠に結び付けた。こんな時でも言い訳をしてしまうということは、彼なりの強いこだわりがあるのだろう。


 アケィラは何処からか、いや、アイテムボックスから工具を取り出した。

 今回使うのはハサミだ。


「もうこれは爆発寸前だ。だから今から俺が解除する」

「出来るのか!?」

「知らん。どっちにしろ誰かがやらなきゃこの街は終わりだ」


 それに戦争に向かった人々も、背後が襲われたことに動揺して敗北してしまうかもしれない。ここでこの爆弾を解除することは、この街の、あるいはこの国の命運に関わるかもしれないのだ。もちろんそんなことを説明してこれからやろうとしていることの価値を高めることなどするつもりはない。


「集中」


 爆弾内部の魔力の動きをじっくりと観察し、どの魔力導線が何の役割を果たしているのかを急ぎ特定する。


「チッ、ダミーが山ほど用意されてやがる」


 決まった順番で解除しなければ、一瞬でドカンだ。

 もちろん時間をかけすぎればそれもドカンだ。


「あの魔人は爆発に巻き込まれたくなかったはず。だとすると爆発の範囲外にあいつが逃げるまでは爆発しないだろう。ここから街の外まで歩いて逃げる時間を考えると……やばいな、そろそろ手を付けないと間に合わない」


 出来れば何度も何度も確認して確実に解除したい。

 だがそのダブルトリプルチェックをする時間は残されていないらしい。


「ふぅ……」


 失敗したら全てが終わる。


 自分の命も。

 街の人達の命も。

 戦争に向かっている人達の命も。


 とてつもない緊張感で心臓が痛いくらいに高鳴っている。

 吐きそうで、めまいがして、今にも倒れてしまいそうだ。


 だがそれでも、アケィラはやらなければならない。


「こんなの俺のキャラじゃないっつーの」


 彼を良く知る者が聞いていたら全力で否定しそうなセリフを口にし、ついにハサミを一本の魔力導線に向けた。


「ひい!」


 衛兵がビビる声と、パチンという音が重なった。


 爆発はしない。

 セーフだ。


「あれとあれが繋がっていて、あれがダミーで、あれが本命だから、あれがこうなって……次はここか」


 複雑な魔力の迷路を辿り、正解を導く。

 限られた制限時間の中、アケィラは最大限に集中して一本、また一本と切断する。


 最初の頃はその度に怯えていた衛兵達は、慣れたのかもう声を出さず固唾を飲んで見守っていた。


「よし、ここまで来た」


 残った魔力導線は残り三本。


 一本の白い線は最後に残さなければならないことが確定。

 残りの赤と青の二本のどちらかを切断すれば爆弾は解除される。


 だがここが最難関だった。


「カモフラージュが上手すぎる。特定間に合うか?」


 魔力導線を通っている魔力そのものにも多くのダミーが仕込まれていて、どれが正しいのか特定することが非常に困難だ。恐らく他の全てが解かれても、ここだけは解かれまいと念入りに仕掛けがなされているのだ。


 アケィラは時間ギリギリまでそれらを視る。

 視て、潜り、からくりの真実を解き明かそうとする。

 閉じられた解を導き出さんとする。


 オープナー・フルヤとしての能力を最大限発揮する。


 だが後一歩のところで問題が起きた。


「ひい!」

「何だお前らは!」


 爆弾に集中していたアケィラと衛兵達。

 いつの間にか彼らは囲まれていたのだ。


「悪いがそれを解除させるわけには行かない」

「ゲッゲッ、魔王様のために死んでもらうぜ」


 それは先の魔人と同じく、人に変装していた魔族達だった。

 とはいえ、魔人よりも遥かに弱い、意志を持った魔物であるが。


「何を言ってる!ここで爆発したらお前らだって死ぬんだぞ!」

「それがどうした」

「我らの命は魔王様の物。魔王様のお役に立てるのであれば本望だ」

「くっ……命を捨ててでも邪魔する気なのか!」


 衛兵達が武器を構え、アケィラを守りながら魔族を迎撃しようとする。

 だが残念ながら衛兵は強くは無い。しかも魔族達は命を捨てて特攻し、衛兵に攻撃されても無視してアケィラを止めようとする。


「しまった!」

「行かせるな!」

「ダメです!勢いが強すぎて!」

「くそぅ!」


 衛兵たちは軽々と突破され、魔物達の刃が、牙が、アケィラに襲い掛かる。




「ぎゃあああああ!」

「ぐげぇ!?」

「ぶぎゃっ!」




 だがその攻撃が彼に届く寸前、全ての魔物達は一瞬で身体を切り刻まれて絶命した。


「悪いな。遅れた」

「おせぇよ」


 そこには深紅の髪をなびかせた女戦士が立っていた。


 アケィラは背後の状況を理解していたが全く焦ることは無く、爆弾の解析にのみ意識を集中させていた。それはたとえどれだけのピンチが訪れても、絶対に大丈夫だという確信があったから。


 やるべきことをやれと突き放した彼女が、やるべきことをやるために来てくれると分かっていたから。


「よし、分かった」


 もしもアケィラが彼女を信じていなかったら解析は間に合わなかっただろう。


 残り数秒。

 カウントダウンが表示されてはいないが、アケィラだけはそれが奇跡的にギリギリだったことを知っている。


 だがそれでも彼は己の力を信じ、優しくハサミを操作し、助けに来た彼女と同じ深紅の線を切ったのであった。


「滅茶苦茶良いところで助けに来たのに、縁を切られたみたいで最悪な気分なんだが」

「俺は最高な気分だ」

「なんだと!?」


 久しぶりのカミーラとのやりとりをうんざりした(てい)を装いながら堪能しているアケィラだが、まだやらなければならない大事なことがあった。


「やったー!」

「うおおおお!」

「神よ!感謝致します!」


 爆弾が解除されたことを大喜びする衛兵たちの口を、どうにかして塞がなければならないのだ。


 平穏な日々をこれからも続けるために。

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― 新着の感想 ―
最後は必ず赤か青w 時計式なら、針を指で押さえたら起動しないんじゃないのといつも思う。 魔力式なら、魔導書と同様に魔力だけ抜けたりしたら良いのにね。
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